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体育館で祝福を
しおりを挟む都心から離れたこの町の、最寄り駅へと歩く。
「それにしても…羽海ちゃんから聞いたことあったけど、ここいい場所だねー?」
「でしょ?なんてったって、あたしが初めて彼氏といっしょに学校サボって来た場所だもん」
「はいはい、その自慢は何回も聞かされたよ。耳にタコ。でも、せいしゅーん。いいなー。俺も誰かと来ようかなー。」
「断固反対。爽やかな思い出の場を汚さないでくれます?」
「手厳しいねえ」
胸の前で×印を両腕を使って大きく表せば、可笑しそうに肩を揺らしている。その上に陽気な鼻唄までもを奏で始めた外村の隣で徐々に首を後ろへ落とし、空と対峙した。
「……それにしても、星、すごいね。」
「ああ……うん。今日は晴れてるから、織姫と彦星、無事会えるんだろうねー」
「うわぁ、外村、ロマンチスト~」
「……1年に唯一の日ぐらい、会わせてあげてほしいじゃん」
「……ふは。」
「なにー?」
今度はこっちが可笑しくなって笑えば、目を丸くして顔を覗き込んでくる。大雑把に「なんでもない」と誤魔化しながら……どんな人間関係を築いていようとも、髪を青色に染めていようとも、根が純粋で暖かい心を持つ外村と知り合ってから、もうすぐ2年が経つことに気付いた。
その現実に、驚きしかない。
月日、というものは。
何を思ったって、誰の元にも平等に、容赦なく流れるのだ。
小一時間かけて住み慣れた町に戻り外村と別れた後、母校である中学の体育館に顔を出した。午後8時を回ったそこには明かりがついており、賑やかな声が響き渡っている。
「あ、羽海先輩!」
「え、あ、本当だ!羽海!久しぶり!」
「おっ、やっと来たかー!」
入口からそっと中を覗いて数秒後、すぐ近くで円になり座っていた数人があたしに気付き、声をかけてきた。今この体育館には、中学校時代にバスケ部に所属していた歴代のメンバーが五学年に渡って集結している。女子も男子も、誰ひとり欠けることなくいる。≪誕生日祝賀会≫と名目打つ集い。その≪主役≫にスポットが当たっている人物は、あたしと同じ年に男子バスケット部でキャプテンを担っていた。その人物と関わった先輩2学年、同級生、後輩2学年……が集まれば、あたしも必然的に真ん中の世代にあたるため、言葉を交わす相手によって敬語とタメ口が入り交じり少しややこしい。
けれども懐かしいメンバーに笑って、頭を下げた。
七夕の日。7月7日が誕生日のある男のために、こうしてこのメンバーでこの場所で集まったのは、今日で2回目。
「待ってたよ」と、さっきメールをくれた彼女に「連絡しないままでごめん、茉莉」と謝った後は、去年と同じように時を刻んでいった。
『はい、今グー出したやつ集ー合ー!』
じゃんけんでランダムにチームを作ってバスケを楽しみ、
『今年はチョコレートにしました~!』
全員でお金を出しあい予約していた特大のバースデーケーキを持ち込み皆で食べて飲んで、
『ハッピバースデートゥーユー』
『ハッピバースデートゥーユー』
『ハッピバースデーディーアそーらー!』
『ハッピバースデートゥーユー……っ!』
大声でバースデーソングを合唱し、
『今年二十歳チームはモップ掛け、今年十九歳チームもモップ掛け、今年十八歳チームがボール片付け、今年十七歳チームでゴミ拾い、今年十六歳チームはそれぞれの補佐で!』
『『『『『『はいっ!』』』』』』
掃除と片付けを終え、
『今年も、ありがとうございました。』
場所を提供してくれた先生方にお礼を述べ、解散となった。
主役不在の誕生日祝賀会は、ひとり残らず最後まで、明るい表情で。ひとり残らず最後まで、鼻を啜っていた。
ひとり残らず、笑って、
ひとり残らず、泣いていた。
それほど、偉大、だったのだ。
1年前の5月、あるどしゃ降りの雨の日、学校の最上階から転落して亡くなった男は。
それほど、多くの人々から、愛されていたのだ。
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