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暴食の章

第15話 第一の砦

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 ご馳走の匂いというのは、様々ある。醤油が沸騰した何とも言えない懐かしの匂いから野性味あふれる肉が焼ける良い匂い…しかし、ここにはその全ての匂いを良いとこどりしたような何とも食欲がそそられる匂いが充満している。食べ歩きでもしたいところだが…

「荷物をすべて出せ!我々は暴食帝領護衛の都市騎士だ!」

「…何時間くらいならんだんだ?」

「僕も数えてませんよ…」

「はぁ…さっさと中で食事したいものだよなぁ」

「全くですね」

 ここは食都検問所、暴食帝領の最後の砦と言われる場所だ。検問担当者は全て貴族出身の騎士で構成されていて、少しでも怪しい物を持ち込もうとすれば、即刻追放され、永久に都には入れない。別に僕たちは怪しい物なんて持ち込もうとはしていないが、気掛かりはある。ロゼッタストーン、神との通信が出来る石…これをどうやって誤魔化せばいいのやら…とりあえずは首飾りとしてそれらしく繕ったのだが。

「正直これは微妙なのでは?」

「心配すんなよ、似合ってるぜ」

「そういう問題じゃないのですが…」

「ははは、大丈夫だって」

 何が大丈夫なんだよ!と言いたいところではあるけどこれ以上騒いだら列から追い出されかねない。ここは天命に任せるしかないかぁ…食都への道はまだ遠い。




「次の者、入れ!」

 鎧を着た男が高圧的な声で呼び出しがかかる。いよいよだ…ここまで命をかけて戦ってきた成果もこの検問に引っかかれば水の泡…どうにかしたいものだ。しかし、そんな思いなど意に介していないように手早い検査が行われる。意外にもすんなりと手荷物検査が終了し、冒険者証もあったからか身分の把握もすぐに終わった。良かったと安堵していると

「最後にその首飾りは何なのだ?」

「えっと、偶然見かけた水晶でして…」

「ほう、私はそれなりの学があったつもりだがそんな鉱石見たこともない…念のため検査させてもらう」

「そ、それはちょっと!」

「見せられないということは…」

 不味い、怪しまれている。ここはどうにかして誤魔化すか?いや、それでは言い訳っぽくなってしまう…いったいどうすればいいんだ。何か、何か方法を

「おや、手間取っているようだね」

「やや、これはアルバーノ団長!お疲れさまでございます」

「もう団長じゃない、と言いたいが代理でやっているから合ってしまうなぁ…おっと、冒険者なのかい?」

「は、はい」

「どれどれ……」

「あ、アルバーノ団長のお手を煩わせる程ではありません!」

「構わないさ、やりたいからやっているだけだよ…アレクシエル?」

「…」

「もしやレイサムの…?」

「はい、僕がレイサムの弟サミエムです」

「おぉ、弟がいるとは聞いていたが君が……ふむ、承知した」

「アルバーノ団長殿?」

「うん、検問の必要は無いよ!何かあれば私が責任を取ろう、さぁ準備が出来たらこちらに」

「あ、ありがとうございます!」

 彼は少し年季の入った顔を少し緩め、布で簡易的に仕切られたテントから出て行った。ともかく助かった、危うくロゼッタストーンに精密な検査が入るところだった。強欲帝いわく、この石は未知の成分で構成されたれっきとした神器だから検査されれば一発アウトだろうね!アハハハハハ……だそうで、本当に危ないところだった。というか、笑いごとじゃすまされないかも知れなかっただが!



 少し苛立ちを覚えながら机いっぱいに広がる荷物を詰め込み、テントの外の重厚な壁の中に入っていく。

「やぁ、そろそろだと思っていたよ!ようこそ、ここが全ての美食が集まる街…食都だ!」

 アルバーノが両手を広げるその先に広がる景色は想定していたよりも遥かに壮大だった。至る所レストランが乱立し、タワーを形成している。道行く人々も何らかの食べ物を片手に楽しそうに次の店を探し回っている。

「食都壱番街…一流のシェフしかこの道筋に店を出すことを許されてない世界の食の頂き、全料理人の憧れの場所さ」

「す、すごい」

「ははは、こっちに来なよ!行きつけの店で君たちをもてなしたい」

 彼がゆっくりと人混みの中を進んでいく。僕たちは見失わないように必死でついていく。しかし、アルバーノはこの何とも平和そうな国を無茶苦茶にする張本人をもてなすとはみじんも思っていないだろうなぁ。果たして、僕たちがやろうとしていることは正しいのだろうか…この平和を壊すことは間違いなのではないのか…

(色々心の声がうるさいわね!)

 ……どうやら考え込むとうるさいのがいるらしい。まぁそれが正しいのかそうでないのかは、あの情報が本当かどうかに委ねて、今はこの場所を楽しむとしよう!
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