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序章 〜ファースト・アタック
荒野の裂け目
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「…ここですね」
キャトリーナが立ち止まった。雑木林を抜けた先、乾いた荒れ地の真ん中には、尖った岩がいくつも積み上げられ、その中に見上げるほどの裂け目が開いていた。
レジテイジから王都に向かう荷馬車に便乗し、揺られること数刻。雑木林の手前で迂回するという荷馬車から降りると、4人でここまで歩いてきた。一番若いエルマなどは少し疲れた顔をしていたが、それ以上に全員が、これからの挑戦に向けた士気に満ち溢れていた。
「カンテラは持ちましたわね?」
「ええ」
「もう点けたよ」
姉妹が、火の点いたカンテラを掲げる。
陣形は、キャトリーナを先頭に、エルザ・エルマ姉妹がその後ろで2人並び、しんがりが俺だ。俺はレジテイジで買ったデカイ背負子を背負って、一番最後に裂け目の中に足を踏み入れた。
「…中はどうなってる? こっからだと、よく見えな…」
「…!」
入ってすぐに、キャトリーナが立ち止まった。すぐ後ろを付いて来ていた姉妹が、慌てて足を止める。
「うわっ」
「ど、どうされましたか?」
「今、何か踏みましたわ…」
キャトリーナが、その場にかがんで何かを拾い上げる。エルマが、ずいと近寄ってカンテラを掲げた。
「なになに? …!!」
エルマが、あっと叫んだ。
キャトリーナの手には、宝石の輝く首飾りが握られていた。
「凄い! …あ、あそこにも!」
エルマが奥に向かって走り出す。
「エルマ、待ちなさい!」
慌ててエルザも追いかける。光源を持った2人を、俺とキャトリーナも慌てて追いかける。
がしゃがしゃと何かを踏み砕きながら、エルマはあっちこっち立ち止まっては、宝飾品をいくつも拾い上げていく。
「ここにも…そこにも…あっ、これも! 凄い、お宝だらけだ!」
「これだけあれば…母さんを」
そこへ、キャトリーナが追いついた。
「はぁっ、はぁっ…ひ、光を持って、置いていかないでくださいまし」
「あっ、申し訳ありません…」
「まあ、良いですわ。望みのものは見つかったようですし……あら」
キャトリーナが何かに気付いて、その場にかがみ込む。そして、足元に落ちていた何かに手を触れた瞬間
「…! やっ」
慌てて立ち上がった。その手には、薄黄色のネバネバした何かがくっついていた。
「これっ、離れませんわ!?」
ぶんぶん手を振るキャトリーナ。エルザが、両手をかざして言った。
「粘菌スライムです! こういうときは…『清めよ』!!」
エルザの手から白い光が迸り、黄色いスライムを一瞬で蒸発させた。キャトリーナは、くっつかれていた籠手をさすりながら
「た、助かりましたわ…ありがとうございます」
と礼を言った。
「いえいえ、ご無事で何よりです」
「ほら、荷物持ち。出番だぞ」
エルマが、両手いっぱいに抱えた宝物を、俺の背負子にぽんぽん放り込む。
「うおっ、とぉっ」
ずっしりとした装飾品が、次々と籠に入れられていく。これは重い。一列分刈り取った麦の束より重い。
「大丈夫ですか?」
「ま、まだまだいけるぜ」
心配げに覗き込むエルザに、にっと歯を見せた。
「それにしても、入り口近くだけでこんなに…」
「ドラノイドは、相当溜め込んでいたようですわね」
「…と、これで全部! 早く行こう。粘菌スライムなんて雑魚、いくらいても瞬殺さ…」
エルマが歩き出して…立ち止まった。
「?」
足元を見ると、小さな粘菌スライムがブーツにへばり付いている。エルマは舌打ちすると、
「『清めよ』!」
スライムが消し飛ぶ。再び歩き出そうとした、次の瞬間
___巨大な塊が、落ちてきた。
「うわ___」
「エルマ!?」
悲鳴を上げる間もなく、エルマの肩から上が、黄色いどろどろに包まれた。それは、先程とは比べ物にならない、巨大な粘菌スライムであった。
「っ!? …っ、っっ」
「エルマ、エルマ!! ___『清めよ』」
エルザが駆け寄ると、絶叫するように唱えた。掌から放たれた聖なる波動は…巨大な粘菌の表面を、少しだけ焦がした。
「『清めよ』! 『清めよ』っ! ああ、エルマ!」
「離れなさい、このっ!」
エルザが呪文を繰り返し、キャトリーナが剣を叩きつける。しかし、分厚いスライムの身体はあらゆる攻撃を弾き、びくともしない。
「っ……っ…」
エルマの身体が、どさりと崩れ落ちた。もがく動きが、徐々に弱くなり…突然、がくがくと痙攣しだした。
「ああっ、エルマ、エルマぁ…」
「! お止めなさい! 妹さんは…」
エルザは半狂乱で、妹を呑み込むスライムを両手で剥がしにかかった。その手を伝って、スライムが姉の頭まで這い上がる。キャトリーナが肩を掴んで止めにかかったが、自身の籠手にまでスライムが触れると、慌てて手を引っ込めた。
完全に動かなくなったエルマ。そして、エルザの顔までスライムに呑み込まれていく。
「キャトリーナ! 2人はもう…」
キャトリーナは涙を流しながら、殆ど全身を呑み込まれた姉妹を見た。それから、ぽつりと言った。
「…せめて、お二人のお母様に」
「分かった、分かった! もうこれだけあれば、十分だろう!」
