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第一章

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「ここで、何をしている?」

 目線は男達に向けたまま、わたしに尋ねてくるのはランドリック様だ。
 どうして彼がここに?
 見上げたまま答えることができないわたしに、彼は鼻を鳴らす。

「てめぇ、いきなり何しやがる!」

 蹴られた男が殴りかかってくるが、ランドリック様はそれをあっさりと避けて、腰に下げていた剣を抜く。

「ここで死ぬか、牢の中で死ぬか。選べ」 

「ふっざけんなっ!」

 飛びかかってきた男を、ランドリック様はため息とともに切り捨てる。
 そしてそのまま、じりじりと逃げようと後ずさっていたもう一人の男も逃がさない。

「ガキは返すっ、見逃してくれよっ」

「寝言は寝て言え」

 命乞いも無視して、ランドリック様は男を追い詰める。

「こ、このガキがどうなっても……うっ!」

「目障りだ」

 有無を言わさず、メイナちゃんを掴む男の腕を切りつけた。
 地面に落ちる前に、ランドリック様はメイナちゃんを抱きとめる。
 それと同時に、バタバタと慌ただしい足音共に護衛騎士と思われる人たちが路地裏に駆け込んできた。

「ランドリック様、これはっ」

「遅い。誘拐未遂と婦女暴行未遂だ。急所は外してあるから、牢屋で依頼主を吐かせろ」

「「「はっ!」」」

 ビシッと敬礼をし、護衛騎士達はランドリック様の命令に従う。
 慣れた手つきで男どもの傷を止血し、縛り上げて待機させておいたであろう馬車へ運び込む。

 わたしは、ランドリック様の腕に抱かれたメイナちゃんを見て、ほっとする。気を失っているだけで、怪我などはしていないようだ。

 どうして彼がいたのかはわからないが、そのお陰でわたしたちは助かったのだ。
 立ち上がろうとすると、片手を差し出された。

「助けて頂いて、ありがとうございます……」

 お礼を言い、手を添えると、赤い瞳が驚いたように見開かれ、わたしの手をぐっと引き寄せる。

「あの…………?」

「この手は……」

 ランドリック様は呆然としたように呟いてわたしの手を握り、眉間にしわを寄せる。
 わたしの手は、何ともない。
 長年の水仕事でできたあかぎれのある荒れた手は、いつも通りだ。特にこれと言って怪我を負っていないのだ。
 
「離して頂いても……?」

 立ち上がれたので、もう支えて頂く必要はない。

「あ、あぁ……」

 動揺を抑えきれない声色に首をかしげるが、お礼を言ったためだろうか。
 ルピナお義姉様なら、お礼どころか罵声を飛ばしそうだと気づいた。

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