2 / 3
中編
しおりを挟む 一方、その少し前のことだ。周兄弟の方でもオペラを観に行った曹らが帰って来ないことで騒ぎになっていた。ホテルのロビーに降りてフロントでチェックインの有無を確認したが、未だ誰も戻って来た形跡はない。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
時刻は既に日付けをまたいでいる。劇場はとっくに閉まっているし、彼ら全員の電話が繋がらないということは、非常事態を意味する。精鋭の曹が付いていながら連絡が取れないというからにはそれなりの理由があるはずだ。
「ヤツらを見た者がいないかどうか確かめたくても術がない。全員が一気に消えて連絡も取れないとなれば、拉致以外に考えられないが……」
「問題は敵の正体だ。兄貴、心当たりがあるか?」
「取り立てて思い付かんな。正直なところヨーロッパに敵を作った覚えもない」
「ふむ……。誰かこっちで頼りになりそうな人物がいるか……」
警察に助力を依頼するのも手だが、例え異国といえども裏社会の人間と知って親身に協力してくれるかは怪しいところだ。周が考え込んでいると、
「周風? 周風じゃないの!」
突如女が声を掛けてきて、全員で声の主を振り返った。
「お……前! 楚優秦……」
風はもとより誰もが驚きの表情で互いを見やる。
「なんて偶然かしら! あなたとこんなところで会うなんて」
優秦の方は白々しいくらいに浮かれ気味だ。
「まさかウィーンにいらっしゃるなんて驚きだわ。観光か何かかしら? それともお仕事かしらね?」
「お前こそ何故ここへ……? 住まいはフランスじゃなかったか?」
「あら、アタシたちは今このウィーンに住んでいるのよ」
ご存知なかったのかしらと笑う。
「ウィーンに住んでいるだと? では父上の楚光順も一緒か?」
この娘については論外だが、父親の光順は信頼に値する人物だ。この土地に住んでいるというのなら、もしかしたら何か助力が得られるかも知れない。
「お父上にお会いしたい。連絡を取りたいんだが」
もとよりこの女に事情を打ち明ける気など更々ないので、頼るならば父親のみが賢明だ。だが、優秦はしれっと笑ってみせた。
「残念だけどパパは不在よ。今アメリカに旅行中なの」
大嘘である。光順は家にいたが、優秦の方が女友達と旅行に行くと偽って、ここ数日はホテル暮らしをしていたのだ。父の光順は宝飾市が開催される間、ウィーンにやって来る周風と娘の優秦を会わせまいと家族旅行に誘ったのだが、彼女の方からその期間は友人と旅に出掛けると嘘をついて、父親を騙したのだ。
当然、光順はホッと胸を撫で下ろし、これで何事もなく済むと思っているはずだ。まさか娘が嘘をついてとんでもない企てを犯しているなどとは思うはずもなかった。
26
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

モブなので思いっきり場外で暴れてみました
雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。
そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。
一応自衛はさせていただきますが悪しからず?
そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか?
※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完結】べつに平凡な令嬢……のはずなのに、なにかと殿下に可愛がれているんです
朝日みらい
恋愛
アシェリー・へーボンハスは平凡な公爵令嬢である。
取り立てて人目を惹く容姿でもないし……令嬢らしくちゃんと着飾っている、普通の令嬢の内の1人である。
フィリップ・デーニッツ王太子殿下に密かに憧れているが、会ったのは宴会の席であいさつした程度で、
王太子妃候補になれるほど家格は高くない。
本人も素敵な王太子殿下との恋を夢見るだけで、自分の立場はキチンと理解しているつもり。
だから、まさか王太子殿下に嫁ぐなんて夢にも思わず、王妃教育も怠けている。
そんなアシェリーが、宮廷内の貴重な蔵書をたくさん読めると、軽い気持ちで『次期王太子妃の婚約選考会』に参加してみたら、なんと王太子殿下に見初められ…。
王妃候補として王宮に住み始めたアシュリーの、まさかのアツアツの日々が始まる?!

婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる