64 / 83
嫉妬の章
第9話 目的地が素晴らしいとは限らない
しおりを挟む
「おい見てみろよ!あの大木の穴、入れそうだぜ!」
「そんな所見てないでさっさと行きましょうよ…暑いし腹ペコですし」
「ちぇー分かった分かった」
「今日の日暮れまでには嫉妬帝領の外れ町に行く」
「まだかなりあるんじゃ…」
「旦那ぁ、それをやらなきゃ死んでしまいますぜ?」
「…頑張ります」
「おーい、これなんだと」
「早く行くぞ、サミエム」
しょぼくれた顔でその辺で拾ってきた棒を投げ捨て、とぼとぼと歩いてくる。長かったこのジャングル生活もあとわずかである。ヘリオにはここから先は言動に気を付けて話せって言われている…敵地だからなのか?それとも嫉妬帝の領土は一番狭いから噂話もすぐ伝わる…とか?どのみち忠告に逆らった所でいいことなんてないのは明白だろう。
夕日に晒される僕の足元が次第に何もせずともくっきりと見え始める。よく分からないような謎の植物やら虫やらとも今日でお別れだ!ぶっちゃけ葉っぱの裏に毒虫がいるとかは日常茶飯事になっていたし、暑い中完全防備の服で歩かなくてもいいなんて…ここは天国だろうか。
(いや、敵地よ)
「…そうですね」
「旦那、外れ町はもうすぐだからそんな所で突っ立ってないで早く来てくれ」
「はーい、分かりましたー」
「へへ、灰崎怒られてやんの~」
「楽しそう…というか元気だね」
彼はいたずらっ子のように笑いながら僕の横を駆け抜ける。そんなに人が怒られる様を見て楽しいのだろうか?まぁいいか、ちゃんとした寝床はいつ以来だろうか…楽しみだ。
外れ町に着いたのは日が完全に沈み、建物の光も所々だけとなりそうな夜であった。宿はまだ空いているのだろうか?それだけが気がかりだ。
「思っていたよりも大きな町ですね、外れとまで言われているのに」
「ある意味外れさ」
「…?」
「時期に分かる…あぁ、あの建物だ」
「う、うわ…」
お世辞にも綺麗とは言えない宿を見て、思わず口から出そうになった汚いという言葉を飲み込む。そんな僕を意に介さず、取れかけの開き戸を開けて中に入っていくヘリオ。野宿よりも幾分かは快適だ、そう言い聞かせ、彼に続く。
…案の定と言うべきか蜘蛛の巣が四つ角を守るように張ってあった。床はシロアリに食われたような穴がちらほらと見受けられる。一言で済ますならボロボロの汚い宿だ。それも絵にかいたような汚さ…ここまでだと逆にコンセプトとして成立しているのかもしれない。
「旦那ぁ…ここどう思う?」
「え、えぇ…ね、年代物って感じでしょうか?」
「確かにそうだが…ここは数年前まで人気も風情も一流の宿だったんだ」
「え…じゃあ」
「それは中で話そう」
気になる…なんでそんな短期間にこれほどまで?もしかしてそれを教えるためにここへ来たのだろうか…ネタバレも嫌だが落ちの先延ばしはむずがゆくなる…埃のせいかもしれないが。店主らしき人がカギを渡し、人差し指で上を指さす。2階はまだましだと願おう。
「しっかし汚いなぁ!」
「サミエム、悪口は止めておきましょう」
「そうだな、壁も薄くなってきてるらしいしな」
「薄くなってくる?」
「これを見てくれ」
「おぉ、かなり風情があるいい宿ですね」
「数年前までのここだ」
「おいおいおい、嘘はダメだろ?そんな訳ないって、ヘリオのおっさん!」
「…嘘ではない、ここからは筆談としよう」
「どうしてだよ!」
(嫉妬帝は領土の全ての会話を聞くことが出来る)
(なるほど、そういうことですか)
「はぁ…俺あんまり字が綺麗じゃないのになぁ」
(なら話さなきゃいいじゃないか)
(会話に入れないと寂しいだろ!)
(すまんすまん、それで嫉妬帝の能力については?)
(知っています、人の能力を全て奪うんですよね)
(その通りだ、しかし能力の解釈がかなり広く地位や名声、さらには財力までも綺麗に奪える)
(もしかしてここも?)
