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ぎりぎりです。
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お姉様に支えられた私を、ミュリエルが驚いて固まっている。
この場から、泣きながら走り去ろうとしていた彼女だけれど、大きな瞳には心配の色が浮かんでいる。
だから私は、お姉様から離れ、そのまま彼女に歩み寄り、その手をとった。
突然の事でまだ頭は痛むけれど、かまっていられない。
そう、ここで彼女を走らせちゃ、駄目。
この場から離れてもらっては困るの。
ずくん、ずくんと痛みを訴える頭を無視して、私は侯爵令嬢の意地でもって笑顔を作る。
ほんのちょっと、後ずさりしかけるミュリエル。
でも私は、彼女の手を両手で包み込むように握り、決して離さない。
「ミュリエル=フォンダン男爵令嬢ですわね?」
「は、はいっ。ミュリエルです。あの……」
「そのドレス、とても素敵ですわね」
手を離してくださいと繋がるであろう言葉を、私は遮る。
「ほ、本当ですか?」
「えぇ。もちろんよ。
ごめんなさいね、あまりにも驚いてしまって、淑女としてはしたない所をお見せしてしまったわ。
貴方のドレスは細部まで丁寧に刺繍が施されていますのね。
王都でもこれほど丁寧な刺繍は見かけませんわ」
いきなり声を上げてよろめいたのに、次の瞬間強引に彼女に近付いて手を握る私。
はっきりいって異常な状況だと思う。
主催のバーレンダ伯爵令嬢はもちろんの事、周りのすべてのご令嬢達が唖然としている。
ルシアンお姉様だけは、あまり表情が変わっていないけれど。
内心は、驚いていると思う。
でも私は、前世を思い出してしまった私は、周囲の目よりもミュリエルの行動がいま一番大事。
彼女の行動次第で、このティアレット王国が滅ぶか否かの瀬戸際なのだから。
「嬉しい、です……っ」
奇行ともとれる私の行動に回り中が引く中、ミュリエルだけは、ぱっと顔を輝かせた。
彼女が着ているワンピースは、彼女にとってはたった一つのドレスなのだ。
貴族としては質素な、ぎりぎりドレスともいえるそれは、お針子をしていた彼女のお母様が、ミュリエルの為だけに作った世界で唯一つの特別なお洋服。
ピンクはピンクでも、淡い色から濃い色まで、様々なひし形のピンクの布地をパッチワークし、その一つ一つに小花の刺繍が刺されている。
ミュリエルの背がもっと伸びても着れる様に、サイズ調整もできるようにデザインされている。
今日初対面の私が、何でそんな事を知っているかって?
たった今、思い出したからよ。
「このドレスは、お母様の形見なんです。褒めていただけて、すっごく、嬉しい……っ」
さっきまでとは違う、嬉し涙を滲ませながら、ミュリエルは笑う。
その笑顔を見て思う。
……あぁ、私。
ぎりっぎり、間に合ったわ。
この場から、泣きながら走り去ろうとしていた彼女だけれど、大きな瞳には心配の色が浮かんでいる。
だから私は、お姉様から離れ、そのまま彼女に歩み寄り、その手をとった。
突然の事でまだ頭は痛むけれど、かまっていられない。
そう、ここで彼女を走らせちゃ、駄目。
この場から離れてもらっては困るの。
ずくん、ずくんと痛みを訴える頭を無視して、私は侯爵令嬢の意地でもって笑顔を作る。
ほんのちょっと、後ずさりしかけるミュリエル。
でも私は、彼女の手を両手で包み込むように握り、決して離さない。
「ミュリエル=フォンダン男爵令嬢ですわね?」
「は、はいっ。ミュリエルです。あの……」
「そのドレス、とても素敵ですわね」
手を離してくださいと繋がるであろう言葉を、私は遮る。
「ほ、本当ですか?」
「えぇ。もちろんよ。
ごめんなさいね、あまりにも驚いてしまって、淑女としてはしたない所をお見せしてしまったわ。
貴方のドレスは細部まで丁寧に刺繍が施されていますのね。
王都でもこれほど丁寧な刺繍は見かけませんわ」
いきなり声を上げてよろめいたのに、次の瞬間強引に彼女に近付いて手を握る私。
はっきりいって異常な状況だと思う。
主催のバーレンダ伯爵令嬢はもちろんの事、周りのすべてのご令嬢達が唖然としている。
ルシアンお姉様だけは、あまり表情が変わっていないけれど。
内心は、驚いていると思う。
でも私は、前世を思い出してしまった私は、周囲の目よりもミュリエルの行動がいま一番大事。
彼女の行動次第で、このティアレット王国が滅ぶか否かの瀬戸際なのだから。
「嬉しい、です……っ」
奇行ともとれる私の行動に回り中が引く中、ミュリエルだけは、ぱっと顔を輝かせた。
彼女が着ているワンピースは、彼女にとってはたった一つのドレスなのだ。
貴族としては質素な、ぎりぎりドレスともいえるそれは、お針子をしていた彼女のお母様が、ミュリエルの為だけに作った世界で唯一つの特別なお洋服。
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たった今、思い出したからよ。
「このドレスは、お母様の形見なんです。褒めていただけて、すっごく、嬉しい……っ」
さっきまでとは違う、嬉し涙を滲ませながら、ミュリエルは笑う。
その笑顔を見て思う。
……あぁ、私。
ぎりっぎり、間に合ったわ。
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