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第二章

ランドリック視点~憎い女のはずなのに2

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(やはりルピナで間違いないのか……)

 あの口元はルピナだ。
 気に入らないすべてのものをその権力においていびり抜いてきた悪女。

 なぜか最近修道院では大人しくしているようだが、ルピナであることに間違いはない。
 ベジュアラを泣かせ続けた悪女を、俺はなぜこうも気にしているのか。
 院長に話を付けようと向かっていると、先ほど俺に話しかけてきたグリフェが駆けつけてきた。

「あのっ、あいつはまたサボってるんです!」

「また?」

「そうですっ、この間もお話しましたでしょう? ルピナは町で遊び惚けて門限にも遅れたんです。治療だっていつも手抜きで、みんな迷惑しているんです!」

 グリフェと共について来ていた修道女二人も頷いている。
 手抜き?
 熱を出して倒れるまで治療に当たっていたというのに。

 この間の街での出来事は一部始終知っている。破落戸に誘拐されかけた子供を助けて遅れただけだ。それを、遊び惚けて遅れたと嘯くとは。
 そもそも俺が街へ行ったのも、こいつが俺にいったからだったな。ルピナがサボって遊びに行ってしまったと。軽くため息をついて聞き返す。

「みんなとは?」

「えっ」

「誰と誰と誰が言っている? 俺の耳にはお前がいうこと以外は届いていないが」

「みんな、は、みんなで……」

「だから名をいえといっている」

 ヴェール越しにも分かる戸惑った声を無視して、俺は問い詰める。
 口ごもり、後ろの二人も顔を見合わせて俯く。
 こいつらは何をしているんだ?

「ルピナがサボっているというのなら、お前たちは今ここで何をしている? 他の修道女達は患者につきっきりのようだが」

「あ、いえっ、その……」

「それと、お前に聞きたいことがある。俺は先日お前に塗り薬を預けたと思うが、いまそれはどこにある?」

「っ!」

 びくりとグリフェの肩が跳ねた。
 先日この修道院を訪れた時は、ルピナが不在で直接渡せなかった。

 丁度グリフェが俺の対応に当たったので渡しておいてくれと頼んだのだ。
 けれどルピナは知らないようだった。
 カタカタと震えるグリフェはもう答えをいっているようなもので、ため息が出る。

(ルピナの分としてではなく、修道院にそれなりの数を寄付すればよかったな)

 あまりにも手荒れが酷かったから、ルピナの分だけを持ってきてしまったのだ。王宮で使う塗り薬だ。当然効果が高い。魔が差すというものだ。 

「……紛失なら紛失で仕方がない、後日まとまった数を修道院に寄付しよう。お前たちは早く持ち場に戻るがいい」

「あ、ありがとうございますっ、失礼しますっ」

 三人は足早にかけ去っていく。

(俺が気にかける必要は一切ないんだがな……)

 悪女たるルピナが陥れられようと、彼女の手が酷く荒れていようと、俺の知ったことではない。むしろ、ベジュアラのことを思えば当然のことですらあるのだ。

(悪女が、ほんの少し良いことをしたからといって、それまでの行いがなかったことにはならないんだよ)

 虐げられて、傷つけられて、これまでの行いを悔い改めればいい。

 ……なのに俺は、どうしてもいまの彼女が気になって仕方がない。
 自身も熱を出しながらも、倒れるまで患者の治療に当たっていたルピナが。

 頭を振って切り替える。
 いまは、クゼン病の可能性がある患者を隔離することに集中すべきだ。
 無理やりルピナの事を心の中から追い出して、俺は院長室へ急いだ。    
 
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