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暴食の章
第12話 理想的な勝利絵図
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「さて…どうしたものかな」
「グルル…」
思わず出てしまった言葉を後悔した。金色熊がこちらをよだれが滴る顔で向き直り、まるで僕たちの居場所が見えているように辺りを見渡す。息を吞むという表現があるが、まさにこのような状況を言うのだろうと直感で理解した。運が良かったのか、はたまた弄ばれているのかは分からないが、奴が洞窟の入り口から見えなくなっていく。
「行ったようだな…」
「はい…しかし、良くない状況です……何か逆転するような案を考えななきゃ」
「おい、正気か?ドラゴンよりも恐ろしいあんな奴をどうにかするってか?」
「そうしなきゃ僕たちがやられるだけですよ?」
「俺たちを見失っているんだぞ?ここで逃げなきゃもう……はぁ、分かったよ」
「ありがとうございます、とりあえずあの熊は随分と怒っているようでした」
「じゃあ灰崎なら余裕だろ?呪文で一発さ」
はたしてそう簡単にいくだろうか?僕はその一言を喉の奥にとどめた。情報では金色熊は呪文が効かないモンスターで、僕の魂術も例外なく効かないはずだ。だけど、あの時には間違いなく効いていた。確か金の毛皮は酸化していくと山に戻るとかなんとかセレンが言っていたな……なんでだっけ?
「そうか、これがあれば!」
「…っっ!静かにしろよ」
「すみません、でも良い案が………」
「なるほど、確かに理にはかなっている」
「じゃあ、その手はずで!」
金色熊は非常に知能が高いモンスターであるだけでなく、凶暴で強靭な身体を持っている。まさに化け物と言ってもいいだろう。あいつがさっき見失ったフリをしていたのは、感情で見えた。怒りの中の獲物を見つけた高揚感とも言えるような…そんな色が。じゃあ、何故そのまま突進してこなかったか?それは罠を警戒したためだ。わざと音を立てて狭い洞窟に閉じ込めるか天井を崩落させて圧死させられるか…ともかく相手のフィールドにのこのこと現れるような馬鹿ではないのだろう。だから、僕たちが安心して出てこられる状況を演出したのだ。出てくれば臭いで追えるし、出てこなければその前で立ちふさがっていればいずれ出なければならなくなる。要は詰みである。
「グルルルル…」
「…狙い通りだ!」
思わず左手で拳を作る。これなら作戦が使える!と慌てて準備に取り掛かる。これでサミエムが上手くやってくれればいいんだけど…大丈夫かなぁ、かなり緊張していたけど…
「エンチャントファイア、炎月切り!」
「グルォァ!」
表皮に纏わりついていた粗悪な金属がどんどんと液状になっていく。
「よし、これなら…ファントムメイク!」
「ガグルォァ?!」
ここまでで作戦の半分は完璧に遂行出来ている!これでやつが幻覚の金の山にかじりつけば…!
「ガキン!ウグォォエ…」
金色熊が何かを岩のようなものを吐き出す。足元に転がってきたそれを良く見て見ると
「ロゼッタストーン?!なんでこんな…」
「あれ?良かった、この石は駄目かと思ったわ」
「アリフィカさん、とりあえず後で謝罪と説明をするので今は静かにお願いします!」
「えぇ…まぁいいわ」
思わぬ横やりはあったものの作戦も大詰めだ。まさかこんなにも上手くいくとは思わなかったけど…奴の怒りは有頂天になっているのは、僕じゃなくても分かる。でも、危ないから幻影の僕で気をそらさせながら…!
「…くらえ!ソウルブレイク!」
「ゥゥルゴォオオ!!」
けたたましい雄たけびを上げながら力なく地面に突っ伏していく。勝った…!クエストクリアだ!
「やったな、灰崎!」
「うん!僕たちの勝利だ!」
「……えっと、貴方たちに置いてかれて食われた私に説明してくれないかしら?」
「あ、すみません!実は………」
僕はこの作戦の概要を話した。金色熊に先ほど呪文が効いたのは体毛の金の純度が低かったからだった。セレンが昨夜金には魔力があると言っていたが、正しくは金には魔力を吸収して魔力を宿す性質があるという表現が正しい。実際に魔法を封じ込める杖などには金製のものが多い。つまり、表皮の金を削げば魔法を無効には出来ない。そして、奴の習性である金の純度を高めるために金を摂取するというのを活かし、感情を乱す……
「というのが作戦で、見事成功しました!」
「そんなご都合主義みたいなこと起きるのね、アハハ!」
「確かにそうだよな、女神様!」
2人の笑い声が洞窟に反響する。つられて、僕も笑みを浮かべる。まるで全てが上手くいき、強大な敵を難無く倒せる少年漫画の勝利シーンのように。しかし、これは理不尽な程自身に不利なことが連発する現実だった。それを忘れていた。後方から焼かれるような痛みがしたと思った途端、勢いよく何かが噴き出した。僕は痛みで声も上がらず倒れる。その寸前で見たものは……倒したはずの金色熊だった。あぁ…やっぱり…都合が…良すぎたか………
「グルル…」
思わず出てしまった言葉を後悔した。金色熊がこちらをよだれが滴る顔で向き直り、まるで僕たちの居場所が見えているように辺りを見渡す。息を吞むという表現があるが、まさにこのような状況を言うのだろうと直感で理解した。運が良かったのか、はたまた弄ばれているのかは分からないが、奴が洞窟の入り口から見えなくなっていく。
「行ったようだな…」
「はい…しかし、良くない状況です……何か逆転するような案を考えななきゃ」
「おい、正気か?ドラゴンよりも恐ろしいあんな奴をどうにかするってか?」
「そうしなきゃ僕たちがやられるだけですよ?」
「俺たちを見失っているんだぞ?ここで逃げなきゃもう……はぁ、分かったよ」
「ありがとうございます、とりあえずあの熊は随分と怒っているようでした」
「じゃあ灰崎なら余裕だろ?呪文で一発さ」
はたしてそう簡単にいくだろうか?僕はその一言を喉の奥にとどめた。情報では金色熊は呪文が効かないモンスターで、僕の魂術も例外なく効かないはずだ。だけど、あの時には間違いなく効いていた。確か金の毛皮は酸化していくと山に戻るとかなんとかセレンが言っていたな……なんでだっけ?
