初めてのダンジョン攻略で美少女パーティを全滅させた俺に明日は無い

あぢか

文字の大きさ
上 下
7 / 20
1章 〜マイナスからのスタート

冷たい戸

しおりを挟む
「何で、あんなところに捕まってたんだ?」

 広い通りに沿って歩きながら、俺はランジアに質問した。彼女はふわふわと俺の前を飛びながら、くるりと振り返って答えた。

「ダンジョンの中で寝てたら、いつの間にか人間に捕まっちゃったんだ。瓶に閉じ込められて、外に出たと思ったら、何だか分かんないけど凄い音がして、それから静かになって…で、キミに助けてもらった」

「ダンジョン? …って、荒野にある?」

「うん、そうだよ」

 どうやら、彼女はドラノイドのダンジョンで寝ていたところを、冒険者に捕まったらしい。そのまま戦利品として売り飛ばされるところだったが、ダンジョンを出たところで冒険者たちがさっきの盗賊に襲われ、そのままアジトに放置されていたようだ。恐らく、盗賊どもは、まさかあの汚い小瓶の中に、妖精が閉じ込められているとは思わなかったのだろう。
 ここで、ランジアの方が俺に質問してきた。

「それにしても、ボクを見ても驚かないんだね」

「ああ。まあ、妖精には前にも会ったことあるし…」

 俺の住んでいた山奥の村は、周囲を森に囲まれている。そこには鹿や猪は勿論、森に住むモンスターや妖精の類もいた。あれほど憎らしかった母親の言葉を、懐かしく思い出す。
 ___夜に、一人で森に入ってはいけない。魔物を見たら、挑んではいけない。そして

「…妖精さんには、親切にしなさい。て、お袋が言ってた」

「へぇ…キミのふるさとは、自然と調和した素晴らしいところなんだね」

「うっ…そ、そうとも言う」

 いちいち自然の顔色を伺う暮らしが嫌だった。周りの森を切り拓けば、もっと豊かな暮らしができると思っていた。しかし、そんな村の生き方は、ランジアのような自然の化身には好ましく映るようだ。

 歩き続けること数時間。空が白み始めた頃、ようやく道の脇にぽつぽつと民家が見えてきた。俺はその中の一つに歩み寄ると、戸を叩いた。

「おーい、誰かいないかー」

 しかし、返事がない。耳を澄ますと、向こうで微かに物音がするので、人はいるようだ。
 もう一度、戸を叩く。

「開けてくれー、頼む!」

「…」

 戸が、細く開いた。

「! ごめん、助けて…」

「レジテイジなら、あっちだよ」

 冷たい女の声が返ってきた。

「それどころじゃないんだよ。もう歩き通しで、腹も減って、死にそうなんだ」

「ウチは民泊なんてやってないよ。他を当たりな。大体、今いつだと思って」

「お願い、入れてあげて!」

 その時、俺の後ろに隠れていたランジアが、ふわふわと前に飛んできて訴えた。すると、戸の向こうで女が一瞬、黙り込んだ。
 やがて、ぽつりと言う。

「…妖精? 本物の?」

「そうだけど…なあ、頼むよ…」

 すると、戸が開いて中年の女が顔を出した。

「何だぁ、それならそうと早く言っておくれよ! さ、入って入って」

 先程までの邪険な態度とは打って変わって、にこやかに招き入れた。俺は困惑しながらも、ありがたく入らせてもらうことにした。
 家に入ると、女は俺をダイニングの椅子に座らせ、台所に向かいながら言った。

「静かにしておくれよ。旦那と子供が上で寝てるんだ」

「ああ、気をつける」

「ちょいと待っててね。冷や飯はあるけど、雑炊にしたほうが良いだろう…」

「ランジアは、何か食べなくて良いのか?」

「うん、ボクは水と日光があれば大丈夫」

「便利だなぁ…」

 安全なところに辿り着くと、積もりに積もった疲労と眠気が、どっと押し寄せてきた。俺はおかみさんが出してくれた温かい雑炊を何とか掻き込むと、そのままテーブルに突っ伏して眠り込んでしまった___



「…て! 助けて!」

「騒ぐんじゃないよ!」



「ん…?」

 苛立った声に、俺は目を開けた。椅子に座ったまま、いつの間にか寝ていたらしい。寒さに震えながら顔を上げると、耳元にランジアがくっついていて、声を上げた。

「! ソータ、助けて!」

「そいつをこっちに寄越しな!」

 見ると、空の麻袋を持ったおかみさんが、じりじりとこちらに近付いているところであった。

「な…何する気だよ」

「何って、お代を頂くのさ。…その妖精を、あたしに寄越しな」

 俺は、思わず立ち上がった。

「何でだよ!? 何でランジアなんだよ」

「妖精は、金持ちに高く売れるからね…」

 麻袋の口を広げ、ランジアに迫る女。ランジアは天井近くまで飛び上がって逃げる。

「こ、この前の人間も、そんなことを言ってた…妖精は、金になるって…」

「!」

 俺は、必死に頭を働かせた。こういう時、どうすればいい? 食堂で金が足りなかったことは、これまでもある。村から出てきた直後は、物々交換が通用しなくて苦労した。そんな時、店主から命じられたのは…

「…皿洗いでも掃除でも、何でもする。だから、ランジアは」

「間に合ってるよ。良いから、さっさと寄越せ!」

「薪割りでも荷物運びでも! 一日働くから」

「黙んな! その妖精は、一匹で大金貨2枚だ。あんたが一生かけて働いたって、稼げっこないね」

「そ、そんなに……っ、だったら」

 ぎらつく女の目つきに、俺は怒りを覚えた。豊作の年の村の作物、全部売って小金貨10枚弱。それで村の人々の暮らしが3年は保つ。大金貨と言ったら、それの更に10倍だ。港町で船の荷降ろしを丸一日やって、せいぜい銅貨40枚だというのに…

「この、雑炊1杯で大金貨2枚なんて、おかしいだろ!」

 空の皿を指差す。女はせせら笑った。

「この辺は、米も麦も高いんだよ。どこから来たか知らないけど、あんたの住んでるクソ田舎とは違うんだ」

「くっ、クソ田舎だと…っ、ああそうだよよく分かったな。だけど、こんな汚え皿に大金貨払う奴がどこにいるかよ! いいとこ銅貨3枚…いや2枚だな」

「ふざけんじゃないよ! 舐めたこと言ってると…」

 その時、家の戸が開いて、頭に手ぬぐいを巻いた一人の男が入ってきた。

「おうマース、帰ったぞ…何だお客さん、まだいたのかい」

「! 今だ、ランジア!」

「うん!」

「おわあっ!?」

 俺は女の夫と思しき男を突き飛ばすと、半開きの戸から勢いよく飛び出した。

「あっ、待ちな!」

「何、何だって…お、おい、今の」

 外はもう明るく、荷馬車や行商人がちらほらと目につく。俺は隣を飛ぶランジアに手を伸ばすと、服の首元に突っ込んだ。

「うぇっ、臭っ」

「我慢しろ! 見つかったら、また狙われるぞ」

「! …」

 ランジアが、服の中に顔を引っ込める。
 俺は、昨日より軽くなった足で、レジテイジを目指して走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...