空からの手紙【完結】

しゅんか

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委員長について

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「え、俺の早とちり?勘違い?無駄な気遣い?」


 自室で情けない声を発する敦に、唇を固く閉じ合わせて笑いを堪えた。ぽかんと瞳を丸めて固まってしまった姿に、横目でちらりと視線を伸ばし「残念だったな」と鼻で笑った秋と「敦はその、いんちょーさん?のことが好きなの?」と表情にたっぷりの疑問を乗せた優の真逆な対応から、人間に備わる質というものは侮れないなと感じる。

 そしてまさに敦の質を現しているような賑やかな色合いが溢れる洋室内は、間抜けな空気が流れる今と相容れていなかった。


「いや、そういうのじゃないけど……委員長してるその子、なんというか孤立してるわけてもないのに、ひとり、の感じがするんだよなぁ」

「あ~……ちょっと分かるかも」

「ああ、いんちょーさんって“委員長”のことか……」


 この中で唯一、県随一の進学校へと入学した優のマイペースに理解を重ねた頷きが聞こえる。話題に興味があるのかないのかなんなのか解らない秋は、淡々とスマホを弄っていて。中学からの付き合いである四人ならではに流れる時間は、例えどんな歪な色で染まっていようとも居心地がいいモノではあった。


「やっぱり、龍も分かる?」

「具体的に言えって言われたら困るけど……うん。分かる。」

「うーん……でも、今日は失敗だったな。クラスの予定ないやつみんな行くことになったし、委員長も一緒に行ったら楽しいかなって思って誘ったんだけど、考えすぎてバカなことした」


「うーわ。おせっかい野郎。委員長、可哀想。」

「……秋、ばっちり聞こえてんだけど」


 会話は参加せず見ているだけがスタイルな秋からの非難に、敦がじと目で不満を伝えている。その光景は可哀想で、でもやっぱり、悪いけれど面白かった。


「でも俺だって、敦はいんちょーさん好きだと思ってたよ?」

「え?まじ?いやでも……綺麗だなーとは思うけど、うん。それだけだな。」


 師弟関係のようなクラスメイトのやりとりに終止符として、問い掛ける。傾けた首の先でいつもと何等変わりなく笑う敦は、嘘を吐いている様子はなかった。


 僅かに訪れた沈黙の中で、数時間前を。久原菜々子を、思い出す。彼女を表す言葉。“綺麗”


「……いんちょーさん、不思議な子だよね。」


 なんとなく、引っかかる。


「龍に不思議って言われたくないと思う。委員長。」

「秋に同意。委員長さん、気の毒」

「俺はその子知らないけど、うん。龍のテンポ?とか雰囲気、充分独特だもんな。確かに。龍こそ不思議だから。」


 なんて。真剣な考えを他所に、3人揃って重ねてくる無礼たっぷりとりどりの感想は聞き流すことにした。


 夜に染まった、暗い帰り道。太陽が沈んだ8月の夜は、昼間よりも幾分ましな気温で。ひとり歩みを進める中、ずっと頭を過ぎるのは。昼間に交わした、久原菜々子との会話だった。そして、改めて感じる違和感。

 彼女に対する感想を述べれば、自分のことなのに心底頷いていたり。ちょっと自分で考えれば分かることを、そのまま相手の言う通りに作業していたり。学校に残っていた理由にしても、そうだ。『田辺くんに言われて』『流れ、かな』

 敦に『放課後残って勉強してるもんな』と言われたから図書室にいた、ということになるのだろう。そこを、まっきーに捕まえられて雑用をこなす事になった。自身では、そんな予定なかった筈なのに。


 それから、彼女は。相手に訊かれたことしか話さない。相手が訊きたいであろうことしか、話さない。自分の考えは出さない。それで、行動はしない。人から言われたことだけを、納得していた。


 今日の出来事だけで言えば、皆無に近い。自分で持つべき≪意思≫が、弱いのだ。


 それが、どうして、なのか。べつに、関係はないけれど。頭も立ち振る舞いも何もかもが“優等生”な久原菜々子だからこそ、意外で。こんなにも気になってしまうのだろう。





 きっと、それだけだ。





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