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第二章

ルピナ視点1

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「何なのよ、この生活! どうしてわたしがこんな軟禁状態を続けなければいけないのよっ!」

 花瓶を壁に投げつけると、侍女がびくりと身体を震わせる。

(ふんっ、たいした顔をしていないんだから、怯える必要ないじゃないね?) 

 わたしほど美しければ些細な傷でも気になるけれど、平凡な女どもが怪我をしたからといってそれがなんだというのだろう。いっそ顔に傷がついたって変わらないのではないかしら。

 あぁ、それにしても腹が立つ。
 婚約破棄をされただけでもありえないのに、修道院へ送るだなんて。

(まぁ、ロザリーナを送り付けてやったからいいけれど)

 わたしよりも何もかもずっと劣るというのに、わたしに似た容姿を持ったあの女が大嫌いだった。下賤な血が混じっているくせにお父様にも似ていて、アイヴォン伯爵家の血が穢されたと思えた。

 だからいびり抜いた。
 本当なら髪も切ってやりたかったが、お父様に気づかれるのでやめた。

 あんな愚鈍な女でも、政略結婚には使えるらしくて一通り伯爵令嬢としての礼儀作法などは学ばせていたから、髪を切ってしまえばお父様の意向に背くことになる。

 切ることはできずとも、地味な茶色に染めさせ、似ている容姿は眼鏡で隠させた。
 いつだってその顔を傷つけてやりたかったし、髪を刻んでやりたい衝動にかられてた。

 我慢を強いられるのは苦痛だったが、そのお陰でわたしの身代わりとして修道院に入れることができたのだから、まぁいい。

 あの女は修道院で惨めに一生を終えるのだ。
 二度と会うこともないだろう。そう思えば笑いが止まらない。

 けれどわたしは、いまはあのロザリーナとしてアイヴォン伯爵家に残っている。
 パーティーの招待状も、お茶会の手紙も、ロザリーナに来ることはない。

 当たり前だ。
 あの女は病弱ということにして外には出さなかったのだから。
 将来は子を産む必要のない金持ちの後妻にでも出されたことだろう。
 だから社交も必要なかった。

 ロザリーナは使用人と同じく、床を磨いていればそれでいいのだ。

 けれどわたしはルピナだ。
 社交界の華、歴代最強の聖女。
 そのわたしが、外出を禁じられて屋敷の離れで軟禁状態でいるなんて。

 慌ただしい足音と共に、部屋のドアが叩かれる。
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