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2章 〜セカンド・アタック
吹けない角笛
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夕刻。俺は待ち合わせ場所の荷降ろし場にいた。多くの人が訪れるレジテイジでは、その分荷物の出入りも盛んだ。朝早くから多くの荷物を積んだ馬車やロバが、休む間もなく訪れては、荷物を降ろして去っていく。日の暮れる今頃になってようやく落ち着いてくるようで、大きな木造の門の前は閑散としていた。
「あれ、俺が一番乗りか…」
「よう、ボウズ」
「!」
後ろから飛んできた声に振り返ると、イチロが歩いてきた。前に俺が持っていたくらいの大きさの背負子を背負っている。後ろには、一台の馬車が控えていた。
「御者ごとこいつを借りていく。ただし、雑木林の手前までだ」
「盗賊に襲われるからか」
「ああ。おやじさんも巻き込むわけにはいかねえ。奴らは、ダンジョンに行く時は襲ってこないだろうが、馬車だけになったら話は別だ」
「悪いね、命は惜しいんでさ」
馬に餌をやっていた青年が声を上げた。彼が御者のようだ。
「ガーデナさんは?」
「もうじき来るだろ。…ほら」
「あーっ、またあたしが最後かーっ!」
ガーデナは走ってくると、馬車を見た。
「…これで行くのね」
「ああ。…おい、ボウズ」
「何だ?」
イチロは背負子の中から、紐付きの小さな布袋を取り出して、俺に差し出した。
「これは…」
受け取ると、中には円錐形の何かが入っている。
「口を少しだけ開けて、中を見てみろ」
「?」
言われたとおりにすると、中には獣の角をくり抜いて作った、一本の角笛が入っていた。そのらっぱの先端から出てきたものを見て、俺は思わず叫びかけた。
「! ら、ランジア…」
「昨日ぶりだね、ソータ」
小声で言うランジア。イチロが低い声で言った。
「約束を守ったから、そいつはお前に返す。ついでに、その角笛と袋もやる。…そいつから、お前のことを聞かせてもらったぜ。戦利品とか商品じゃなく、仲間だって思ってると」
「…間違ってなかったかな」
「いや…俺も、同じことを考えてた」
「そっか。…良かった」
角笛の中で微笑むランジア。俺も、笑った。
「はいそこ、イチャイチャしない! で、そろそろ出発?」
「ああ。後は馬車の上で話せばいい」
俺たち3人が馬車の荷台に上ると、御者が手綱を振るった。
「よし、じゃあ行くよ!」
馬車が動き出す。
揺れる荷台の上で、俺はイチロに声をかけた。
「この角笛に、ランジアを隠せば良いんだよな?」
「知るか。だが、吹きもしねえ楽器をぶら下げてる奴を、他の奴らが見ててどう思うだろうな」
「…練習するさ」
「ね、ちゃんと返ってきたでしょ?」
ガーデナの言葉に、俺は小さく頷いた。
馬車が街を出て、広い道路を進む。夕日が、地平線に近づいていく。
「にしても、何でこんな遅い時間に出発するんだ? もうすぐ、日が暮れちまう」
「日没には間に合う。…日没と同時に、突入する」
「何で…」
「おじさんの信条さ。こっそり潜って、こっそり帰ってくる」
「見送りなんざ、戦利品を横取りしに来るだけだ。誰も働かねえ時に働く、それがおれのやり方よ」
イチロは、じっと前方を見据えて呟いた。
「でも…待ち合わせのところ、結構人がいた気がするが…」
「今回は特別だ。お前の二の轍を踏まねえようにな」
「…」
つまりは、盗賊対策か。それにしても、この3人でどうやって盗賊に対処するのだろうか。俺は重い物は持てるが、喧嘩なんてそうそうしない。ガーデナは身軽でも戦う感じじゃないし、イチロも腕っ節は強そうだが、これまでの言動からしてまず戦いなんてしないだろう。
「ま、今は言わねえぜ。ガーデナにも言ってねえ」
「それって、信用してないって」
「さあな」
吐き捨てたきり、彼は何も言わなくなってしまった。
馬車を降り、雑木林を抜け、荒野の裂け目に辿り着くと同時に、宣言通り日が暮れた。明らかに無防備な俺たちだったが、確かに盗賊には襲われなかった。まだ手ぶらなのが分かっているのだろう。
大きな松明に火を灯しながら、イチロは言った。
「もう、ランジアを出していいぞ」
「! 分かった」
袋を開けると、角笛の中からランジアが飛び出してきた。
「ふぅーっ! やっと出られたよ」
「ほら、持て。お前が先頭だ」
松明を渡され、背中を叩かれた俺は、おずおずとダンジョンの入り口に向かった。前回の光景が、頭の中に蘇る。粘菌スライムに呑まれる、エルマ。それを助けようと、半狂乱のまま妹の後を追ったエルザ。そして、出口近くでゴブリンに捕まり…必死に掴んだ手を、俺は…
「…っ、キャトリーナ…」
「ほら、行け!」
乱暴に背中を押され、遂にダンジョンの中へ。3人の命を奪い、俺たちの出鼻を容赦なく叩き折った、ドラノイドのダンジョンへの、復讐が始まった。
「あれ、俺が一番乗りか…」
「よう、ボウズ」
「!」
後ろから飛んできた声に振り返ると、イチロが歩いてきた。前に俺が持っていたくらいの大きさの背負子を背負っている。後ろには、一台の馬車が控えていた。
「御者ごとこいつを借りていく。ただし、雑木林の手前までだ」
「盗賊に襲われるからか」
「ああ。おやじさんも巻き込むわけにはいかねえ。奴らは、ダンジョンに行く時は襲ってこないだろうが、馬車だけになったら話は別だ」
「悪いね、命は惜しいんでさ」
馬に餌をやっていた青年が声を上げた。彼が御者のようだ。
「ガーデナさんは?」
「もうじき来るだろ。…ほら」
「あーっ、またあたしが最後かーっ!」
ガーデナは走ってくると、馬車を見た。
「…これで行くのね」
「ああ。…おい、ボウズ」
「何だ?」
イチロは背負子の中から、紐付きの小さな布袋を取り出して、俺に差し出した。
「これは…」
受け取ると、中には円錐形の何かが入っている。
「口を少しだけ開けて、中を見てみろ」
「?」
言われたとおりにすると、中には獣の角をくり抜いて作った、一本の角笛が入っていた。そのらっぱの先端から出てきたものを見て、俺は思わず叫びかけた。
「! ら、ランジア…」
「昨日ぶりだね、ソータ」
小声で言うランジア。イチロが低い声で言った。
「約束を守ったから、そいつはお前に返す。ついでに、その角笛と袋もやる。…そいつから、お前のことを聞かせてもらったぜ。戦利品とか商品じゃなく、仲間だって思ってると」
「…間違ってなかったかな」
「いや…俺も、同じことを考えてた」
「そっか。…良かった」
角笛の中で微笑むランジア。俺も、笑った。
「はいそこ、イチャイチャしない! で、そろそろ出発?」
「ああ。後は馬車の上で話せばいい」
俺たち3人が馬車の荷台に上ると、御者が手綱を振るった。
「よし、じゃあ行くよ!」
馬車が動き出す。
揺れる荷台の上で、俺はイチロに声をかけた。
「この角笛に、ランジアを隠せば良いんだよな?」
「知るか。だが、吹きもしねえ楽器をぶら下げてる奴を、他の奴らが見ててどう思うだろうな」
「…練習するさ」
「ね、ちゃんと返ってきたでしょ?」
ガーデナの言葉に、俺は小さく頷いた。
馬車が街を出て、広い道路を進む。夕日が、地平線に近づいていく。
「にしても、何でこんな遅い時間に出発するんだ? もうすぐ、日が暮れちまう」
「日没には間に合う。…日没と同時に、突入する」
「何で…」
「おじさんの信条さ。こっそり潜って、こっそり帰ってくる」
「見送りなんざ、戦利品を横取りしに来るだけだ。誰も働かねえ時に働く、それがおれのやり方よ」
イチロは、じっと前方を見据えて呟いた。
「でも…待ち合わせのところ、結構人がいた気がするが…」
「今回は特別だ。お前の二の轍を踏まねえようにな」
「…」
つまりは、盗賊対策か。それにしても、この3人でどうやって盗賊に対処するのだろうか。俺は重い物は持てるが、喧嘩なんてそうそうしない。ガーデナは身軽でも戦う感じじゃないし、イチロも腕っ節は強そうだが、これまでの言動からしてまず戦いなんてしないだろう。
「ま、今は言わねえぜ。ガーデナにも言ってねえ」
「それって、信用してないって」
「さあな」
吐き捨てたきり、彼は何も言わなくなってしまった。
馬車を降り、雑木林を抜け、荒野の裂け目に辿り着くと同時に、宣言通り日が暮れた。明らかに無防備な俺たちだったが、確かに盗賊には襲われなかった。まだ手ぶらなのが分かっているのだろう。
大きな松明に火を灯しながら、イチロは言った。
「もう、ランジアを出していいぞ」
「! 分かった」
袋を開けると、角笛の中からランジアが飛び出してきた。
「ふぅーっ! やっと出られたよ」
「ほら、持て。お前が先頭だ」
松明を渡され、背中を叩かれた俺は、おずおずとダンジョンの入り口に向かった。前回の光景が、頭の中に蘇る。粘菌スライムに呑まれる、エルマ。それを助けようと、半狂乱のまま妹の後を追ったエルザ。そして、出口近くでゴブリンに捕まり…必死に掴んだ手を、俺は…
「…っ、キャトリーナ…」
「ほら、行け!」
乱暴に背中を押され、遂にダンジョンの中へ。3人の命を奪い、俺たちの出鼻を容赦なく叩き折った、ドラノイドのダンジョンへの、復讐が始まった。
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