16 / 28
第一章
ランドリック視点~ルピナという悪女1
しおりを挟む
(あの指先は、一体……?)
ルピナが修道院の門をくぐるのを陰から見送って、俺は違和感を拭えない。
(たった数日で、貴族令嬢の手があそこまで荒れるものか……?)
あの女の手は、あり得ないほどに荒れ果てていた。
握ったこちらの手が痛みそうなほどにごわつき、あかぎれがいくつもあった。王宮に仕える下級メイドですら、あそこまで荒れた手をしている者はいない。
平民と変わらない、いや、下手をするとそれ以上なのではないだろうか。
自分の美しさに絶対の自信を持ち、聖女という称号をかさに着て、第二王子である兄の婚約者という立場を手に入れ、社交界で女王のように振る舞っていた最悪の女。
あの女が、あんな荒れた手を放っておくだろうか。
それに何より驚いたのは、子供を助けに即座に路地裏に飛び込んだことだった。
俺があの場にいたのは、修道女達にルピナが仕事をさぼって街に遊びに行っていると聞いたからだ。
それを知った俺はそれ見たことかと思った。
先日の不可解なまでにしおらしい姿は、やはり演技だったのだと納得できた。
この修道院でも仕事をさぼり、周りの修道女達に自分の仕事を押し付け、遊び惚けているのだと。
王城でもそうだった。
あの女は、高貴な身分の、それも見目の良い男しか治療しない。
聖女でありながら、他の治癒術師に治療を押し付けて、自分は楽をしていた。
俺の兄の婚約者でありながら、数多の男と浮名を流していたのだ。穏やかな性格の兄は知らなかったかもしれないが、貴族の間では噂になっていた。流石に純潔を失うような愚かな真似だけはしていなかったようだが、問題はそれだけじゃない。
ルピナは、自分が一番でないと気が済まない人間だった。
婚約者だったダンガルド兄上を不満に思っていた。
第二王子だったからだ。
誰よりも美しく、聖女でもある自分が王太子の婚約者でない事を常に不満げに想っている様子だった。
だというのに、兄の周りに自分以外の女が近づくのを嫌悪した。
最近の被害者は図書館司書になったハルヒナ子爵令嬢だろう。
彼女は、司書であるから王宮図書館にいただけだった。
けれど王宮図書館は勤勉なダンガルド兄上が最も好む場所で、怠惰なルピナが嫌悪している場所だ。
ハルヒナ子爵令嬢とダンガルド兄上が二人きりになるなどありえないのだが、ルピナはそれでも許さなかった。夜会にでも出向くような派手なドレスで王宮図書館に入り込み、激しくハルヒナ子爵令嬢を罵倒する姿が目撃されている。
俺がその現場にいたなら、即座にルピナを捕らえて牢にぶち込んでやったのに。
ハルヒナ子爵令嬢はその時に髪をルピナに切られている。
上手く編み込んで整えているようで、一見して切られたとはわからないようにして過ごしているが、切られた衝撃は大きいだろう。
その時点で、ルピナと婚約破棄をさせたかったが、ダンガルド兄上が止めたのだ。「誤解を与えるような言動を私がしてしまったのかもしれないから」と。
甘すぎる!
あの時点で処分していれば、ロルト辺境伯の不興を買うことも無かったのに。
思いだして思わず舌打ちが漏れる。
ルピナが修道院の門をくぐるのを陰から見送って、俺は違和感を拭えない。
(たった数日で、貴族令嬢の手があそこまで荒れるものか……?)
あの女の手は、あり得ないほどに荒れ果てていた。
握ったこちらの手が痛みそうなほどにごわつき、あかぎれがいくつもあった。王宮に仕える下級メイドですら、あそこまで荒れた手をしている者はいない。
平民と変わらない、いや、下手をするとそれ以上なのではないだろうか。
自分の美しさに絶対の自信を持ち、聖女という称号をかさに着て、第二王子である兄の婚約者という立場を手に入れ、社交界で女王のように振る舞っていた最悪の女。
あの女が、あんな荒れた手を放っておくだろうか。
それに何より驚いたのは、子供を助けに即座に路地裏に飛び込んだことだった。
俺があの場にいたのは、修道女達にルピナが仕事をさぼって街に遊びに行っていると聞いたからだ。
それを知った俺はそれ見たことかと思った。
先日の不可解なまでにしおらしい姿は、やはり演技だったのだと納得できた。
この修道院でも仕事をさぼり、周りの修道女達に自分の仕事を押し付け、遊び惚けているのだと。
王城でもそうだった。
あの女は、高貴な身分の、それも見目の良い男しか治療しない。
聖女でありながら、他の治癒術師に治療を押し付けて、自分は楽をしていた。
俺の兄の婚約者でありながら、数多の男と浮名を流していたのだ。穏やかな性格の兄は知らなかったかもしれないが、貴族の間では噂になっていた。流石に純潔を失うような愚かな真似だけはしていなかったようだが、問題はそれだけじゃない。
ルピナは、自分が一番でないと気が済まない人間だった。
婚約者だったダンガルド兄上を不満に思っていた。
第二王子だったからだ。
誰よりも美しく、聖女でもある自分が王太子の婚約者でない事を常に不満げに想っている様子だった。
だというのに、兄の周りに自分以外の女が近づくのを嫌悪した。
最近の被害者は図書館司書になったハルヒナ子爵令嬢だろう。
彼女は、司書であるから王宮図書館にいただけだった。
けれど王宮図書館は勤勉なダンガルド兄上が最も好む場所で、怠惰なルピナが嫌悪している場所だ。
ハルヒナ子爵令嬢とダンガルド兄上が二人きりになるなどありえないのだが、ルピナはそれでも許さなかった。夜会にでも出向くような派手なドレスで王宮図書館に入り込み、激しくハルヒナ子爵令嬢を罵倒する姿が目撃されている。
俺がその現場にいたなら、即座にルピナを捕らえて牢にぶち込んでやったのに。
ハルヒナ子爵令嬢はその時に髪をルピナに切られている。
上手く編み込んで整えているようで、一見して切られたとはわからないようにして過ごしているが、切られた衝撃は大きいだろう。
その時点で、ルピナと婚約破棄をさせたかったが、ダンガルド兄上が止めたのだ。「誤解を与えるような言動を私がしてしまったのかもしれないから」と。
甘すぎる!
あの時点で処分していれば、ロルト辺境伯の不興を買うことも無かったのに。
思いだして思わず舌打ちが漏れる。
15
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
不幸な君に幸福を 〜聖女だと名乗る女のせいで「悪役聖女」と呼ばれていますが、新しい婚約者は溺愛してくださいます!〜
月橋りら
恋愛
「この偽聖女!お前とは婚約破棄だ!」
婚約者である第二王子から婚約破棄を告げられたとき、彼の隣にいたのは「自称」聖女のリリアーナだった。
それから私の評判は、「悪役聖女」。
それから、聖女詐称の罪で国外追放されそうになったが、止めてくれたのはーー。
*この小説は、エブリスタ様でも同時連載しております。
カクヨム様でも連載いたしますが、公開は10月12日を予定しております。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる