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『第二十四新出島』……21世紀の中頃から本格的に推進された『新出島建設計画』のもとに長崎の港に建設された人工島の一つである。そもそも出島というものは、江戸時代に時の幕府が対外政策の一環として建設したもので、扇形の形状をしており、面積は約1.5ヘクタール程の日本史上初の人工島である。『新出島建設計画』は国際情勢、人類を取り巻く環境の劇的な変化も多分に影響し、計画自体の大幅な変更と見直しが行われ、大きさや形が様々な島が数十個建設される運びとなった。この内の一つで他に比べると比較的小さな島に分類される『第二十四新出島』に(有)二辺工業は合計6機の機体を運び込むことになった。

「搬入作業はほぼ完了したで」

 隼子が倉庫外のビットに腰掛けて海をぼんやりと眺めている大洋に声を掛ける。

「ああ、お疲れさん……」

「なんや、心ここにあらずって感じやな」

「いや……なかなか壮観な眺めだなと思ってな」

 大洋が顎をしゃくったその先には、タンカーなどが海上にいくつも出入りし、更に小型・中型の飛行機がこの21世紀に新たに設けられた各々の出島に忙しく離着陸をしている。一見雑然とした感じを受けるが、それぞれが統制がとれた動きをしている為、見た目程は大きな混乱は無く、落ち着いている。

「港を訪れた記憶は無いんか?」

「どうだったかな……」

 その時、隼子の端末が鳴る。隼子は即座に応答する

「もしもし? なんや、オーセン、どないしたんや? ……ああ、分かった。すぐ行く」

「どうした?」

「呼び出しや、あそこの中央管制ビルに来いやって」

 隼子が指差した先にはこの出島の中央にそびえ立つビルがある。空港などで言う、管制塔の役割をこなす建物である。

「そうか……」

 大洋は腰を上げて、地面を見ながら歩き出すと、その頭上を大きな黒い影が通過したため、思わず顔を上げる。

「あれは……飛行機か? 変わった形状だな」

 首を捻る大洋に隼子は説明する。

「あれは宇宙船やな」

「宇宙船?」

「ここ長崎は日本で10しかない宇宙港でもあるからな。規模もわりとデカい方やからウチらから見たら変わったデザインの宇宙船もわりと頻繁に出入りしとるで」

「ということはあれに乗っているのは宇宙人か」

「異星人って言った方が正しいかな」

「他にも見てみれば、色々な宇宙船があるな。これはつまり相当な数の異星人が入り込んでいるんだな?」

「異星人は地球では、基本的に各国政府が指定した居留地以外を出歩くことは禁じられとるから、心配しているような事態はまず起こらんで」

「そうか……基本的にというのは?」

「例外もあるっちゅうこっちゃ、例えば外交使節なんかは居留地を出て、各都市に赴くこともあるわな」

「外交使節……」

「せや。地球人類と友好な関係を築きたいっちゅう異星人もおるからな」

 話している内に、ビルにたどり着いた隼子たちは、ビルの最上階に上がり、この第二十四新出島のカピタン(総責任者)であるオランダ系日本人のマクシミリアン斉藤と挨拶を交わす。立派な髭をたくわえた紳士的な物腰の人物である。マクシミリアンに作業の進捗状況を伝えた隼子と大洋は控室に案内される。

「あ、ジュンジュン、お疲れ~」

「お疲れ様」

「……」

 向かい合って座る閃とユエが部屋に入ってきた隼子たちに声を掛ける。少し離れて座るタイヤンは無言で軽く会釈をする。閃たちはすぐに視線を手に持つタブレットに戻す。

「何をしてんねん?」

「レトロゲーム、『宅建』だよ」

「……なんやねんそれ?」

「これは対戦型格闘ゲームでありながら、相手よりも早く建物を建設する必要性があるという、発売当時としては新感覚なゲームとして、極一部の界隈ではカルト的な人気があったとか無かったとか言われているゲームだよ」

「ふーん……」

「最近この類のレトロゲーにハマっていてさ……ユエも得意だって言うから、じゃあ対戦しようよってなってさ……」

「懐かしいわね~当時相当やり込んだものよ」

「え?」

 ユエの言葉に閃が顔を上げる。タイヤンがわざとらしく咳払いをする。

「お、おほん!」

「い、いや、別のゲームだったかしらね?」

「……まあ、いいけど」

「良くないわ!」

 隼子が声を上げる。

「! あ~負けちゃった、いきなり大声出さないでよ、びっくりするじゃん……そんなにやりたいなら代わるよ」

「そういうことじゃないねん! 大体この二人は何者やねん!」

「新たに入社した正規パイロットって社長から説明されたでしょ……」

「怪しすぎるやろ! どこからどう見たって少年少女やん!」

 隼子はユエとタイヤンを指差す。タイヤンは口を開く。

「日本国内でも適用されるパイロットライセンスは所持している、問題はない」

「問題あるっちゅうねん!」

「『今週のラッキーエンプロイイー』が『双子の兄妹』だったらしいから、『これは我が社にとって吉兆よ!』って大喜びだったらしいよ」

「だからなんやねん、そのニッチな占いは……」

 隼子は頭を抱える。彼女たちの上司、二辺弓子(ふたなべゆみこ)社長は大の占い好きなのである。

「まあ、細かいことは良いじゃない」

「細かくはないっちゅうねん!」

「素性はともかくとして……お前らの機体はなんなんだ? どこで入手した?」

「あ、それは私も気になるね」

 大洋の質問に閃が同調する。ユエが視線を窓の外に向けながら答える。

「……橋の下で拾った」

「んなわけあるか!」

「ネットのオークションで買ったってのはどう?」

「拾ったよりはありえそうだね」

 閃が笑う。

「どう?って聞いてる時点で嘘やろ!」

「なんかマシな嘘ついてよ、タイヤン」

「俺に振るな……」

「だから嘘をつくな……!」

 隼子が叫んだ瞬間、部屋の窓が勢いよく割れ、人影が部屋に飛び込んできた。

「!」

 大洋たちは驚く。その人が、栗毛の髪に黄緑色の肌の女性だったからである。

「な、なんだ⁉ 異星人か⁉」

 叫ぶ大洋に目を向けると、その女性は微笑む。整った気品のある顔立ちをしている。その女性はゆっくりと口を開く。

「……この際、貴方たちで良いわ。わたくしを守る権利をあげる。光栄に思いなさい」

「「ええっ⁉」」

 大洋たちは再び驚く。
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