上 下
15 / 20
2章 〜セカンド・アタック

金で買う明日

しおりを挟む
「よう、待ってたぜ。イチロのおっさん」

 ダンジョンを出たところで待ち構えていたのは、あの時ギルドで俺に声をかけた大男。___悪名高きフォルニス。彼はニヤニヤしながら、2人の取り巻きと共に俺たちを見た。

「ケツの青いひよっこのご指導とは、珍しい。死期でも悟ったかよ。え?」

「な、何でここに来た…盗賊は」

「ほれ」

 フォルニスは、何かを持ち上げた。

「!!? …お゛えっ」

 星明かりでそれが何か悟った時、俺は思わずえづいた。
 フォルニスが掲げたのは、髭面の盗賊の首領…その、生首だった。取り巻きが、デブとガリの首をつま先で蹴って寄越す。

「いやー、さっさとこうしとくべきだったぜ。こいつらは腕っこきの剣士でな。ケチな盗賊なんざ、ちょちょいのちょいだ。……分かるよな。テメエらもだよ!」

 フォルニスが、盗賊の首を放り捨て、斧を掴んだ。

「その荷物を置いて行きな。そしたら、命は助けてやる」

「い、イチロ…どうするんだ」

「…おい、フォルニス」

 すると、イチロが俺たちの前に進み出た。小柄な彼は、一切怯むこと無く、フォルニスを睨みつけた。

「そいつはできねえ相談だぜ。なんたって、色んな奴らに報酬の約束をしてるからな」

「ハッ! そんな約束が、レジテイジで通用するかよ! どいつもこいつも、威勢の良いこと言って、次の日にはくたばっちまうんだぜ? それこそ、今のお前らみてえに…」

「そして、お前みたいにな」

「え?」

 後ろから飛んできた言葉に、フォルニスは虚を衝かれた顔になった。
 次の瞬間、彼の首には、短刀が深々と突き刺さっていた。

「あ゛っ…なに…っ!」

 短刀を握っているのは、何と、後ろに立っていた彼の取り巻きの一人だ。もう片方が長剣を抜くと、一振りで彼の首を切り落としてしまった。

「!! …!!?」

 首を失い、崩れ落ちるフォルニス。口をぱくぱくさせる俺を尻目に、イチロは鼻を鳴らした。

「何だって、おれを出し抜けると思った、え?」



「少々お待ち下さいね」

 ギルド裏の酒場にて。イチロがカウンターに声をかけると、表で受付をしていた女が出てきた。このカウンターは、ギルド表の受付と繋がっているのだ。彼女に戦利品の査定を頼むと、一度奥に引っ込み、それから大きなそろばんを抱えた一人の男を連れてきた。

「これはこれはイチロ様。いつもご贔屓に」

「名のある貴族の財宝だろう、よろしく頼むぜ」

「かしこまりました。では……むむ、これは60年前に、ハプシオン家が落札したルビーのペンダント…」




 背負子の中身を鑑定し終えると、男はそろばんを弾きながら言った。

「合計で、小金貨70枚でしょうか」

「ななっ…」

 またしても、想像を超えた額に、俺は絶句した。イチロとガーデナは平然として「こんなものか」と頷いている。
 男が金を取りに行く間、俺はイチロに尋ねた。

「いつの間に…フォルニスの取り巻きを、味方につけてたんだ?」

「昨日、酒場を出た直後だ。フォルニスの奴が、お前の話や出立の準備をするおれを見て、獲物を横取りにかかるのは分かりきってた。だから先手を打った」

「でも、あんなにあっさり裏切って…」

「言っただろ、報酬は先払いに限ると。聞けば、案の定奴はおれたちからぶん取った財宝で報酬を支払う気でいた。だが、おれたちが手ぶらで帰ったらどうする? こっちに付いてフォルニスを仕留めれば、今すぐに小金貨2枚ずつやると言ったら、あっさり協力してくれたぜ」

