モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。

霜月零

文字の大きさ
2 / 26

ぎりぎりです。

しおりを挟む
 お姉様に支えられた私を、ミュリエルが驚いて固まっている。
 この場から、泣きながら走り去ろうとしていた彼女だけれど、大きな瞳には心配の色が浮かんでいる。

 だから私は、お姉様から離れ、そのまま彼女に歩み寄り、その手をとった。

 突然の事でまだ頭は痛むけれど、かまっていられない。
 そう、ここで彼女を走らせちゃ、駄目。
 この場から離れてもらっては困るの。
 
 ずくん、ずくんと痛みを訴える頭を無視して、私は侯爵令嬢の意地でもって笑顔を作る。
 ほんのちょっと、後ずさりしかけるミュリエル。
 でも私は、彼女の手を両手で包み込むように握り、決して離さない。

「ミュリエル=フォンダン男爵令嬢ですわね?」

「は、はいっ。ミュリエルです。あの……」

「そのドレス、とても素敵ですわね」

 手を離してくださいと繋がるであろう言葉を、私は遮る。
 
「ほ、本当ですか?」

「えぇ。もちろんよ。
 ごめんなさいね、あまりにも驚いてしまって、淑女としてはしたない所をお見せしてしまったわ。
 貴方のドレスは細部まで丁寧に刺繍が施されていますのね。
 王都でもこれほど丁寧な刺繍は見かけませんわ」

 いきなり声を上げてよろめいたのに、次の瞬間強引に彼女に近付いて手を握る私。
 はっきりいって異常な状況だと思う。

 主催のバーレンダ伯爵令嬢はもちろんの事、周りのすべてのご令嬢達が唖然としている。
 ルシアンお姉様だけは、あまり表情が変わっていないけれど。
 内心は、驚いていると思う。

 でも私は、前世を思い出してしまった私は、周囲の目よりもミュリエルの行動がいま一番大事。
 彼女の行動次第で、このティアレット王国が滅ぶか否かの瀬戸際なのだから。

「嬉しい、です……っ」

 奇行ともとれる私の行動に回り中が引く中、ミュリエルだけは、ぱっと顔を輝かせた。

 彼女が着ているワンピースは、彼女にとってはたった一つのドレスなのだ。
 貴族としては質素な、ぎりぎりドレスともいえるそれは、お針子をしていた彼女のお母様が、ミュリエルの為だけに作った世界で唯一つの特別なお洋服。

 ピンクはピンクでも、淡い色から濃い色まで、様々なひし形のピンクの布地をパッチワークし、その一つ一つに小花の刺繍が刺されている。
 ミュリエルの背がもっと伸びても着れる様に、サイズ調整もできるようにデザインされている。

 今日初対面の私が、何でそんな事を知っているかって?
 たった今、思い出したからよ。

「このドレスは、お母様の形見なんです。褒めていただけて、すっごく、嬉しい……っ」

 さっきまでとは違う、嬉し涙を滲ませながら、ミュリエルは笑う。
 その笑顔を見て思う。

 ……あぁ、私。
 ぎりっぎり、間に合ったわ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました〜モブのはずが第一王子に一途に愛されています〜

みかん桜
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは、乙女ゲームが舞台の小説の世界だった。 悪役令嬢が主役で、破滅を回避して幸せを掴む——そんな物語。 私はその主人公の姉。しかもゲームの妹が、悪役令嬢になった原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私はただのモブ。 この世界のルールから逸脱せず、無難に生きていこうと決意したのに……なぜか第一王子に執着されている。 ……そういえば、元々『姉の婚約者を奪った』って設定だったような……? ※2025年5月に副題を追加しました。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...