空からの手紙【完結】

しゅんか

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空からの手紙

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 ほなみへ



 妹に手紙を書くとか恥ずかしすぎるんだけど、腹をくくって、書きます。でも、これをほなみが読んでるってことは、俺はもう、この世から消えた、ってことだよな。なんか、不思議。


 これは、全てを知ったほなみが間違った生き方をしないための引き金として置いていきます。そのために、これを書いて、楓に預けておきます。



 いきなりで、驚くだろうけどさ。 実は、俺にはもう、これからも生きていくっていう選択肢が、ありません。もう、どうしようも、なくなっちゃったから。5月○×日に、死ぬつもり。

 この日は、去年あいつに初めて呼び出された日なんだ。明確な理由は、ないんだけどね。この日に、終わらせようと思う。



 ほなみ、知ったんだろうけど。あ、バスケ部の顧問な?詳しくは書きたくもないから、省略するけど許してくれ。あいつに呼び出される場所は、ちょうど最上階で下もコンクリートだから、飛び降りたらきっと、死ねると思う。あいつも、自分がしてたこと立場的にバレたくもないだろうし事故、って処理されるだろうから。都合いい。



 俺はこの高校で、人生を終わらせることに決めた。


 母さんにも父さんにもほなみにも、バスケ仲間とか彼女にも申し訳ないけどさ。俺、この先はだめ。この先、生きていくの、無理。屈辱的な記憶がありすぎて、苦しい。勝手な理由、だけど。



 せめて、みんなに、自殺とだけは思わせたくないんだ。だから俺は、彼女とも別れないままこの世を去るし、家族とも仲間とも、次も会うのが当たり前みたいに接する。最後の、最後まで。俺があいつにされてたことも知られたくないし、誰ひとりにも、分かられたくないから。


 ただ、矛盾してるかもしれないけど、ここだけはお願いほなみ。分かってほしい。でもきっと、わざわざこんな風に言わなくても、ほなみはもう、分かってるよな。ほなみ、俺が死んだって聞いたか見たかしたとき、事故じゃなく自殺なんじゃないかって、すぐに勘づいただろ。俺が高所恐怖症なの知ってるし、背中の痣、見せちゃったしさ。


 けど、その疑問を持っても、ほなみは誰にも言わないんだろうな。確信を得るまで。無責任な二次災害を、広げない。それはほなみの優しさだって、俺、ちゃんと分かってるから。


 父さんと母さんとか絶対、俺が死んだ本当の理由を知ったら、事故で死んだって現実を受け入れるより、もっともっと苦しむもんな。そういう、母親と父親だ。俺とほなみのことを、自分たちの子どものことを、いちばんに考えて、大切にしてくれる親だから。だから、こそ。自分たちの子どもが自殺した、なんて、思わせたくなんかない。それするつもりの張本人、が言えることじゃないけどさ。



 それからほなみは、学校とか警察に訴えようと考えてるかもしれないけど、それも、止めてほしい。頼む。俺からの、最後のお願いだ。お願いほなみ。それだけは、止めろ。


 忘れろ、知らなかったフリをしろ、とは、言えない。ほなみは優しい子だから、きっと自分の傷みとして背負う。抱えるし悩むし、苦しむと思う。それでも、これは俺のことだよ。ほなみ。ほなみには、なんの関係もない。もし、ほなみが俺に対して何か悔やんだり自分を責めたりしてるなら、それは違う。絶対に、違うから。



 ほなみは、何にも悪くないよ。それだけは、覚えておくこと。



 だけど、ほなみばっかり、苦しい思いさせてごめんな。弱い兄貴でごめん。自分だけ、逃げる。ずるくてごめん。ほなみ、ごめんな。


 本当に、自分勝手なんだけどさ。俺、ほなみには世界中の誰よりも幸せになってほしい。笑って、生きてほしい。



 そういやほなみは、未来で、どんなやつと結婚してるんだろうな。あ、これ知ってる?ほなみが中1のとき、お前初めて彼氏できたじゃん?そのとき、父さんこの世の終わりみたいな顔して母さんに泣きついてて。俺、それみて爆笑してたんだけどさ。やっぱり、なんかちょっと、寂しかったな。そんな、暖かい永谷家が、大好き。ここに、産まれてこれてよかった。それだけで、俺は、誰よりも幸せ者だ。


 家は、俺がいなくなったら、子どもはほなみだけになるよな。だから、出来ればほなみの未来の旦那様とやらには、ぜひムコに来てほしいかも。永谷、の姓になって、未来へ繋いでいってほしい。考えかた昭和だな、俺。まあ、単純にほなみに嫁に出てほしくないだけだけどさ。さみしいし。



 たくさんたくさん、ほなみのこれからを、見届けてやりたかった。高校の制服姿とか成人式の着物とか、ウエディングドレスとかさ。絶対、綺麗だよな。父さんは大変だろうけど。気がかかりだろうな。可哀想。あれ、俺おっさんみたいなことばっか言ってる?まあ、いっか。本音だし。



 えーと、ここまでごちゃごちゃ沢山書いたけど、俺はほなみに笑って幸せに生きてほしい、ってこと。です。はい。それだけが、全て。絶対に、俺のことを背負わないで。


 自分勝手に、決めちゃってごめんな。こんなアニキだけど、兄ちゃんは、ほなみのことが大好きだから。ほなみが、俺の妹で、幸せだった。



 きょうともみつきとも、楽しく明るく、最高にハッピーに過ごして、笑って生きていけよ!


 ほなみ、ごめんな。

 ありがとう。



 じゃあな。





 空より




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