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暴食の章

第32話 起死回生?

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 襲い来るゾンビのようなウェンデゴ!悠々自適と大通りを占領する巨大な蛇!逃げ惑う騎士!まさに映画の一面、素晴らしい絵面だと言って過言ではない!僕が死ぬかもしれない作戦の一部始終がなければの話だが。

「お、おーい!これくらいでどうだ?!」

「十分です!そのまま手筈通りの場所に!」

「了解だ!」

 サミエムは不安そうに言われた場所に駆けていく。比にならないくらい緊張している僕がいるのだが…そんな迷いをかき消すように走り抜ける。廃墟街を、死にかけている人々の横を、力強く目を背け、やるべきはずの背徳感を胸に…

「…よし、行くぞ!エンチャントウィンド、風烈斬!」

 勢いよく吹く竜巻に足元をすくわれ、はるか上空に打ち上げられる。周囲には白い化け物がおびただしい行列を作りながら回転している。

「…っぷ」

 シュールな光景に思わず笑ってしまった。いや、なにわろてんねんという状況だが、これは笑わない方が難しいだろう。だって、呻きながら同じ姿勢で流れる奴らの顔を見ているだけで何か…ブラックジョークに出てくる工場のようなものを連想させられる。そんなしょうもない笑いをこらえていると、風が止み、景色が開ける。

「と、飛ばし過ぎだろ!!」



 数時間前のこと…

「それでどうやってソウルリンクを?」

「…」

「おい、まさかだんまりってことは…」

「し、正直ノープランで」

「聞いて呆れるな、撤退の準備」

「ま、待ってください!見当はついているんですよ!」

「それを先に言え」

「確証はないので言いにくかっただけで…おほん、魂と密接に繋がる箇所っていうのは脳だと思うんです」

「確証もなく命を張れる無謀さはこの際置いといて、何故そうだと?」

「魂縛石で同化した時にいつも対象の記憶を覗き込むような体験をしているので」

「なるほど、脳内に蓄積された記憶が魂と密接に結びついている…か、理にかなっているな」

「それで問題の頭に触る方法ですが…」

「無計画なのは分かった」

「ウェンデゴに紛れて空から奇襲するってのは?」

「それじゃ僕も食べられちゃうよ」

「ほら、ライゼンの時空魔法で時間の遅れを生じさせて…」

「そんなことは出来ない、魔法効果は距離に影響する…この距離でやっと周囲の時間を遅く出来るが……」

「うーん、魔力の拡声器みたいなのがあればいいのに」

(それならこのロゼッタストーンを使えば?)

 ロゼッタストーンは魔法の声を捉える魔力の拡声器だからね!って言ってたけど…この高さじゃどの道死んじゃうんじゃ…そんな邪念を振り払うようにロゼッタストーンを大口を開けて待つ奴に投げつけ、夜の火にいる夏の虫のように僕たちは落ちていった。意識があるかないかは分からないがゼクスにとっては棚から牡丹餅だったろう。何せ餌が自ら口に飛び込んでくるのだから…その1人になりそうな僕であったのだったが、急に後ろへと飛ばされた。いや、全員が前に行ったのだ。ということは…作戦は成功か!大口が閉まり、無防備な頭がさらけ出される。

「これで終わりだ、ゼクス!ソウル…リンク!」

 …確かに頭には触れていたんだ。しかし、魔法は発動されなかった。全身に寒気が走り、徐々に吸い込まれていく。みんなごめん…ここぞで負けてしまったよ。



 すべて飲み込まれ、溶かされると思ったが…本当に体内へ入るだけなんだな。この白いのは骨なのだろうか…ずっと落ちていく…暗い洞窟をずっと………うん?あ、あれは…光か?幻影だろうか?そういえば蛇の心臓って…もしかして、あれが動力源か?ならあの中にはいるのか…ゼクスが。

「…やるしかない」

 手を伸ばし、呼吸を整える。これがダメなら僕は本当に死んでしまうだろう。

「ソウル……リンク!」

 詠唱と共に身体が光に包まれていく。や、やった!これは魂の同化の時に現れる光…作戦は成功したんだ!

「あ、そういえば魂縛石以外に同化したらどうすれば戻れるんだ?完全支配ってどうすれば?!ま、不味い!」

 そんな叫びも虚しく光は僕を包み込んでいく。起死回生の一手になればいいのだが。
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