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暴食の章
第21話 賢者のお仕事
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疲れ切ったからか深い眠りについた。長旅の上にあの肉体労働だ、流石にちょっとやそっとじゃ起きないのは仕方が無い……だけど、あの非常識な賢者以外はその事実を知らない。現にようやく目を覚ましたかとイライラした面持ちでサミエムが座って待っていた。片手には朝食のクロードアルネを、机には牛乳を置いて優雅な朝食を装っているが…貧乏ゆすりをしていたら台無しだ。
「よう、ぐっすり寝ていたな」
「ははは、そりゃもう……」
「約束の時間は?」
「とっくに過ぎてますね、はい」
「開き直るな!」
「すみませんでしたぁ!」
多分サミエムに昨日のことを話せば納得して僕の朝食抜きの刑は免れただろう。しかし、ライゼンの言っていたことは的を得ている。実際僕の秘密をばらしたという前科もあるわけだ、次は𠮟責じゃすまされないような大事な任務だ。当分の間は協力者は別にいるとだけ話していよう。とろりと流れる半熟卵を見て決意を固めるのであった。
外は日が昇りきらない程度の朝の陽気が無くなりかけて、鬱陶しい暑さが広がっている。そして、護衛兼案内の防衛騎士たちが表情を崩さず、綺麗な隊列を作って待っていた。こんな日差しの中、分厚い鎧を着て、どこの誰か分からない人を待っていても嫌な顔1つしないのは、同じ人間として尊敬する……まぁ、僕が早く起きていればそんなこともならなかったんですが…
「灰崎様、お待ちしておりました」
「あっ、すみません…昨日は少しはしゃぎすぎまして」
「構いません、では研究所へ案内いたします」
何の感情も感じられない…仕事と割り切って話しているのだろう。一ミリも嫌悪感を感じさせない行動規範に沿った模範生のような振る舞いをする彼らに、あっぱれと言うか機械的で少し怖くなった。そんな彼らについていくこと数十分、食都壱番街から枝分かれしてすぐの一等地に目的地は堂々とそびえたっていた。こんな都心部の近くの建物の中では恐ろしい実験が日々行われていたなんて……
「我々はこれで失礼いたします」
「あ、あの鍵とかは?」
「室内にございます、では…」
そそくさと撤退する彼らの感情を見て、ピンと来た。彼らにとって魂術師は恐怖の対象で、下手したら何をされるか分かったものじゃないような危険人物なのだと。おまけに地位も格上ときたら…さっさと仕事をして帰りたいと思うものだろう。僕は軋む音を鳴り響かせながら中へと入っていった。
「…意外にも綺麗なものですね」
「掃除したからじゃないか?防衛騎士たちが愚痴っぽく漏らしてたぜ」
「はは、僕も同感ですよ」
「確かにお化け屋敷みたいだもんな…べ、別に怖くはないけどよ!」
「業務に支障が出ない程度に明かりをつけましょうか」
暴食帝三賢者…ゼクスに仕える最高幹部と言えるほどの地位にあり、彼の政治的または軍事的に有用な技術を提供する者たちを指す。その業務はほとんど同じだが、担当によって研究するものがガラリと変わる。例えば、ライゼンの場合だと未来視を用いた術式で有用な知恵を提供している。言わずもがな、担当は未来だ。僕たちは過去を担当する賢者で、未だ謎多い魂縛石の解明をし、過去の知恵を提供する……
「らしいですが」
「何か問題があるのか?」
「魂縛石を使う方法も分かりません」
「魂術師なのに?」
「えぇ、石は高く売れるらしいから…」
「つまりは……業務出来ないっていうことか?!」
「そうです」
「はぁ…どうすんだよぉ」
「こ、ここはあのクラウソラスが魂術を研究した場所です、使える資料があるかもしれません」
こうして僕たちの初仕事は資料の家探しという国の最高幹部とは思えないものから始まるのであった…
「よう、ぐっすり寝ていたな」
「ははは、そりゃもう……」
「約束の時間は?」
「とっくに過ぎてますね、はい」
「開き直るな!」
「すみませんでしたぁ!」
多分サミエムに昨日のことを話せば納得して僕の朝食抜きの刑は免れただろう。しかし、ライゼンの言っていたことは的を得ている。実際僕の秘密をばらしたという前科もあるわけだ、次は𠮟責じゃすまされないような大事な任務だ。当分の間は協力者は別にいるとだけ話していよう。とろりと流れる半熟卵を見て決意を固めるのであった。
外は日が昇りきらない程度の朝の陽気が無くなりかけて、鬱陶しい暑さが広がっている。そして、護衛兼案内の防衛騎士たちが表情を崩さず、綺麗な隊列を作って待っていた。こんな日差しの中、分厚い鎧を着て、どこの誰か分からない人を待っていても嫌な顔1つしないのは、同じ人間として尊敬する……まぁ、僕が早く起きていればそんなこともならなかったんですが…
「灰崎様、お待ちしておりました」
「あっ、すみません…昨日は少しはしゃぎすぎまして」
「構いません、では研究所へ案内いたします」
何の感情も感じられない…仕事と割り切って話しているのだろう。一ミリも嫌悪感を感じさせない行動規範に沿った模範生のような振る舞いをする彼らに、あっぱれと言うか機械的で少し怖くなった。そんな彼らについていくこと数十分、食都壱番街から枝分かれしてすぐの一等地に目的地は堂々とそびえたっていた。こんな都心部の近くの建物の中では恐ろしい実験が日々行われていたなんて……
「我々はこれで失礼いたします」
「あ、あの鍵とかは?」
「室内にございます、では…」
そそくさと撤退する彼らの感情を見て、ピンと来た。彼らにとって魂術師は恐怖の対象で、下手したら何をされるか分かったものじゃないような危険人物なのだと。おまけに地位も格上ときたら…さっさと仕事をして帰りたいと思うものだろう。僕は軋む音を鳴り響かせながら中へと入っていった。
「…意外にも綺麗なものですね」
「掃除したからじゃないか?防衛騎士たちが愚痴っぽく漏らしてたぜ」
「はは、僕も同感ですよ」
「確かにお化け屋敷みたいだもんな…べ、別に怖くはないけどよ!」
「業務に支障が出ない程度に明かりをつけましょうか」
暴食帝三賢者…ゼクスに仕える最高幹部と言えるほどの地位にあり、彼の政治的または軍事的に有用な技術を提供する者たちを指す。その業務はほとんど同じだが、担当によって研究するものがガラリと変わる。例えば、ライゼンの場合だと未来視を用いた術式で有用な知恵を提供している。言わずもがな、担当は未来だ。僕たちは過去を担当する賢者で、未だ謎多い魂縛石の解明をし、過去の知恵を提供する……
「らしいですが」
「何か問題があるのか?」
「魂縛石を使う方法も分かりません」
「魂術師なのに?」
「えぇ、石は高く売れるらしいから…」
「つまりは……業務出来ないっていうことか?!」
「そうです」
「はぁ…どうすんだよぉ」
「こ、ここはあのクラウソラスが魂術を研究した場所です、使える資料があるかもしれません」
こうして僕たちの初仕事は資料の家探しという国の最高幹部とは思えないものから始まるのであった…
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