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嫉妬の章

第9話 目的地が素晴らしいとは限らない

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「おい見てみろよ!あの大木の穴、入れそうだぜ!」

「そんな所見てないでさっさと行きましょうよ…暑いし腹ペコですし」

「ちぇー分かった分かった」

「今日の日暮れまでには嫉妬帝領の外れ町に行く」

「まだかなりあるんじゃ…」

「旦那ぁ、それをやらなきゃ死んでしまいますぜ?」

「…頑張ります」

「おーい、これなんだと」

「早く行くぞ、サミエム」

 しょぼくれた顔でその辺で拾ってきた棒を投げ捨て、とぼとぼと歩いてくる。長かったこのジャングル生活もあとわずかである。ヘリオにはここから先は言動に気を付けて話せって言われている…敵地だからなのか?それとも嫉妬帝の領土は一番狭いから噂話もすぐ伝わる…とか?どのみち忠告に逆らった所でいいことなんてないのは明白だろう。



 夕日に晒される僕の足元が次第に何もせずともくっきりと見え始める。よく分からないような謎の植物やら虫やらとも今日でお別れだ!ぶっちゃけ葉っぱの裏に毒虫がいるとかは日常茶飯事になっていたし、暑い中完全防備の服で歩かなくてもいいなんて…ここは天国だろうか。

(いや、敵地よ)

「…そうですね」

「旦那、外れ町はもうすぐだからそんな所で突っ立ってないで早く来てくれ」

「はーい、分かりましたー」

「へへ、灰崎怒られてやんの~」

「楽しそう…というか元気だね」

 彼はいたずらっ子のように笑いながら僕の横を駆け抜ける。そんなに人が怒られる様を見て楽しいのだろうか?まぁいいか、ちゃんとした寝床はいつ以来だろうか…楽しみだ。



 外れ町に着いたのは日が完全に沈み、建物の光も所々だけとなりそうな夜であった。宿はまだ空いているのだろうか?それだけが気がかりだ。

「思っていたよりも大きな町ですね、外れとまで言われているのに」

「ある意味外れさ」

「…?」

「時期に分かる…あぁ、あの建物だ」

「う、うわ…」

 お世辞にも綺麗とは言えない宿を見て、思わず口から出そうになった汚いという言葉を飲み込む。そんな僕を意に介さず、取れかけの開き戸を開けて中に入っていくヘリオ。野宿よりも幾分かは快適だ、そう言い聞かせ、彼に続く。



 …案の定と言うべきか蜘蛛の巣が四つ角を守るように張ってあった。床はシロアリに食われたような穴がちらほらと見受けられる。一言で済ますならボロボロの汚い宿だ。それも絵にかいたような汚さ…ここまでだと逆にコンセプトとして成立しているのかもしれない。

「旦那ぁ…ここどう思う?」

「え、えぇ…ね、年代物って感じでしょうか?」

「確かにそうだが…ここは数年前まで人気も風情も一流の宿だったんだ」

「え…じゃあ」

「それは中で話そう」

 気になる…なんでそんな短期間にこれほどまで?もしかしてそれを教えるためにここへ来たのだろうか…ネタバレも嫌だが落ちの先延ばしはむずがゆくなる…埃のせいかもしれないが。店主らしき人がカギを渡し、人差し指で上を指さす。2階はまだましだと願おう。



「しっかし汚いなぁ!」

「サミエム、悪口は止めておきましょう」

「そうだな、壁も薄くなってきてるらしいしな」

「薄くなってくる?」

「これを見てくれ」

「おぉ、かなり風情があるいい宿ですね」

「数年前までのここだ」

「おいおいおい、嘘はダメだろ?そんな訳ないって、ヘリオのおっさん!」

「…嘘ではない、ここからは筆談としよう」

「どうしてだよ!」

(嫉妬帝は領土の全ての会話を聞くことが出来る)

(なるほど、そういうことですか)

「はぁ…俺あんまり字が綺麗じゃないのになぁ」

(なら話さなきゃいいじゃないか)

(会話に入れないと寂しいだろ!)

(すまんすまん、それで嫉妬帝の能力については?)

(知っています、人の能力を全て奪うんですよね)

(その通りだ、しかし能力の解釈がかなり広く地位や名声、さらには財力までも綺麗に奪える)

(もしかしてここも?)

(そうだ、奴が住む都じゃなくて外れの方の町でばかり旅客を取られるのを嫉妬したのだろう)

(なんだよ、逆恨みじゃねぇか)

(逆恨みも能力が伴えば恐ろしいことこの上ない)

(大事なことはこれから筆談でやらなきゃいけませんね)

「まぁそういうことだな」

「息が詰まりそうだな」

「そりゃ仕方ない、ここは敵地だからな」

「はぁ…これから先はこんなことばかりかぁ」

「まぁ頑張りましょうよ、幸いそんなに離れてないとのことだし」

「それもそうか…」
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