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3章 〜加護のマント
対決開始
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ランジアは誰も住んでいないエルザ・エルマ姉妹の家へ。ダンと一緒に教会に戻って来た俺は、扉の前に立つと肩に掛けた袋から角笛を取り出した。
「では、お気をつけて」
「ああ、そっちもな」
ダンが物陰に隠れる。俺は角笛を口に当てると…思い切り息を吹き込んだ。
___が、鳴らない。
「あ…あれ?」
一応、レジテイジにいる間に吹き方は教わったのだが、これがかなり難しい。高々と笛を鳴らし、人を集めたかったのだが…
「おい、何をしている?」「教会にご用で…ああっ、あなたは!」
しかし、間抜けな余所者の姿はそれだけで人目を引いたようだ。表の騒ぎに、教会の中から修道士が数名出てきた。その一人は、昨日俺を神父の元へ案内した奴だった。
「また神父様を侮辱に来たのですか。帰りなさい! あなたには、もはや」
「いやいや、昨日のは本心じゃない。その、確かめたかったんだよ。神父様の徳がどれほどものか」
「確かめるなんて、罰当たりな…」
「いいからさ!」
俺は強引に、彼の肩に腕を回して教会の中へ進んだ。
「会わせてくれよ。ちゃんと謝るからさ」
「…自らの行いを悔い、改める。素晴らしいことですな」
「ああ、俺が間違ってたよ。神父様の行いは、素晴らしいことだ。最初から分かってたさ」
地下室で再会した神父は、昨日の狼藉など気にもとめない様子で、穏やかな顔で俺を迎えた。
「それで? 昨日の行いについて謝りに来られたのであれば、もう良いでしょうとも? 私も責め立てなどとは思いません」
「まあ、もう少し話をさせてくださいよ。例えば…お祈りの作法とか」
「心から神に委ねる、その気持ちがあれば、細かい方法など問いませんよ」
「いやー寛大なお心。頭が下がるね。ただ、ここじゃ寛大な神父様だから良いけど、もっと都会じゃそうもいかないだろ? 俺は田舎者でさ…あっちこっちで笑われて、うんざりしてるんだ」
言いながら俺は、まだ背後に突っ立っている例の修道士を振り返った。
「…勤めに戻りなさい」
「ですが…」
「私は大丈夫ですよ」
「…」
憮然とした顔のまま、修道士が部屋を出ていく。
二人きりになると、神父はジロリと俺を睨んだ。
「…隠し事とは、感心しませんな。私に、何が言いたい?」
「金がいるんだろ」
ズバリ言った俺に、神父は溜め息を吐いた。
「まだ言いますか。…この街には、昔から病が根付いているのです。祝福の陰には、悪魔の呪いがある…きっと、神からの試練なのでしょう」
「試練なものかよ。美味しい飯の種だろうが」
「いい加減になさい!」
とうとう、神父が怒鳴った。
「結果として、私共の元へ財産が集まっているように見えるかもしれません。ですがそれは結果に過ぎません。それに、然るべき手続きを踏んで、すぐに公共の財産に…」
「…公共の、ねえ」
ゆっくりと彼の言葉をなぞりながら、俺は頭をフル回転させた。公共の財産にするというのは、でっち上げか? それとも、ある程度は本当のことを言っているのか?
次のカードを、切る時か。
「そのために…あんたは、罪もない人々に毒を盛ったのか?」
「!!?」
その瞬間、神父の顔色が変わった。
「な…何を根拠に、そのような」
「聖水だよ! 病人に配ってる聖水に、毒を混ぜたんだ。そうして病気を悪くさせて、その家族から金を巻き上げて、挙げ句レジテイジに送り出して…」
言いながら、俺は内心首をひねった。これだけ具体的な話をして、問い詰めているのだから、神父の顔色はどんどん悪くなってくるはずだろう。ところが、話を進めるにしたがって、彼の顔から狼狽は薄れ、余裕すら浮かんできたのだ。
「…へえ。証拠は」
平然と言い返す神父。
「夕暮蘭…そいつを水に混ぜたんだろ」
「なるほど、確かにそれを飲ませれば、病は癒えるどころか悪化するでしょうね。…それで、証拠は?」
「っ…」
俺は、どきりとした。確かに、水を飲んだ虫が死んだのを、俺は実際に見た。だが、それをこの男にも見せることはできるか? それに、見せたところで次に言ってくることは分かりきっている。「夕暮蘭の実物を見せろ」だ。
「…こ、ここに持ってくるわけ無いだろ」
「手ぶらで、私を糾弾しに来たと? まさかまさか」
「持ってきたところで、あんたに握り潰されておしまいだ。…信頼できる仲間が持ってるぜ」
「ほう…」
口元に笑みさえ浮かべながら、俺を見つめる神父。俺は深呼吸し…ふと、彼に背を向けた。