俺は、エルザの落としたカンテラを拾うと、叫んだ。
「もう出よう! このままじゃ、皆死んじまうぞ!」
キャトリーナが立ち止まった。雑木林を抜けた先、乾いた荒れ地の真ん中には、尖った岩がいくつも積み上げられ、その中に見上げるほどの裂け目が開いていた。
レジテイジから王都に向かう荷馬車に便乗し、揺られること数刻。雑木林の手前で迂回するという荷馬車から降りると、4人でここまで歩いてきた。一番若いエルマなどは少し疲れた顔をしていたが、それ以上に全員が、これからの挑戦に向けた士気に満ち溢れていた。
「カンテラは持ちましたわね?」
「ええ」
「もう点けたよ」
姉妹が、火の点いたカンテラを掲げる。
陣形は、キャトリーナを先頭に、エルザ・エルマ姉妹がその後ろで2人並び、しんがりが俺だ。俺はレジテイジで買ったデカイ背負子を背負って、一番最後に裂け目の中に足を踏み入れた。
「…中はどうなってる? こっからだと、よく見えな…」
「…!」
入ってすぐに、キャトリーナが立ち止まった。すぐ後ろを付いて来ていた姉妹が、慌てて足を止める。
「うわっ」
「ど、どうされましたか?」
「今、何か踏みましたわ…」
キャトリーナが、その場にかがんで何かを拾い上げる。エルマが、ずいと近寄ってカンテラを掲げた。
「なになに? …!!」
エルマが、あっと叫んだ。
キャトリーナの手には、宝石の輝く首飾りが握られていた。
「凄い! …あ、あそこにも!」
エルマが奥に向かって走り出す。
「エルマ、待ちなさい!」
慌ててエルザも追いかける。光源を持った2人を、俺とキャトリーナも慌てて追いかける。
がしゃがしゃと何かを踏み砕きながら、エルマはあっちこっち立ち止まっては、宝飾品をいくつも拾い上げていく。
「ここにも…そこにも…あっ、これも! 凄い、お宝だらけだ!」
「これだけあれば…母さんを」
そこへ、キャトリーナが追いついた。
「はぁっ、はぁっ…ひ、光を持って、置いていかないでくださいまし」
「あっ、申し訳ありません…」
「まあ、良いですわ。望みのものは見つかったようですし……あら」
キャトリーナが何かに気付いて、その場にかがみ込む。そして、足元に落ちていた何かに手を触れた瞬間
「…! やっ」
慌てて立ち上がった。その手には、薄黄色のネバネバした何かがくっついていた。
「これっ、離れませんわ!?」
ぶんぶん手を振るキャトリーナ。エルザが、両手をかざして言った。
「粘菌スライムです! こういうときは…『清めよ』!!」
エルザの手から白い光が迸り、黄色いスライムを一瞬で蒸発させた。キャトリーナは、くっつかれていた籠手をさすりながら
「た、助かりましたわ…ありがとうございます」
と礼を言った。
「いえいえ、ご無事で何よりです」
「ほら、荷物持ち。出番だぞ」
エルマが、両手いっぱいに抱えた宝物を、俺の背負子にぽんぽん放り込む。
「うおっ、とぉっ」
ずっしりとした装飾品が、次々と籠に入れられていく。これは重い。一列分刈り取った麦の束より重い。
「大丈夫ですか?」
「ま、まだまだいけるぜ」
心配げに覗き込むエルザに、にっと歯を見せた。
「それにしても、入り口近くだけでこんなに…」
「ドラノイドは、相当溜め込んでいたようですわね」
「…と、これで全部! 早く行こう。粘菌スライムなんて雑魚、いくらいても瞬殺さ…」
エルマが歩き出して…立ち止まった。
「?」
足元を見ると、小さな粘菌スライムがブーツにへばり付いている。エルマは舌打ちすると、
「『清めよ』!」
スライムが消し飛ぶ。再び歩き出そうとした、次の瞬間
___巨大な塊が、落ちてきた。
「うわ___」
「エルマ!?」
悲鳴を上げる間もなく、エルマの肩から上が、黄色いどろどろに包まれた。それは、先程とは比べ物にならない、巨大な粘菌スライムであった。
「っ!? …っ、っっ」
「エルマ、エルマ!! ___『清めよ』」
エルザが駆け寄ると、絶叫するように唱えた。掌から放たれた聖なる波動は…巨大な粘菌の表面を、少しだけ焦がした。
「『清めよ』! 『清めよ』っ! ああ、エルマ!」
「離れなさい、このっ!」
エルザが呪文を繰り返し、キャトリーナが剣を叩きつける。しかし、分厚いスライムの身体はあらゆる攻撃を弾き、びくともしない。
「っ……っ…」
エルマの身体が、どさりと崩れ落ちた。もがく動きが、徐々に弱くなり…突然、がくがくと痙攣しだした。
「ああっ、エルマ、エルマぁ…」
「! お止めなさい! 妹さんは…」
エルザは半狂乱で、妹を呑み込むスライムを両手で剥がしにかかった。その手を伝って、スライムが姉の頭まで這い上がる。キャトリーナが肩を掴んで止めにかかったが、自身の籠手にまでスライムが触れると、慌てて手を引っ込めた。
完全に動かなくなったエルマ。そして、エルザの顔までスライムに呑み込まれていく。
「キャトリーナ! 2人はもう…」
キャトリーナは涙を流しながら、殆ど全身を呑み込まれた姉妹を見た。それから、ぽつりと言った。
「…せめて、お二人のお母様に」
「分かった、分かった! もうこれだけあれば、十分だろう!」
俺は、エルザの落としたカンテラを拾うと、叫んだ。
「もう出よう! このままじゃ、皆死んじまうぞ!」
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