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暴食の章
第8話 教訓と出立
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サミエムが不機嫌そうに埃っぽい街を早足で駆けていく。僕は必死に追い付こうと走り、ようやく追いつきそうになった時、彼は急に止まった。そんなこと予想だにしていないため彼の背中にうずまるようにぶつかる。なんで止まったのか前を覗き込むと、そこにはヘリオがいた。
「ん‥‥サミエムか、奇遇だな」
「‥‥」
「一目で不機嫌というのが見てとれるな、後ろの旦那に話を聞いた方が良さそうだ」
「実は‥‥‥」
「なるほど、状況は把握した」
彼はそういうと一直線にサミエムへと近づき、頬に平手打ちをする。子気味良い音が周囲に広がり、道行く人々は喧嘩ごとだと勘違いし野次馬と化そうと集まってくる。変容をする風景と打って変わって僕たちは思いも寄らないような状況に少し放心状態に陥っていた。
「な、何するんだよ!」
「お前の先生として‥‥いや、先輩の冒険者だったものとして馬鹿げた行動を戒めるために打った」
「何が言いてぇのか分かんねぇよ!俺は仲間のため‥‥」
「それは本当に仲間のためか?少なくともお前の行動はこのチームに貢献するものだったのか?」
「‥‥」
「軽率な怒りで我を忘れるな、お前にはもう引き留めたり助けてくれたりする大切な仲間がいるんだろ?」
「うん」
「それなら怒りを飲み込んで冷静に仲間に最も良い行動を考えるべきだ、そうだろ?」
「‥‥分かったよ、ヘリオのおっさん‥‥ごめんな、灰崎」
「別に構わないけど路銀はどうしよう?」
「今回だけは俺が出してやる、後の装備は俺の同期のやつをやろう」
「いいんですか?」
「遺品だがな」
「うっ、背に腹は代えられないか‥‥」
「決まりだな、少し待ってろ」
「取りに行ってくれるんですか?」
「そんな訳ないだろ、まぁ備品みたいなもんだからな‥‥ほら、見えてきたぞ」
ヘリオが指さす先を見てみると何かが凄い勢いで飛んでくる。目を凝らし前に進もうとすると彼は後ろに下がれと言わんばかりに自身の背後へと押しやる。その行動と物体の速度でおおよそ察しがついた僕は大人しく指示に従う。その数秒後、けたたましい爆音と共により一層巻き上がる埃が周囲を飲み込む。僕たちはもちろんのこと普通に歩いていた人や店を構えていた人など全員が咳き込みながら、さっさと埃消え去るのを願った。しばらくしてようやく目の前が分かるくらいには収まると、飛んできたものを覗き見る。
「これだから便利だが嫌なんだよな、ゴホッゴホッ」
「もしかして飛ばされてきたものって」
「あぁ、さっき言っていた登山用装備一式だ」
「というか話が早いって言うか何というか」
「そりゃ強欲帝様の命令で旦那たちを見つけて装備を渡すっていうミッションが諜報員たちに出されていたからな」
「先に聞きたかったですよ、全く‥‥」
「まぁ受け取れたしいいじゃないか、それに路銀は俺のサービスだぜ?」
「というかこれどうやって来たんですか?」
「これは俺たちに配られているこの情報伝達魔法具で位置を確認して物資を高速で送るっていう1種の魔法だな」
「便利ですけど危なくないですか?」
「‥‥たまに俺の店の天井を突き破って届く」
確かに古ぼけた骨董屋という印象が強くてよく見ていなかったけど天井に下手くそな保善工事の跡があった覚えがあると思い出したが、口を紡いだ。こんなこと言って機嫌悪くさせたら路銀貰えないかもしれないし‥‥
「そういや店の天井に下手くそに打ち付けた板があったな!あれがそうなのか?」
「サミエム!」
「な、なんだよ」
「なんでそれを言うんだよ!」
「え?」
「坊ちゃんよぉ、もう一回殴られたいようだな?」
「えぇ?!」
「まぁ大目に見てやる、ほら路銀はこれで足りるだろ?」
「ありがとうございます!ほら、サミエムも」
「ありがとうございます‥‥それとすみませんでした」
ヘリオは少し照れくさそうに袋を渡し、後ろ手に手を振りながらどこかへと消えていった。正直彼とこんなにも付き合いが長くなるとは考えていなかったし、最初は敵だと思っていたけどお世話になることが多くなってきてもうすっかり師匠や先生という扱いだ。そういえば先輩の冒険者としてってことは元は冒険者ギルドのメンバーってことだよな?でも、WLDと冒険者は敵対関係に似た立場なのにどうやって今の地位を確立したんだろうか‥‥付き合いも長いのにまだまだ謎が多い人だな。確かサミエムはヘリオに特訓させられていたと聞いたし、彼なら知ってることも多いのかな?まぁこれからの長い旅路で聞けばいいか!