「そうか、これがあれば!」
「…っっ!静かにしろよ」
「すみません、でも良い案が………」
「なるほど、確かに理にはかなっている」
「じゃあ、その手はずで!」
金色熊は非常に知能が高いモンスターであるだけでなく、凶暴で強靭な身体を持っている。まさに化け物と言ってもいいだろう。あいつがさっき見失ったフリをしていたのは、感情で見えた。怒りの中の獲物を見つけた高揚感とも言えるような…そんな色が。じゃあ、何故そのまま突進してこなかったか?それは罠を警戒したためだ。わざと音を立てて狭い洞窟に閉じ込めるか天井を崩落させて圧死させられるか…ともかく相手のフィールドにのこのこと現れるような馬鹿ではないのだろう。だから、僕たちが安心して出てこられる状況を演出したのだ。出てくれば臭いで追えるし、出てこなければその前で立ちふさがっていればいずれ出なければならなくなる。要は詰みである。
「グルルルル…」
「…狙い通りだ!」
思わず左手で拳を作る。これなら作戦が使える!と慌てて準備に取り掛かる。これでサミエムが上手くやってくれればいいんだけど…大丈夫かなぁ、かなり緊張していたけど…
「エンチャントファイア、炎月切り!」
「グルォァ!」
表皮に纏わりついていた粗悪な金属がどんどんと液状になっていく。
「よし、これなら…ファントムメイク!」
「ガグルォァ?!」
ここまでで作戦の半分は完璧に遂行出来ている!これでやつが幻覚の金の山にかじりつけば…!
「ガキン!ウグォォエ…」
金色熊が何かを岩のようなものを吐き出す。足元に転がってきたそれを良く見て見ると
「ロゼッタストーン?!なんでこんな…」
「あれ?良かった、この石は駄目かと思ったわ」
「アリフィカさん、とりあえず後で謝罪と説明をするので今は静かにお願いします!」
「えぇ…まぁいいわ」
思わぬ横やりはあったものの作戦も大詰めだ。まさかこんなにも上手くいくとは思わなかったけど…奴の怒りは有頂天になっているのは、僕じゃなくても分かる。でも、危ないから幻影の僕で気をそらさせながら…!
「…くらえ!ソウルブレイク!」
「ゥゥルゴォオオ!!」
けたたましい雄たけびを上げながら力なく地面に突っ伏していく。勝った…!クエストクリアだ!
「やったな、灰崎!」
「うん!僕たちの勝利だ!」
「……えっと、貴方たちに置いてかれて食われた私に説明してくれないかしら?」
「あ、すみません!実は………」
僕はこの作戦の概要を話した。金色熊に先ほど呪文が効いたのは体毛の金の純度が低かったからだった。セレンが昨夜金には魔力があると言っていたが、正しくは金には魔力を吸収して魔力を宿す性質があるという表現が正しい。実際に魔法を封じ込める杖などには金製のものが多い。つまり、表皮の金を削げば魔法を無効には出来ない。そして、奴の習性である金の純度を高めるために金を摂取するというのを活かし、感情を乱す……
「というのが作戦で、見事成功しました!」
「そんなご都合主義みたいなこと起きるのね、アハハ!」
「確かにそうだよな、女神様!」
2人の笑い声が洞窟に反響する。つられて、僕も笑みを浮かべる。まるで全てが上手くいき、強大な敵を難無く倒せる少年漫画の勝利シーンのように。しかし、これは理不尽な程自身に不利なことが連発する現実だった。それを忘れていた。後方から焼かれるような痛みがしたと思った途端、勢いよく何かが噴き出した。僕は痛みで声も上がらず倒れる。その寸前で見たものは……倒したはずの金色熊だった。あぁ…やっぱり…都合が…良すぎたか………
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