(そうだ、奴が住む都じゃなくて外れの方の町でばかり旅客を取られるのを嫉妬したのだろう)
(なんだよ、逆恨みじゃねぇか)
(逆恨みも能力が伴えば恐ろしいことこの上ない)
(大事なことはこれから筆談でやらなきゃいけませんね)
「まぁそういうことだな」
「息が詰まりそうだな」
「そりゃ仕方ない、ここは敵地だからな」
「はぁ…これから先はこんなことばかりかぁ」
「まぁ頑張りましょうよ、幸いそんなに離れてないとのことだし」
「それもそうか…」
「そんな所見てないでさっさと行きましょうよ…暑いし腹ペコですし」
「ちぇー分かった分かった」
「今日の日暮れまでには嫉妬帝領の外れ町に行く」
「まだかなりあるんじゃ…」
「旦那ぁ、それをやらなきゃ死んでしまいますぜ?」
「…頑張ります」
「おーい、これなんだと」
「早く行くぞ、サミエム」
しょぼくれた顔でその辺で拾ってきた棒を投げ捨て、とぼとぼと歩いてくる。長かったこのジャングル生活もあとわずかである。ヘリオにはここから先は言動に気を付けて話せって言われている…敵地だからなのか?それとも嫉妬帝の領土は一番狭いから噂話もすぐ伝わる…とか?どのみち忠告に逆らった所でいいことなんてないのは明白だろう。
夕日に晒される僕の足元が次第に何もせずともくっきりと見え始める。よく分からないような謎の植物やら虫やらとも今日でお別れだ!ぶっちゃけ葉っぱの裏に毒虫がいるとかは日常茶飯事になっていたし、暑い中完全防備の服で歩かなくてもいいなんて…ここは天国だろうか。
(いや、敵地よ)
「…そうですね」
「旦那、外れ町はもうすぐだからそんな所で突っ立ってないで早く来てくれ」
「はーい、分かりましたー」
「へへ、灰崎怒られてやんの~」
「楽しそう…というか元気だね」
彼はいたずらっ子のように笑いながら僕の横を駆け抜ける。そんなに人が怒られる様を見て楽しいのだろうか?まぁいいか、ちゃんとした寝床はいつ以来だろうか…楽しみだ。
外れ町に着いたのは日が完全に沈み、建物の光も所々だけとなりそうな夜であった。宿はまだ空いているのだろうか?それだけが気がかりだ。
「思っていたよりも大きな町ですね、外れとまで言われているのに」
「ある意味外れさ」
「…?」
「時期に分かる…あぁ、あの建物だ」
「う、うわ…」
お世辞にも綺麗とは言えない宿を見て、思わず口から出そうになった汚いという言葉を飲み込む。そんな僕を意に介さず、取れかけの開き戸を開けて中に入っていくヘリオ。野宿よりも幾分かは快適だ、そう言い聞かせ、彼に続く。
…案の定と言うべきか蜘蛛の巣が四つ角を守るように張ってあった。床はシロアリに食われたような穴がちらほらと見受けられる。一言で済ますならボロボロの汚い宿だ。それも絵にかいたような汚さ…ここまでだと逆にコンセプトとして成立しているのかもしれない。
「旦那ぁ…ここどう思う?」
「え、えぇ…ね、年代物って感じでしょうか?」
「確かにそうだが…ここは数年前まで人気も風情も一流の宿だったんだ」
「え…じゃあ」
「それは中で話そう」
気になる…なんでそんな短期間にこれほどまで?もしかしてそれを教えるためにここへ来たのだろうか…ネタバレも嫌だが落ちの先延ばしはむずがゆくなる…埃のせいかもしれないが。店主らしき人がカギを渡し、人差し指で上を指さす。2階はまだましだと願おう。
「しっかし汚いなぁ!」
「サミエム、悪口は止めておきましょう」
「そうだな、壁も薄くなってきてるらしいしな」
「薄くなってくる?」
「これを見てくれ」
「おぉ、かなり風情があるいい宿ですね」
「数年前までのここだ」
「おいおいおい、嘘はダメだろ?そんな訳ないって、ヘリオのおっさん!」
「…嘘ではない、ここからは筆談としよう」
「どうしてだよ!」
(嫉妬帝は領土の全ての会話を聞くことが出来る)
(なるほど、そういうことですか)
「はぁ…俺あんまり字が綺麗じゃないのになぁ」
(なら話さなきゃいいじゃないか)
(会話に入れないと寂しいだろ!)
(すまんすまん、それで嫉妬帝の能力については?)
(知っています、人の能力を全て奪うんですよね)
(その通りだ、しかし能力の解釈がかなり広く地位や名声、さらには財力までも綺麗に奪える)
(もしかしてここも?)
(そうだ、奴が住む都じゃなくて外れの方の町でばかり旅客を取られるのを嫉妬したのだろう)
(なんだよ、逆恨みじゃねぇか)
(逆恨みも能力が伴えば恐ろしいことこの上ない)
(大事なことはこれから筆談でやらなきゃいけませんね)
「まぁそういうことだな」
「息が詰まりそうだな」
「そりゃ仕方ない、ここは敵地だからな」
「はぁ…これから先はこんなことばかりかぁ」
「まぁ頑張りましょうよ、幸いそんなに離れてないとのことだし」
「それもそうか…」
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる