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嫉妬の章

第4話 賢者の機転

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「さて…作戦会議だ」

「カッコつけて言ってる場合かよ、ぶっちゃけ全然分からんぞ」

「同じくだ、法則性が全く分からない」

「でも…とりあえず捕虜にしたままじゃ完全に敵ですよ?」

「そもそも敵同士だろ」

「はぁ…」

 雪月鬼らしき彼女を拘束してしばらく経つが、言語の解読が一向に進まない。毛布が…モラナクナ?何を読めばそうなるのだろうか。もしかしたら毛布と言ってないのかも…サミエム渾身のボディランゲージもただの寒いギャグと勘違いされたのか苦笑いを浮かべられたし……あぁ、涙目になってたなぁ。僕らは目を合わせるなんてこと出来なかったし、可哀そうな時間だった。

「おい、灰崎…聞いているのか?」

「な、何の話ですか?」

「だから、お前のロゼッタストーンで神様に翻訳してもらうっていう方法をだな」

「その手があったか!」

 僕は勢いよく立ち上がり、ポケットに入れといた石を取り出す。早く届いて良かった!暴食帝ゼクスとの戦闘で一度ロゼッタストーンは粉々に壊れたのだ。しかし、ここに行く道中…物資の補給で寄った小さな町にいた時に、彼女の眷属が急いで持ってきてくれたのだ。勝利を確信し、ウサギちゃんの前でロゼッタストーンを突き出す。

「ミチミシチトラスイ?」

「アリフィカさん!こちらの少女の言葉分かりますか?!」

(…)

「あ、あれ?アリフィカさん?」

(…)

「…」

「…え?戻ってきたんだが」

「何も言わないぞ…いったい何が」

「多分、寝てます」

「そんなことを神妙な面持ちであたかも何かあったように振舞うな!紛らわしい!」

「す、すみません」

 こうして僕たちは荒ぶる雪の中、夜が明けるのを…アリフィカさんが起きるのを待った。



(おっはよーございまーす!何々~?珍しくそっちから話しかけてくるなんてね!寝てなかったらすぐにでも期待に応えたものを)

「う…ぐ…お、おはようございます」

(あら?寝てたの?)

「仮眠ですよ、仮眠…あ、そうだ」

(本題かな?)

「あちらのウサミミガールの言語分かりますか?」

(どれどれ…あぁ、雪月鬼の一族ね?)

「わ、分かるのですか!」

(え、えぇまぁ)

「じゃあお願いします!」

(ホントはあんまり得意じゃないけど…)

「どうかしましたか?」

 一晩中彼女が逃げないように見張りを付けていたようだが、一睡もせずに唸り声をあげながらにらみ続けているらしい。交代の度に諜報員が怯えていたのを見て、少し可哀そうな頼りないような…そんな夜とももうおさらばだ!

「トチトトチカラクチミチトイ!」

「さぁどうぞ!」

(え、ええっと?多分…さっさと離せかしら?)

「それは無理だと伝えろ」

(はぁ?何様よ…ったく)

 以降はアリフィカさん、雪月鬼、ライゼンの3人の会話を要約したものである。まず飛空艇を撃ち落としたのは彼女たちで間違いがなかったということが分かった。理由はライゼンの予想通りで物資と暖房が欲しかったから。厳しい環境である雪山で生存し続けるには弱者を狩るのが効果的で、自分たちのフィールドならなおのこと良い。それを熟知している我々は頭が良いと自慢げに彼女は言い放った。一方で不思議なくらい平静を保つライゼンが不気味に口角を上げながら聞くという傍から見たらかなりヤバい状況が繰り広げられていた。

「朗報だ、皆の衆」

「え?」

「新しい仲間が増えそうだ」

「何を言ってるのですか?」

「このモンブラン山が強欲帝様の土地の端にあるというのは知っているだろう?」

「まぁそれくらいは…」

「この山以外の道は見通しが良く守りやすい…だがここはどうだ?飛空艇を襲う部族はいたとしても守りは手薄だ…」

「まさか」

「ここを関所、あいつらを門番にしてやれば我らが領土に侵入するのは非常に困難になる」

「それは難しいのでは…」

「諜報員!船の無線機は?」

「はい、無事です!」

「よし…じゃあ試し打ちがてら交渉しに行きますよ」

「うわ…悪い顔してる」
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