上 下
3 / 11

1.目覚め(後)

しおりを挟む
 まあ、そんなこんなで三日後に、俺、カイン・ジャガンナートはイデアル王国の国選勇者として大々的に認定され、同時に現状は名ばかりだがイデアル王国の子爵位を与えられ、まあ色々と思惑渦巻く中で、他国の次代の重鎮達と人脈作りや、示威の為に、この世界最古で最大の国であり、全ての国と交流を持つセントリアス神聖帝国の帝立学園に入学するという訳である。

 逆に、俺が入学するからこそ、この時期の帝立学園には俺と同世代の各国の重鎮のご令息・ご令嬢達や特別な立場の子供が集まった特殊な状態になっている。それらの生徒は、元々神聖帝国でも特に高位の貴族や神聖帝国との交流の為に入学した他国の貴族などを入れる為の特別クラスに所属することになっている。

 世界会議で一段落ちる国選勇者という扱いを決められたとはいえ、勇者の称号を持つ俺に色々な思惑を持って近づいてくる人間は多いことだろう。

 ちなみに、セントリアス神聖帝国は最古で最大の国ではあるけど、その国で一番の帝立学園が最高の教育機関という訳ではない。本来はあくまで神聖帝国のエリート育成の為の学園なので、教育の水準は満遍なく世界トップクラスではあるが一番ではない。

 戦闘分野での教育水準なら、イデアル王国で一番の教育機関である王立学園の方が高いだろうし、他にも特定分野に於いてだけならセントリアス神聖帝国の帝立学園より高い教育水準を誇る学園は幾つかなら存在する。

 さらに、教育機関ではなく徒弟制での教育を行っているだけだが、魔術に突き抜けた変人の巣窟の魔塔や、こんなファンタジー世界で普通に機械とか弄っている工房など、特定分野でヤバイ程突き抜けている組織やそこで教育を受けている人材は別に存在するのである。ちなみに、そういうヤバイところはそれこそ本当に出自など気にしなかったりする。魔術或いは技術の探求。その成果を継ぎ、さらに発展させていくに足る資質と熱意が全てという考え方なのだ。なので、今年帝立学園に入学する、魔塔の最年少認定賢者なんかも平民出身だ。

 しかしまあ、魔塔の人間がわざわざ帝立学園に入学するというのは、魔塔にも政治は存在するということだろうか。最年少賢者はその優秀さに反し、魔塔の人間としては極めてまとも寄りという噂なので、貧乏籤を引かされそうではある。

 魔塔や工房のような価値観は珍しいが、目端の利くまともな国ならばだいたいの教育機関に平民の特待生枠も存在する。この世界では称号というファクターが持つ意味が、その称号が関与する分野での将来性という意味で極めて大きいので、称号持ちを平民だからと教育の機会を与えず人材として取り込めないのは、国として多大な損失なのだ。それでもなお、身分に拘り、平民に教育の機会を決して与えない愚かな国も存在するが。

 称号は本人以外、極めて希少な手段でしか確認できないが、称号持ちの価値を考えれば自己申告も当てにはできない。嘘に関する子供の心理や、将来の破綻を考えない貧しい平民の親が子供に何か吹き込む可能性を考えれば、称号持ちを早く教育する為に見つけ出したい幼い子供の時期こそ、より本人の申告だけでは確実ではない。何より称号を『何時』『誰が』得るのか、全く予想が付かない。そもそも称号持ちの絶対数そのものが少ないし、称号は成した業績、或いはその者の本質を示すものなので、何の資質も持たず能力も身につけなかった大人が得る可能性はまず無いが。

 なので、称号持ちを取り逃さない為に、称号持ちに至る者が生まれる可能性を増やす為に、平民の幼い子供に基礎教育を施す学校を国で用意したりもしている。称号を自己申告した子供にはその称号に沿うだろう方向性の教育を試み、確認の精度を上げている。そうして国の人間が平民の子供の成長の様子を確認することで、称号持ちと思われる素質を持つ者を見逃さないようにしているのだ。国の予算の問題もあるし、貧困故に子供を働かせる親も居るから完璧ではない。