「お帰りですか」
「…便所だよ。ここで、神妙に待ってろ」
そう言い捨てると、俺は地下室を出た。
「では、お気をつけて」
「ああ、そっちもな」
ダンが物陰に隠れる。俺は角笛を口に当てると…思い切り息を吹き込んだ。
___が、鳴らない。
「あ…あれ?」
一応、レジテイジにいる間に吹き方は教わったのだが、これがかなり難しい。高々と笛を鳴らし、人を集めたかったのだが…
「おい、何をしている?」「教会にご用で…ああっ、あなたは!」
しかし、間抜けな余所者の姿はそれだけで人目を引いたようだ。表の騒ぎに、教会の中から修道士が数名出てきた。その一人は、昨日俺を神父の元へ案内した奴だった。
「また神父様を侮辱に来たのですか。帰りなさい! あなたには、もはや」
「いやいや、昨日のは本心じゃない。その、確かめたかったんだよ。神父様の徳がどれほどものか」
「確かめるなんて、罰当たりな…」
「いいからさ!」
俺は強引に、彼の肩に腕を回して教会の中へ進んだ。
「会わせてくれよ。ちゃんと謝るからさ」
「…自らの行いを悔い、改める。素晴らしいことですな」
「ああ、俺が間違ってたよ。神父様の行いは、素晴らしいことだ。最初から分かってたさ」
地下室で再会した神父は、昨日の狼藉など気にもとめない様子で、穏やかな顔で俺を迎えた。
「それで? 昨日の行いについて謝りに来られたのであれば、もう良いでしょうとも? 私も責め立てなどとは思いません」
「まあ、もう少し話をさせてくださいよ。例えば…お祈りの作法とか」
「心から神に委ねる、その気持ちがあれば、細かい方法など問いませんよ」
「いやー寛大なお心。頭が下がるね。ただ、ここじゃ寛大な神父様だから良いけど、もっと都会じゃそうもいかないだろ? 俺は田舎者でさ…あっちこっちで笑われて、うんざりしてるんだ」
言いながら俺は、まだ背後に突っ立っている例の修道士を振り返った。
「…勤めに戻りなさい」
「ですが…」
「私は大丈夫ですよ」
「…」
憮然とした顔のまま、修道士が部屋を出ていく。
二人きりになると、神父はジロリと俺を睨んだ。
「…隠し事とは、感心しませんな。私に、何が言いたい?」
「金がいるんだろ」
ズバリ言った俺に、神父は溜め息を吐いた。
「まだ言いますか。…この街には、昔から病が根付いているのです。祝福の陰には、悪魔の呪いがある…きっと、神からの試練なのでしょう」
「試練なものかよ。美味しい飯の種だろうが」
「いい加減になさい!」
とうとう、神父が怒鳴った。
「結果として、私共の元へ財産が集まっているように見えるかもしれません。ですがそれは結果に過ぎません。それに、然るべき手続きを踏んで、すぐに公共の財産に…」
「…公共の、ねえ」
ゆっくりと彼の言葉をなぞりながら、俺は頭をフル回転させた。公共の財産にするというのは、でっち上げか? それとも、ある程度は本当のことを言っているのか?
次のカードを、切る時か。
「そのために…あんたは、罪もない人々に毒を盛ったのか?」
「!!?」
その瞬間、神父の顔色が変わった。
「な…何を根拠に、そのような」
「聖水だよ! 病人に配ってる聖水に、毒を混ぜたんだ。そうして病気を悪くさせて、その家族から金を巻き上げて、挙げ句レジテイジに送り出して…」
言いながら、俺は内心首をひねった。これだけ具体的な話をして、問い詰めているのだから、神父の顔色はどんどん悪くなってくるはずだろう。ところが、話を進めるにしたがって、彼の顔から狼狽は薄れ、余裕すら浮かんできたのだ。
「…へえ。証拠は」
平然と言い返す神父。
「夕暮蘭…そいつを水に混ぜたんだろ」
「なるほど、確かにそれを飲ませれば、病は癒えるどころか悪化するでしょうね。…それで、証拠は?」
「っ…」
俺は、どきりとした。確かに、水を飲んだ虫が死んだのを、俺は実際に見た。だが、それをこの男にも見せることはできるか? それに、見せたところで次に言ってくることは分かりきっている。「夕暮蘭の実物を見せろ」だ。
「…こ、ここに持ってくるわけ無いだろ」
「手ぶらで、私を糾弾しに来たと? まさかまさか」
「持ってきたところで、あんたに握り潰されておしまいだ。…信頼できる仲間が持ってるぜ」
「ほう…」
口元に笑みさえ浮かべながら、俺を見つめる神父。俺は深呼吸し…ふと、彼に背を向けた。
「お帰りですか」
「…便所だよ。ここで、神妙に待ってろ」
そう言い捨てると、俺は地下室を出た。
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