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第一章
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ランドリック様の訪れから、一週間がたった。
(今日は一段と洗濯ものが多いわね)
晴れた空を見上げ、そんな事を思う。
春とはいえまだ水は冷たいが、汚れたシーツをてきぱきと洗ってゆく。
毎日毎日洗っていても、シーツや包帯、タオルは減ることがない。治療院併設だからか、汚れた衣類もとても多い。
いつも多いのだが、今日は普段よりも二割り増しぐらい多く思える。
今日は患者の治療だけでなく、買い出し当番もあるのだから、急がないと。
(風魔法を使えればよかったのだけれど)
風魔法なら、余分な水分を飛ばしてすぐに洗い物を乾かせる。けれどわたしに出来るのは治癒魔法のみだ。地道にもみ洗いして一枚一枚干していくしかない。
なんとか洗い終わった洗濯物を籠に入れて持ち上げる。
「やだぁ、聖女様なのに手で洗い物をしているわぁ」
「そう言わないであげなよ。あの人は『元』聖女なんだから!」
くすくすと笑いながら、修道女達が背後を通り過ぎていく。
「あっ!」
どんっと、背中に衝撃が走り、手にしていた籠と一緒に倒れた。
籠から飛び出して散らばってしまった洗い物を、修道女達が念入りに踏み荒らす。
「あらあら、ごめんなさいね? 急に目の前に投げ出されるから踏んでしまったわ」
「大切な洗い物を投げつけるなんて最低ね!」
「ちゃんと洗いなおしなさいよねっ」
キャハハと甲高い笑い声と共に、彼女達はその場をかけ去っていく。
ふぅっと、ため息をつく。
(この程度でしたら、すぐに洗いなおせるわ)
彼女達の嫌がらせは今に始まったことではない。
最初はヴェールで見分けがつかなかった修道女達も、段々とわかるようになってきている。
あの三人は修道院に来た当初から何かと当てってくる人たちだ。
似たような背格好だが、黒いリボンで茶髪を纏めているのがリーズルさん。
胸ぐらいの長さのこげ茶色の癖っ毛がルッテさん。
そして突き飛ばしてきた方が明るめの小麦入りの髪をしたグリフェさんだ。
そして彼女達の嫌がらせは、わたしがアイヴォン伯爵家でされてきたこととなんら変わらない。それどころか、干した後に踏みつけて破いていかないだけ良心的だとすら思ってしまう。
汚されたシーツ類を洗いなおして、わたしはさっさと買い物に出ることにした。
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