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暴食の章
第10話 儀式前夜
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ある程度部屋の品定めが終わり、気に入った部屋があったのか分からないがサミエムはご機嫌に寝床を準備し始める。僕はあることが気になり、老人と対面している形で座り続けていた。彼は少し嫌な顔をしていたが、何も文句を言って来なかった。サミエムが寝床で寝息を立て始めた頃、ようやく彼は口を開けた。
「仲間はもう寝たぞ、お前はどうしてそこに居続ける?」
「少し気になることがありまして…」
「手短に頼むぞ、明日も用事があるからな」
「僕は他人の感情の色が見えるんです」
「そんな冗談を言うためにずっといたのか?」
「冗談と思われるかもしれないけど、本当なんですよ?」
「それが何なのだ?お前が聞きたいことと関係があるのか?」
「金色熊を話している時に違和感を感じたんです、仮にも仲間を全員殺されてなぜそんなにも落ち着いた感情の色をしているのか…普通なら怒りや恨みを前面に感じるはずなのに」
老人の瞳孔が少し開き、目線が下を向く。どうやら何かを隠しているらしい。先ほどまでの冷静な雰囲気を感じさせる色から焦りの色へと滲んでいく。そして、手で顔を覆いつくしたまま話始める。
「どうやら本当に見えているらしいな、それとも焼きが回ったのか」
「何か…隠してますよね?」
「あぁ、少し長くなるがいいか?」
「ワシはアルシャルノ攻略隊の隊長だったセレンという者だ、金色熊に壊滅させられた後、運よく逃げ切れたワシはこの村の娘に救われたのだ」
「この村には金色熊を金鉱山の神として崇めるという宗教がある、そして奴が人間を食ったと知れた時に1つの儀式を行うのだ」
「儀式?」
「俗に言う人柱だ、金を身にまといやつに食われるまで山に放置されるというものでな…当時は調査という名目でやたらと人が山に入ったから、人手が足りず若かったワシも金集めを手伝っていた」
「そんな方法では逆効果なのでは?」
「確かに普通の熊ならば人間の味を教え込むような危険な行為だが、金色熊は違う、奴は知能が高くいつも高効率な餌を求める、だから奴自身の身を守ることにもなり魔力も含まれる万能の鉱物である金を食わせるのだ」
「とは言え、人間という美味で効率の良い餌を食らうことを覚えたやつに効率の悪い金を食べさせるのは不可能に近い、こんなことをしていても結局は飢えたやつに村が襲われるという結果が待ち受けている」
「じゃあなんで」
「…はずだった」
「おそらくは奴の性格上の問題あるいは生態上の何らかの特性によるものかは定かではないが、この儀式を行っていれば山を下りて村を壊滅させることはなかった、現にここは未だに平和だと言えよう」
「だからこの教えを疑う者もいないしずっと信じられている、ワシも最初は仲間の仇を取ろうとしていたが命の恩人である村の者たちを犠牲にしてまでしようとは思えんのだ、それに…」
「まだなにかあるのですか?」
「明日…例の儀式を行う、馬鹿な連中が金を求めて山に入ったのだ、その生贄に選ばれたのがワシを救ってくれた娘でな…」
「…!そんなことを見過ごす気ですか?!」
「もちろん腹立たしいしもどかしい限りだが他に手立てもない、全く…自分の不甲斐なさを呪うよ…ともかく山に踏み込むな、これ以上村に犠牲を出させるな」
「…悪いですけど僕にも譲りたくないことはあります、それに襲われる原因を理解しないままその方法に頼るのは良くないと思います…だから!」
「金色熊を殺す…か?」
「それだけじゃありません、僕たちが失敗した時に儀式を行わないように金を持っていきます」
「正気か?」
「…それが最適な解答だと考えただけですよ、皆さんに迷惑が掛からない上に僕たちも目的を果たしやすい、違いますか?」
「はぁ…よそ者なら罪悪感もそれほど大きくないということか…分かった、ならワシが明日村の者に伝えておこう…もう夜も更けた、そろそろ眠らせてもらえるか?あんたにもその方がいいだろ、アルシャルノは登頂難易度は低いがれっきとした山なのだからな」
僕が頷くと、セレンは立ち上がり、奥の部屋へ向かう。扉の前で立ち止まり、振り返ってこちらに向かい頭を深く下げた。よく見れば手が震えている。そうか…恨みや怒りを上回るほどの恐怖、それほどまでに彼にとって金色熊は怖い存在なのだろう。それが殺意ではなく、畏怖となってこの村にある金色熊教?にも抵抗をあまりしないのか…それなら合点もいくか?まぁ考えても仕方がないか…よし、不安しかないけど寝ておくか!
