モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。

霜月零

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エンカウントはまだまだ続く? いいえ、もうお腹いっぱいです(1)

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「これとこれと、あとこれもよっ」

 マリー様が、使用人達に焼き菓子の購入を指示する。
 うーん、マリー様、どうして自らこのお店に来たのかしら。
 公爵令嬢なのだから、公爵家の料理人に作らせるか、使用人にこのお店まで使いを出すのが普通だと思うのだけれど。
 どこかへお出かけしていた帰りかな。
 ちょうど通りかかったなら、ついでに立ち寄ることは十分あり得るから。
 
「……マドレーヌを頂けるかしら」

 あら、お姉様はフロランタンではなくマドレーヌを購入?
 何気にマリー様のいるフロランタンの棚から、一番離れた棚にマドレーヌは置かれているのね。
 お姉様、わかりやす過ぎます。
 少しでもマリー様から距離をとりたいのですね?
 私もあまり近寄りたくはありません。

「ミュリエルみてみて! ミュリエルの好きなマカロンがこんなに一杯あるんだよ」
「うんうん、素敵ですねっ。幸せです~!」

 ミュリエルとビターは、パステルカラーのマカロンを楽しそうに選んでいる。
 あぁ、こっちの二人は和むなぁ。

「お前は選ばないの?」
「わたくしは特には」
「クリスの好きなタルトが十種類もあるのに?」
「確かにわたくしはタルトも好きですけれど」

 と、そこまで答えて。
 わたしははっとして振り返る。
 
「なに、そんな驚いた顔しているんだ?」

 ロイス様が心底不思議そうにこちらを見下ろしている。
 その隣には、レーゼンベルク様も佇んでいる。
 一体、いつから?

「一緒に来たわけでもない方から背後から話しかけられれば、驚くとも思いますが」
「声で気づけよ。俺とクリスの仲だろう?」
「だからどういう仲ですか。貴方とわたくしの間には何もございませんでしょう」
「一度は婚約の話も出た仲だな」
「即座に流れましたし、無関係ですわ」

 きっぱりと言い切る私に、ロイスがそっと耳元に顔を寄せる。

「ちょっと、距離が近いですわよ?」
「フロランタンを焼いておくように指示したのが、俺でも?」
「えっ?」

 フロランタンを焼いておくように指示?
 なんでロイスがそんなことを。
 
「ここの商品は日替わりだからね……買えなかったら……困るでしょう……」

 レーゼンベルク様が補足する。
 普段は自分で買い物などをしないから、知らなかったわ。
 
「学園で話してただろ、そこのお嬢さんと。だから予め店に指示を出しておいたわけで」

 ビターと楽しそうにお菓子を選んでいるミュリエルを、くいっと顎でさしてロイスは笑う。

「盗み聞きだなんて、嫌ですわ」
「たまたま聞こえただけだね。俺もそんなに暇じゃない」
「どうでしょうか。十分お時間がありそうに見えますけれど」
「素直じゃないな。お礼の一言ぐらいくれてもいいんだぜ?」

 ほらほらとお礼を要求するロイス。 
 フロランタンがなくてもそれはそれでどうにかなったかもしれないし、こいつに頭を下げるのは嫌なんだけれど。
 マリー様のご機嫌が一気に戻って、お姉様の顔色がよくなったことは感謝したほうがいいのかな。
 ゲームと違って選択肢がわからないから、フロランタンがなかった場合はもっとお姉様の負担が増えたでしょうし。
 焼き立てだったおかげで、助かったのは事実ですしね?
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