不遇の伯爵令嬢は、第三王子に溺愛される

霜月零

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第二章

ルピナ視点2

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 お母様だ。どうやら先ほどの侍女がいつの間にか呼びに行っていたらしい。

「ルピナ、また物に当たっているのね? どうかもうしばらく我慢して頂戴」

「お母様! そうはおっしゃいますが、ロザリーナを修道院に送りつけてからもう何か月経っていますか? わたしはその間、ずっとこの屋敷に留められているのよ。侍女だって必要最低限しかつけてもらっていないわ。パーティーにだっていってない。もう退屈でつまらなくて気が狂いそうよ!」

「あぁ、あぁっ、わたくしの愛するルピナ! どうかわかって頂戴。事情を知る侍女は契約魔法で縛らなくてはならないから、そうそう増やせないの。パーティーはルピナを知らない者の方が少ないわ。貴方がここにいることが知られたなら、アイヴォン伯爵家は王命に逆らったことになるのよ……」

「王命! いまいましいわっ。辺境伯がなんだっていうのよ。魔物を狩っているだけの田舎ものじゃないの!」

 クッションを壁に投げつける。
 破けて羽毛が飛び散って思わず咳き込んだ。

 あぁ、もう、何もかもイライラする。
 わたしは事実をいっただけなのに、なぜこんな目に合わなければならないのか。

 辺境伯の娘ときたら、みっともない赤毛にそばかすの浮いた冴えない女だった。
 ドレスだって質は良くても意匠が悪い。貧相な身体つきを隠すためでしょうけれども、無駄にフリルが多かった。

 明らかに田舎者のくせに高位貴族のふりをしたいなら、もう少し王都の流行を抑えるべきだ。それなのにわたしから聖女の称号を剥奪したばかりか、修道院へ送ろうとするなんてどうかしている。わたしを不快にしたことを心から詫びて謝罪しなさいと思う。

「そ、そうだわ。観劇はどうかしら」

 お母様が、苛立ちの止まらないわたしにそんな事をいう。

「観劇?」

「えぇ、観劇ならパーティーと違って大勢の貴族とあうわけじゃないわ。席も一つずつ分かれているし、大き目の帽子を被れは顔もある程度隠せるでしょう」

 ……そうね。
 当分パーティーに行くことができないのだ。
 わたしの美貌はパーティーでこそ輝くのだけれど、観劇程度でも部屋に籠っているよりはましだろう。

「いいわ、お母様。それで手を打ってあげる」

「まぁっ、いますぐ手配をかけておくわね」

「ドレスと帽子も新調したいわ。商人を呼んで頂戴」

「もちろんわかっているわ。でも、くれぐれも、どうかロザリーナとして振る舞ってね」

「わかっているわよ! 早く手配して!」

 お母様を部屋から追い払って、ため息をつく。
 あんなまがい物の愚図の名を名乗らねばならない事に虫唾が走る。

 この苛立ちは、どうやっても消えそうになかった。
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