「おーい、灰崎!」
「あっ、ごめんごめん、ちょっと考え事してた」
「さっさとナントカ熊の肉で暴食帝の懐に入りこまなきゃ強欲帝様の怒りでも買うぜ?」
「ハハハ、それもそうだね、行こうか!」
「ん‥‥サミエムか、奇遇だな」
「‥‥」
「一目で不機嫌というのが見てとれるな、後ろの旦那に話を聞いた方が良さそうだ」
「実は‥‥‥」
「なるほど、状況は把握した」
彼はそういうと一直線にサミエムへと近づき、頬に平手打ちをする。子気味良い音が周囲に広がり、道行く人々は喧嘩ごとだと勘違いし野次馬と化そうと集まってくる。変容をする風景と打って変わって僕たちは思いも寄らないような状況に少し放心状態に陥っていた。
「な、何するんだよ!」
「お前の先生として‥‥いや、先輩の冒険者だったものとして馬鹿げた行動を戒めるために打った」
「何が言いてぇのか分かんねぇよ!俺は仲間のため‥‥」
「それは本当に仲間のためか?少なくともお前の行動はこのチームに貢献するものだったのか?」
「‥‥」
「軽率な怒りで我を忘れるな、お前にはもう引き留めたり助けてくれたりする大切な仲間がいるんだろ?」
「うん」
「それなら怒りを飲み込んで冷静に仲間に最も良い行動を考えるべきだ、そうだろ?」
「‥‥分かったよ、ヘリオのおっさん‥‥ごめんな、灰崎」
「別に構わないけど路銀はどうしよう?」
「今回だけは俺が出してやる、後の装備は俺の同期のやつをやろう」
「いいんですか?」
「遺品だがな」
「うっ、背に腹は代えられないか‥‥」
「決まりだな、少し待ってろ」
「取りに行ってくれるんですか?」
「そんな訳ないだろ、まぁ備品みたいなもんだからな‥‥ほら、見えてきたぞ」
ヘリオが指さす先を見てみると何かが凄い勢いで飛んでくる。目を凝らし前に進もうとすると彼は後ろに下がれと言わんばかりに自身の背後へと押しやる。その行動と物体の速度でおおよそ察しがついた僕は大人しく指示に従う。その数秒後、けたたましい爆音と共により一層巻き上がる埃が周囲を飲み込む。僕たちはもちろんのこと普通に歩いていた人や店を構えていた人など全員が咳き込みながら、さっさと埃消え去るのを願った。しばらくしてようやく目の前が分かるくらいには収まると、飛んできたものを覗き見る。
「これだから便利だが嫌なんだよな、ゴホッゴホッ」
「もしかして飛ばされてきたものって」
「あぁ、さっき言っていた登山用装備一式だ」
「というか話が早いって言うか何というか」
「そりゃ強欲帝様の命令で旦那たちを見つけて装備を渡すっていうミッションが諜報員たちに出されていたからな」
「先に聞きたかったですよ、全く‥‥」
「まぁ受け取れたしいいじゃないか、それに路銀は俺のサービスだぜ?」
「というかこれどうやって来たんですか?」
「これは俺たちに配られているこの情報伝達魔法具で位置を確認して物資を高速で送るっていう1種の魔法だな」
「便利ですけど危なくないですか?」
「‥‥たまに俺の店の天井を突き破って届く」
確かに古ぼけた骨董屋という印象が強くてよく見ていなかったけど天井に下手くそな保善工事の跡があった覚えがあると思い出したが、口を紡いだ。こんなこと言って機嫌悪くさせたら路銀貰えないかもしれないし‥‥
「そういや店の天井に下手くそに打ち付けた板があったな!あれがそうなのか?」
「サミエム!」
「な、なんだよ」
「なんでそれを言うんだよ!」
「え?」
「坊ちゃんよぉ、もう一回殴られたいようだな?」
「えぇ?!」
「まぁ大目に見てやる、ほら路銀はこれで足りるだろ?」
「ありがとうございます!ほら、サミエムも」
「ありがとうございます‥‥それとすみませんでした」
ヘリオは少し照れくさそうに袋を渡し、後ろ手に手を振りながらどこかへと消えていった。正直彼とこんなにも付き合いが長くなるとは考えていなかったし、最初は敵だと思っていたけどお世話になることが多くなってきてもうすっかり師匠や先生という扱いだ。そういえば先輩の冒険者としてってことは元は冒険者ギルドのメンバーってことだよな?でも、WLDと冒険者は敵対関係に似た立場なのにどうやって今の地位を確立したんだろうか‥‥付き合いも長いのにまだまだ謎が多い人だな。確かサミエムはヘリオに特訓させられていたと聞いたし、彼なら知ってることも多いのかな?まぁこれからの長い旅路で聞けばいいか!
「おーい、灰崎!」
「あっ、ごめんごめん、ちょっと考え事してた」
「さっさとナントカ熊の肉で暴食帝の懐に入りこまなきゃ強欲帝様の怒りでも買うぜ?」
「ハハハ、それもそうだね、行こうか!」
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