 ランジアの助言がなければ、本当に俺たちは戦果ナシで帰路についていた。だが、そうなるとイチロは大損のはずだ。
 俺の考えを読み取ったのか、彼は鼻を鳴らした。

「上手くいく仕事のほうが少ねえって、さっきも言ったろ。10回しくじっても、11回目で稼げば良い。それにな、ボウズ」

 青白い、しかし筋肉に覆われた両腕を差し上げ、溜め息のように呟く。

「…命に勝る宝はねえ。明日の命が金で買えるなら、買わない手はねえ」

「…」

「お待たせしました」

 そこへ、男が戻ってきた。手には大きな革袋を持っている。

「小金貨70枚でございます」

「ああ」

 イチロはそれを受け取ると、中から数枚の金貨を掴み出し、まずガーデナに差し出した。

「世話になったな。また頼む」

「ん、ありがと!」

「ボウズ、お前には…」

 彼が俺に握らせたのは、何と小金貨8枚。

「こ、こんなに」

「馬鹿が。お前じゃなくて、お仲間の分だ。助言を聞いて従った以上、報酬は払わなきゃならねえ」

「ランジアの…」

 イチロは残りの金貨を仕舞うと、俺たちに背を向けた。

「じゃあな。次にどうするかは、自分で考えろ」

 そう言うと、足早に酒場を出ていってしまった。
 残ったガーデナは、大きく欠伸をした。

「ふぁ…もうすぐ明け方だね。疲れたし、あたしは寝るよ。今日はありがとね」

「ああ、こっちこそ…その、もしまた一緒に行くなら…」

 するとガーデナは、カウンターの上に掲げられた大きな黒板を指差した。そこには、人の名前と、その隣に何かの数字がびっしりと書かれていた。

「そこに、誰かが雇う時の報酬の相場が書いてあるんだ。あたしや、おじさんの名前もあるよ」

「気付かなかった…ええと、ガーデナさんは……うえぇっ!?」

 ガーデナの名前の横には、『小金貨12枚』と書かれていた。イチロに至っては、『小金貨30枚』とある。
 ガーデナが、悪戯っぽく笑った。

「君の名前も、これからそこに載るよ。最初は小金貨1枚からスタートさ。でも、頑張れば増えていくよ」

 とは言え、今の手持ちではイチロどころか、ガーデナすら雇えない。溜め息を吐いた俺の方を、ガーデナがぽんと叩いた。

「もっと大きくなったら、またやろう。それまで、妖精ちゃんと仲良くね。…じゃ、おやすみ!」

 去っていく背中を眺めて…手の中の重みを思い出した俺は、慌ててカウンターに行き、重い金貨を手形に変えたのだった。
 2度目の挑戦…3人の仲間を奪ったダンジョンへのリベンジは、何だか分からない内に、成功で終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

声楽学園日記~女体化魔法少女の僕が劣等生男子の才能を開花させ、成り上がらせたら素敵な旦那様に!~

卯月らいな
ファンタジー
魔法が歌声によって操られる世界で、男性の声は攻撃や祭事、狩猟に、女性の声は補助や回復、農業に用いられる。男女が合唱することで魔法はより強力となるため、魔法学園では入学時にペアを組む風習がある。 この物語は、エリック、エリーゼ、アキラの三人の主人公の群像劇である。 エリーゼは、新聞記者だった父が、議員のスキャンダルを暴く過程で不当に命を落とす。父の死後、エリーゼは母と共に貧困に苦しみ、社会の底辺での生活を余儀なくされる。この経験から彼女は運命を変え、父の死に関わった者への復讐を誓う。だが、直接復讐を果たす力は彼女にはない。そこで、魔法の力を最大限に引き出し、社会の頂点へと上り詰めるため、魔法学園での地位を確立する計画を立てる。 魔法学園にはエリックという才能あふれる生徒がおり、彼は入学から一週間後、同級生エリーゼの禁じられた魔法によって彼女と体が入れ替わる。この予期せぬ出来事をきっかけに、元々女声魔法の英才教育を受けていたエリックは女性として女声の魔法をマスターし、新たな男声パートナー、アキラと共に高みを目指すことを誓う。 アキラは日本から来た異世界転生者で、彼の世界には存在しなかった歌声の魔法に最初は馴染めなかったが、エリックとの多くの試練を経て、隠された音楽の才能を開花させる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...