「仲間はもう寝たぞ、お前はどうしてそこに居続ける?」
「少し気になることがありまして…」
「手短に頼むぞ、明日も用事があるからな」
「僕は他人の感情の色が見えるんです」
「そんな冗談を言うためにずっといたのか?」
「冗談と思われるかもしれないけど、本当なんですよ?」
「それが何なのだ?お前が聞きたいことと関係があるのか?」
「金色熊を話している時に違和感を感じたんです、仮にも仲間を全員殺されてなぜそんなにも落ち着いた感情の色をしているのか…普通なら怒りや恨みを前面に感じるはずなのに」
老人の瞳孔が少し開き、目線が下を向く。どうやら何かを隠しているらしい。先ほどまでの冷静な雰囲気を感じさせる色から焦りの色へと滲んでいく。そして、手で顔を覆いつくしたまま話始める。
「どうやら本当に見えているらしいな、それとも焼きが回ったのか」
「何か…隠してますよね?」
「あぁ、少し長くなるがいいか?」
「ワシはアルシャルノ攻略隊の隊長だったセレンという者だ、金色熊に壊滅させられた後、運よく逃げ切れたワシはこの村の娘に救われたのだ」
「この村には金色熊を金鉱山の神として崇めるという宗教がある、そして奴が人間を食ったと知れた時に1つの儀式を行うのだ」
「儀式?」
「俗に言う人柱だ、金を身にまといやつに食われるまで山に放置されるというものでな…当時は調査という名目でやたらと人が山に入ったから、人手が足りず若かったワシも金集めを手伝っていた」
「そんな方法では逆効果なのでは?」
「確かに普通の熊ならば人間の味を教え込むような危険な行為だが、金色熊は違う、奴は知能が高くいつも高効率な餌を求める、だから奴自身の身を守ることにもなり魔力も含まれる万能の鉱物である金を食わせるのだ」
「とは言え、人間という美味で効率の良い餌を食らうことを覚えたやつに効率の悪い金を食べさせるのは不可能に近い、こんなことをしていても結局は飢えたやつに村が襲われるという結果が待ち受けている」
「じゃあなんで」
「…はずだった」
「おそらくは奴の性格上の問題あるいは生態上の何らかの特性によるものかは定かではないが、この儀式を行っていれば山を下りて村を壊滅させることはなかった、現にここは未だに平和だと言えよう」
「だからこの教えを疑う者もいないしずっと信じられている、ワシも最初は仲間の仇を取ろうとしていたが命の恩人である村の者たちを犠牲にしてまでしようとは思えんのだ、それに…」
「まだなにかあるのですか?」
「明日…例の儀式を行う、馬鹿な連中が金を求めて山に入ったのだ、その生贄に選ばれたのがワシを救ってくれた娘でな…」
「…!そんなことを見過ごす気ですか?!」
「もちろん腹立たしいしもどかしい限りだが他に手立てもない、全く…自分の不甲斐なさを呪うよ…ともかく山に踏み込むな、これ以上村に犠牲を出させるな」
「…悪いですけど僕にも譲りたくないことはあります、それに襲われる原因を理解しないままその方法に頼るのは良くないと思います…だから!」
「金色熊を殺す…か?」
「それだけじゃありません、僕たちが失敗した時に儀式を行わないように金を持っていきます」
「正気か?」
「…それが最適な解答だと考えただけですよ、皆さんに迷惑が掛からない上に僕たちも目的を果たしやすい、違いますか?」
「はぁ…よそ者なら罪悪感もそれほど大きくないということか…分かった、ならワシが明日村の者に伝えておこう…もう夜も更けた、そろそろ眠らせてもらえるか?あんたにもその方がいいだろ、アルシャルノは登頂難易度は低いがれっきとした山なのだからな」
僕が頷くと、セレンは立ち上がり、奥の部屋へ向かう。扉の前で立ち止まり、振り返ってこちらに向かい頭を深く下げた。よく見れば手が震えている。そうか…恨みや怒りを上回るほどの恐怖、それほどまでに彼にとって金色熊は怖い存在なのだろう。それが殺意ではなく、畏怖となってこの村にある金色熊教?にも抵抗をあまりしないのか…それなら合点もいくか?まぁ考えても仕方がないか…よし、不安しかないけど寝ておくか!
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