 それと今までの俺のように、国で現役の、第一線で活躍している人材に直接徹底的に教えられた方が、学園に通うよりも教育の質は高いだろう。……そもそも俺は、まだ学園に通う年齢にすらなっていなかったのだが。まあ、教育の水準はその国の人材の質にも依ることになるが、幸い我がイデアル王国の武の方面の人材は世界でもトップクラスだと言えるからな。……少々行き過ぎている程に。

「いただきます」

 さて、色々と思い返し整理している間に、食卓までやって来ていた。母と向かい合い食卓につき、食事前の挨拶をする。

 偉大な祖父を持つ我が家だが、家自体は貴族の家としてはこじんまりとしたものである。父の爵位の男爵位で考えても、宮中貴族とはいえ、小さい方だろう。

 これは母の希望だ。なにせ母は祖父が一代騎士になるまで、生まれてから十三歳までの間、冒険者だった祖父と二人で暮らしていたのだ。母が生まれた時には既に祖父は一級冒険者で、金銭的に苦労はしなかったということだが、基本的に宿屋暮らしで、祖父が仕事に出ている間は知りあいの女性などに面倒を見てもらっていたのだそうだ。ある程度の年齢になったら、自分から仕事の手伝いなどもしていたらしい。

 そんな暮らしをしていたんじゃあ、それは大きく豪奢な屋敷で、大量の使用人を雇って、常に傅かれての生活など性に合わないだろう。

 今でも、料理や掃除など、母はメイドと一緒に率先して働いている。社交界など苦手で全く出ないようとしない。だが、武を尊ぶこの王国で、魔王を撃退した祖父の娘であり。その祖父からの繋がりで国王を始めとした国でも最上位の面々とは直接の知り合いで、しかもその気性が気に入られている母は、アンタッチャブルな存在として、好きに生きる事を許されている。

 警護については、そもそもイデアル王国は島国であり、人の出入りの監視は容易な上、武力という面に於いては世界でもトップクラス。まして、王都ともなれば、その治安は万全といえる。王都に住んでいる時点でまず心配は要らないのだ。

 そして、父も、母の夫ということで、上から目をかけられているらしい。同期の中では異例の出世速度らしいのだが。時折遠い目をして。「善意からとはいえ。常に限界ギリギリを見極めて、鍛えられ、出世させられる毎日。……書類が、書類の山が」などと呟いている。

 前世の受験勉強の毎日を思い出した。……今度父には良い酒を差し入れておこう。

 そんな母なので、本来使用人も雇う必要はないのだが、今は年若いメイドを二人雇っている。二人は父の親戚筋で、まあ俺にとっても親戚ということになる。

 何せ家は、一流冒険者として稼いでいた祖父の遺産や、祖父の功績に国から与えられた褒賞などで、財産はたっぷりとある。なので奉公先を探していた父の親戚筋の娘を雇ったのだ。

 雇った当初は、二人の教育の為に、年配の経験豊富な侍女を、国王に仲介してもらい一年程雇っていたが。今では教育も終わり、二人が使用人としての技能を修めたので、雇っているのは二人だけである。活発で常に明るいミーナ十二歳と、おませでいつも大人ぶりたがるフラウ十三歳。

 学園に入学するのに家を離れるんだし、二人にもちゃんと挨拶しておかないとな。

 母が中心になって作っただろう、俺にとっておふくろの味と言える味付けの料理を口にしながら、そう考えた。

 さて、あとは前世の記憶を思い出すなんて特殊な出来事があったんだ、何か影響があるかもしれないし、一応称号を確認しておくか。

 意識をして見ようとすれば、それは自然と脳裏に浮かんできた。

≪勇者――■■■■■――≫

 ……え? なんか増えている? 勇者の後に追加? 纏めて一つ?

 てか、『■■■■■』ってなんだ?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...