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序章

第14話 ようこそ、アレクシエル家へ

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 鈍く刺さるような頭痛で目を覚ました時、見知らぬ天井が広がっていた。少し驚きながら周りを見渡す。豪華なベッドに広い部屋‥‥どうやら牢獄ではないってことは分かるが、記憶に残っている情報を辿れば牢獄にでも監禁されそうだったんだが‥‥心が広いのか?物でも押収‥‥って、アリフィカさんのロゼッタストーンは無事か?そう思い、ポケットをまさぐる。硬い感触が手に伝わり、とりだすといつも助けてくれる彼女の姿が確認できた。ほっと一息ついているとドアがノックされ、誰かが入ってくる‥‥あれはメイド?

「おはようございます、お食事の準備が出来ておりますのでいつでもお申し付けください」

「ありがとうございます、えっと‥‥では、すぐにいただきます」

「差し出がましいようですが、そちらに正装を用意いたしましたのでお着替えしてからの方がよろしいかと」

「あっ、そうですよね、ははは‥‥」

「では、お着替えが終わりましたら、扉を出て右手にある階段から階下に降り、左に曲がって突き当りがお部屋にございますので、そちらにお越しください」

 彼女は返答も聞かず、そそくさと部屋を後にする。仕事でも溜まっているのかな?まぁ、さっさと着替えて行くか、お腹も減ってるし‥‥というか、どれだけ寝てたんだ?まぁ、その辺も後で聞けばいいか。



 慣れない服に戸惑いながら着替えると、僕は意気揚々と外に出る。長い廊下に大きな階段、そして高そうな絨毯がどこまでも続いている‥‥まさに豪邸といったものが所狭しと並び立っていた。確か名門の貴族だったから、これくらいは当たり前なのか?そう思いながら進んでいると、誰かに肩を叩かれる。振り返ると、サミエムが立っていた。

「あっ、サミエム!無事だったんだね」

「ああ、灰崎も‥‥来ちまったか」

「え?ここはそんなに不味い場所なの?」

「不味いぜ?面倒なことにならないといいがな」

「‥‥とりあえず、気を付けるよ」

「大丈夫だ、なんとかお前だけは見逃してもらえるように兄貴を説得したから」

「何をしている、サミエム」

「うげっ、兄さん」

「早く来い、せっかくの料理が冷めるだろ?」

「分かった分かった、行こうぜ」

「うん、そうだね」



 指定された部屋の扉を開けると、そこには金持ちがよく持っているような長机があり、一番奥には沢山髭を蓄えた男性がどっしりと構えていた。どうやら待たされてご立腹のようだ、苛立ちの色が少し出ている。

「ようやく来たか、待ちわびたぞ」

「遅れて申し訳ございません、お父様」

「まぁよい‥‥とりあえず食事をしよう、さぁ客人もどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 3人とも席に着き、食事が出される。最初は‥‥スープか、オードブルってことか?でも、すごくおいしい!アステリアじゃあ食えないようなものだ!あっ、でもがっついては駄目か‥‥落ち着いて、マナーを守って食事するのを心掛けなくては‥‥

「おっほん‥‥それで客人、まずは謝罪をしよう。強引に連れてきてしまってすまなかった」

「いえいえ、とんでもない‥‥」

「我が放蕩息子の恩人が客人と聞いて、ぜひとも礼をしたかったのだ」

「サミエムさんにも助けられたのでお礼なんて‥‥」

「はっはっは!謙虚なお方だ、まぁ受け取れるものは受け取る方が後々得なことが多いから受け取っておきなさい」

「はぁ‥‥なるほど」

「それで本題だが、君は放蕩息子とパーティを組んでいると聞いている。実はその息子サミエムに縁談の話が舞い込んだのだ、その上相手は強欲帝の抱える幹部の1人の娘と来たものだ」

「つまり、パーティを解散してくれと‥‥場合によっては恩人への礼という手切れ金を渡してもよいということでしょうか?」

「話が早いじゃないか、気に入ったぞ。だが、ワシはただ恩には恩を返す主義なだけだ、深読みし過ぎだな」

「‥‥1つ条件があります」

「ほう、何だ?」

「サミエムが本当に縁談を受けたいと思っていることです、もしそうなら僕は何も言いませんし手切れ金を要求することもしません」

「だそうだ、サミエム」

「え‥‥俺は、うぅ、俺は‥‥」

「どうしたの、サミエム?」

「‥‥俺は父さんに従うよ」

「え‥‥なんで!家に帰るのをあんなに拒んでたのはこの話が薄々分かってたからだろ?」

「ごめん、灰崎」

「どういう事だよ‥‥」

「満足いただけたかな?それじゃあ縁談を受けるという方向でいいな、サミエム」

「はい‥‥」

「さて、餞別じゃあないが食事を楽しんでくれたまえ‥‥あぁ、それと今日はもう遅いからな、泊っていくと良い」

「‥‥ありがとうございます」

 僕は何も言い返せなかった。それもそうだ、僕は彼を表面でしか知らない。だけど、感情の色は嘘をつけない。彼は不満を感じている‥‥でも、それに勝るような恐怖の色がある。そんなに父親が怖い存在なのか?だが、今ここで聞いたところで話してくれないだろうなぁ‥‥食事が終わってからにしよう。



 食事が終わると各々が部屋に戻っていく。僕はサミエムを問い詰めるため呼び止めようとするが、彼の兄に止められた。

「君が納得いかないのも分かる」

「なら、彼と話させてください!」

「落ち着け、私が代わりに話してやる‥‥こちらに来てくれ」

 納得はいかないが、サミエムをすぐに問い詰めるのも違うか‥‥僕は、彼の後を追っていった。



 ついていくと彼の部屋らしき場所に入るように手招きをされた。部屋の中は綺麗に整頓されており、本棚はびっしりと詰まり、鋭い剣や重厚な鎧などが飾られていた。彼が椅子に腰掛けると、ゆっくりと話し出した。

「さて、どこから話したものか‥‥そうだ、自己紹介がまだだったな、私はレイサムだ」

「‥‥灰崎零です」

「灰崎、君には本当に感謝しているんだ、私の弟を救ってくれたからね‥‥サミエムは昔から危なっかしくてね、よくお父様に𠮟られていたよ‥‥」

「あの‥‥」

「すまない、干渉に浸っていた、なんせこの家に家族がまた集まることが嬉しくてね‥‥それで君は弟をどれくらい知っているんだ?」

「‥‥恥ずかしながら全然です、落ちこぼれって噂を聞いたくらいです」

「あぁ、それは実際当たっているんだ。サミエムは落ちこぼれだった、剣も槍も勉強も出来なくてね‥‥いつも稽古をほっぽり出して逃げていたよ、それでより一層厳しい教育を受けることになった」

「厳しい教育?」

「ここから先は自分で話すか?さっきから扉の裏で盗み聞きしているんだろ、サミエム」

「なんで分かったんだよ‥‥」

「バレバレだったよ、さぁ友達にちゃんと話してどうするか考えるんだ」

 サミエムは嫌そうに顔を歪めるが、渋々口を開き始めた。
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