17 / 26
お姉様のフラグも回収しないといけません(1)
しおりを挟む「憂鬱だわ」
学園寮の自室で、ルシアンティーヌお姉様が溜息と共に呟いた。
理由はわかっているけれど、私はあえて知らない振りでチャマッティーをお姉様と自分用に二つ淹れる。
濃い黄緑色のお茶は、薔薇の描かれたティーカップにはなんとなく違和感。
前世を思い出したせいかな。
緑茶系はどうしても湯飲みで飲みたくなってしまう。
「お姉様、今度のお休みはレーゼンベルク様とオペラを観に行かれるのでしょう?
以前から楽しみにしていらしたではないですか」
楽しみにしていたのはオペラではなくて、レーゼンベルク=バイエルン公爵子息とのデートだって事も知っている。
入学式でプラスフラグを立てれたお姉様は、その後もレーゼンベルク様と昔のように交流を深めているのだから。
そして当然の如くこのデートもイベントだ。
ただし、どの選択肢を選んでもマイナスにはならない美味しいイベントなので、お姉様にはぜひともデートしてきてもらいたい。
でも、ねぇ……。
「わたくしは、レーゼンベルク様と出かける事は嫌ではないわ。
ただ、マリー様がいらっしゃる事は聞いていませんでしたの」
マリーゴールド=バイエルン公爵令嬢。
レーゼンベルク様の三つ年下の彼女は癖の強い豪奢な金髪と、猫を髣髴とさせる大きな琥珀色の瞳が可愛らしいご令嬢だ。
色彩だけならレーゼンベルク様に良く似ている。
でも……。
私は、お茶を飲みながら憂い顔のお姉様を見つめる。
マリー様、お姉様の事が大っ嫌いなのよね。
私の事もあまりよくは思っていない子だけれど、お姉様にはもう、ほんと酷い。
何を言っても嫌味と嫌味と嫌味。
ミュリエルにとっての悪役令嬢がお姉様なら、お姉様にとっての悪役令嬢はマリー様だ。
乙女ゲームの中でも、学園以外のイベントではちょこちょこ出てきて、お姉様とレーゼンベルク様の仲を妨害してくる。
レーゼンベルク様とマリー様は血の繋がった兄弟だから、他の攻略対象のように略奪云々はかかわってこないのだけれど。
せっかくのオペラ鑑賞が自分を嫌っている小姑と一緒では、憂鬱になるのも無理はない。
「お姉様、マリー様はフロランタンがお好きですわ。お会いする時にプレゼントしてみては如何でしょう」
ゲームだとマリー様妨害イベントの時に、課金アイテムのフロランタンを使用するとマリー様の機嫌が直るのだ。
そしてどの選択肢を選んでも、レーゼンベルク様との好感度がアップする。
課金アイテムは数種類あったけれど、マリー様の時はフロランタンが一番効果的だった。
いまこのリアルでゲーム内知識がどこまで有効かどうかは解らないけれど、試してみる価値はあると思う。
「フロランタン……」
お姉様は、お茶を見つめて心ここにあらずな雰囲気だ。
クッキー生地にキャラメルでコーティングし、上にスライスしたアーモンドやナッツ類をまぶす焼き菓子は、この世界にもちゃんと存在している。
多分、実家の侯爵家の料理人に頼めば作ってくれるのではないかしら。
それか、王都の焼き菓子店に行って見るのもいいかもしれない。
「お姉様、フロランタンなら王都の焼き菓子店でも買えると思いますの。
ミュリエルも誘って、明日の放課後遊びに行ってみませんか?」
「そうね……」
お姉様、あまり乗り気ではないみたい。
でもお姉様もお菓子は好きだし、ミュリエルを誘えばお菓子好きのビターもついてくると思うし、賑やかになれば気もまぎれたりしないかしら。
なるべく、マリー様の事から気持ちがそれると良いのだけれど。
私はもう一度お姉様にお茶を注ぎながら、そんな事を思った。
――それが大きな間違いであるのは、このときの私には想像もできなかったのだけれど。
0
お気に入りに追加
1,070
あなたにおすすめの小説
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる