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序章
第4話 効率的社畜のはじめ
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突然の申し出にハトが豆鉄砲でも食らったような感覚を持ちながら、黙っていると初老の男は、女将をあしらうように手を払った。彼女は、その態度に少々不満を感じているような色を見せながら、ビジネススマイルで部屋を後にした。その姿を確認し終えると、初老の男は、ゆっくりと話し出した。
「自己紹介がまだだったな、俺はヘリオだ。よろしくな、旦那」
「えっと‥‥まだよく状況が掴めてないのですが」
「寝ぼけているのか?‥‥まぁいい、とりあえず仕事の説明をすれば嫌でも目が覚めるだろう」
(何よ、この男!強引なやつね)
「実は、彼に売ったんですよ。あの魂縛石‥‥」
(はぁ?!このがめつい商人おっさんめ!こんなやつの仕事なんて受けなくていいわよ!)
「一応そのつもりです‥‥穏便に断ります」
「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?集中しろ、もう一度だけ話すからな」
「はは‥‥すみません」
「昨日買い取った魂縛石だが、実は需要が高いんだよ。よく錬金術師やら魔導師やらの金に糸目を付けぬ先生方がお求めになるんだよ。だが、供給されるもの‥‥流通量が恐ろしいほど少ないのさ。つまり、安定した仕入れ先があれば、いい儲けになる商売になるのさ」
「ここまで言えば分かるだろ?旦那には、その安定した仕入れ先になってほしいのさ。一週間後に魂縛石を100個欲しいんだよ。出来るよな?」
「お断りします」
「なんだと?」
「昨日の魂縛石‥‥正常な値段で売りませんでしたよね?」
「情報を持ってないやつが損をする、常識だろ?それよりも、自分自身のことを考えてみろよ?」
「‥‥どういうことです?」
「正体不明の旅人が、あの冒険者ギルド優待券を持っているって時点で怪しい気配満々じゃないか?そんな奴にまともな依頼が回って来るとでも?」
「そ、それは、これから魂縛石を売っていって信頼を‥‥」
「そもそもなんで売れると思っているんだ?魂縛石なんてギルドの連中は見たこともない商人だらけだ。魔力なんて調べるような器具もないぞ」
「それなら、なんであなたは分かったんですか?」
「そんなの見たこともある上に、俺は一応元冒険者だからな。その程度の目利き簡単だ」
「うぅ‥‥でも」
「正常な値段で取引しないってか?はは、笑えるジョークだ。いいか?一度バレたイカサマはすぐにバレるんだよ。そんなもんやるだけ無駄だ、違うか?だから、俺は正常な値段で取引をする。信用を得るためにもな」
「‥‥」
「そうだな、金貨120枚が妥当な数だが、疑い深い旦那のために、俺が負けることにしてやろう。金貨130枚でどうだ?品質は昨日のもの程度での話だがな。もちろん、品質が上がればそれ以上を支払うことを約束しよう」
「少し待ってください‥‥アリフィカさん」
(うん、まともっちゃまともだけど‥‥)
「怪しいですよね‥‥」
(でも、確かにここのギルドショップじゃ買い取る判断が出来る設備も人員もいないし、身分不明の人へ回って来る仕事もろくなものじゃないってことも本当だわ)
「なら‥‥よし、決めました。お受けします」
「契約成立だ、よろしくな、旦那」
片方の口角をあげながら笑みをあげるヘリオは、まさに時代劇に出てくるような悪徳商人という言葉がぴったりと当てはまるような表情だった。そんな満足気な彼が部屋を出るのを見送ると、僕はため息をつきながら平原へ向かった。そういえば、こんな倦怠感を久しく感じるのは、転生前の自分に関係しているのかな?
魂術師のスキルの性質上、モンスターの観察が必須である。これは、僕が昨日の戦闘で学んだ知恵だ。しかし、昨日のようにひたすらに攻撃を避けて、怒りの感情で魂縛化していては、時間も体力も足りなくなってしまう。そこで、RPGの鉄則である道具を駆使することにした。ちなみに今日は銅貨3枚のこけおどし玉を4つ購入してみた。狙いはゴブリン、この辺で聴覚を持っているモンスターはあいつくらいしかいないだろう‥‥多分。1人になったゴブリンの後ろに回り込んで‥‥こけおどし玉を投げつける!キーンという甲高い耳障りな音が鳴り響くと同時に、ゴブリンの感情の色は、とてつもない驚きを示していた。
「今だ!ソウルテイク!」
昨日と同じように眩い光が溢れ出し、スライムの魂縛石よりもすこし大きめの石が手に握られていた。やった‥‥成功だ!この方法でも魂縛化は出来る!しかも、体力の消費なしだ!そして、僕はこけおどし戦法で、今日は4つの魂縛石とゴブリンの牙を戦利品として持って帰ることに成功したのであった。しかし、100個集めるには少しお金が多く必要だな‥‥よし、とりあえずヘリオのところに持って行ってみようかな。
「すみません、ヘリオさんいますか?」
埃まみれの店内で僕の声が響く。すると、奥からだるそうに彼が出てきた。
「‥‥なんだ?もう集まったのか?」
「いえ‥‥お願いがあってこちらに来ました」
「ほう、それで?」
「今日ゴブリンの魂縛化に成功したのですが、物資の調達やら宿泊費やら何かとお金が‥‥」
「ああ、つまり分割払いしてくれって言うのか?まぁ、いいだろう‥‥4つか、一日中にしてはゆっくりしすぎじゃないか?」
「でも、MPの問題でそれが限界っていうか‥‥その」
「なるほどな、じゃあ1つ良いこと教えてやるよ。旦那は、昨日スライム1匹、今日でゴブリン4匹倒したってわけだろ?それだけ魔物を倒すと、職業のレベルが上がっているはずだ」
「そのレベルが上がればどうなるんですか?」
「例えば、基礎ステータスが上がったり、職業スキルを獲得したりすることが出来る。もちろん、MPの増加も可能だし、新たなスキル確保で魂縛化を効率的にしてもいい」
「なるほど‥‥ありがとうございます」
「構わん、旦那の成功は俺の成功でもある。この仕事中は仲間みたいなもんだ。気軽に聞いていいぞ?‥‥ほれ、金貨4枚だ」
彼からお金を受け取ると、宿泊施設に戻る道すがら美味しそうな骨付き肉の屋台があったので、買って肉にかぶりつきながら歩き始めた。明日も仕事頑張っていくか!そんな清々しい帰り道を過ごす僕であった。
「自己紹介がまだだったな、俺はヘリオだ。よろしくな、旦那」
「えっと‥‥まだよく状況が掴めてないのですが」
「寝ぼけているのか?‥‥まぁいい、とりあえず仕事の説明をすれば嫌でも目が覚めるだろう」
(何よ、この男!強引なやつね)
「実は、彼に売ったんですよ。あの魂縛石‥‥」
(はぁ?!このがめつい商人おっさんめ!こんなやつの仕事なんて受けなくていいわよ!)
「一応そのつもりです‥‥穏便に断ります」
「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?集中しろ、もう一度だけ話すからな」
「はは‥‥すみません」
「昨日買い取った魂縛石だが、実は需要が高いんだよ。よく錬金術師やら魔導師やらの金に糸目を付けぬ先生方がお求めになるんだよ。だが、供給されるもの‥‥流通量が恐ろしいほど少ないのさ。つまり、安定した仕入れ先があれば、いい儲けになる商売になるのさ」
「ここまで言えば分かるだろ?旦那には、その安定した仕入れ先になってほしいのさ。一週間後に魂縛石を100個欲しいんだよ。出来るよな?」
「お断りします」
「なんだと?」
「昨日の魂縛石‥‥正常な値段で売りませんでしたよね?」
「情報を持ってないやつが損をする、常識だろ?それよりも、自分自身のことを考えてみろよ?」
「‥‥どういうことです?」
「正体不明の旅人が、あの冒険者ギルド優待券を持っているって時点で怪しい気配満々じゃないか?そんな奴にまともな依頼が回って来るとでも?」
「そ、それは、これから魂縛石を売っていって信頼を‥‥」
「そもそもなんで売れると思っているんだ?魂縛石なんてギルドの連中は見たこともない商人だらけだ。魔力なんて調べるような器具もないぞ」
「それなら、なんであなたは分かったんですか?」
「そんなの見たこともある上に、俺は一応元冒険者だからな。その程度の目利き簡単だ」
「うぅ‥‥でも」
「正常な値段で取引しないってか?はは、笑えるジョークだ。いいか?一度バレたイカサマはすぐにバレるんだよ。そんなもんやるだけ無駄だ、違うか?だから、俺は正常な値段で取引をする。信用を得るためにもな」
「‥‥」
「そうだな、金貨120枚が妥当な数だが、疑い深い旦那のために、俺が負けることにしてやろう。金貨130枚でどうだ?品質は昨日のもの程度での話だがな。もちろん、品質が上がればそれ以上を支払うことを約束しよう」
「少し待ってください‥‥アリフィカさん」
(うん、まともっちゃまともだけど‥‥)
「怪しいですよね‥‥」
(でも、確かにここのギルドショップじゃ買い取る判断が出来る設備も人員もいないし、身分不明の人へ回って来る仕事もろくなものじゃないってことも本当だわ)
「なら‥‥よし、決めました。お受けします」
「契約成立だ、よろしくな、旦那」
片方の口角をあげながら笑みをあげるヘリオは、まさに時代劇に出てくるような悪徳商人という言葉がぴったりと当てはまるような表情だった。そんな満足気な彼が部屋を出るのを見送ると、僕はため息をつきながら平原へ向かった。そういえば、こんな倦怠感を久しく感じるのは、転生前の自分に関係しているのかな?
魂術師のスキルの性質上、モンスターの観察が必須である。これは、僕が昨日の戦闘で学んだ知恵だ。しかし、昨日のようにひたすらに攻撃を避けて、怒りの感情で魂縛化していては、時間も体力も足りなくなってしまう。そこで、RPGの鉄則である道具を駆使することにした。ちなみに今日は銅貨3枚のこけおどし玉を4つ購入してみた。狙いはゴブリン、この辺で聴覚を持っているモンスターはあいつくらいしかいないだろう‥‥多分。1人になったゴブリンの後ろに回り込んで‥‥こけおどし玉を投げつける!キーンという甲高い耳障りな音が鳴り響くと同時に、ゴブリンの感情の色は、とてつもない驚きを示していた。
「今だ!ソウルテイク!」
昨日と同じように眩い光が溢れ出し、スライムの魂縛石よりもすこし大きめの石が手に握られていた。やった‥‥成功だ!この方法でも魂縛化は出来る!しかも、体力の消費なしだ!そして、僕はこけおどし戦法で、今日は4つの魂縛石とゴブリンの牙を戦利品として持って帰ることに成功したのであった。しかし、100個集めるには少しお金が多く必要だな‥‥よし、とりあえずヘリオのところに持って行ってみようかな。
「すみません、ヘリオさんいますか?」
埃まみれの店内で僕の声が響く。すると、奥からだるそうに彼が出てきた。
「‥‥なんだ?もう集まったのか?」
「いえ‥‥お願いがあってこちらに来ました」
「ほう、それで?」
「今日ゴブリンの魂縛化に成功したのですが、物資の調達やら宿泊費やら何かとお金が‥‥」
「ああ、つまり分割払いしてくれって言うのか?まぁ、いいだろう‥‥4つか、一日中にしてはゆっくりしすぎじゃないか?」
「でも、MPの問題でそれが限界っていうか‥‥その」
「なるほどな、じゃあ1つ良いこと教えてやるよ。旦那は、昨日スライム1匹、今日でゴブリン4匹倒したってわけだろ?それだけ魔物を倒すと、職業のレベルが上がっているはずだ」
「そのレベルが上がればどうなるんですか?」
「例えば、基礎ステータスが上がったり、職業スキルを獲得したりすることが出来る。もちろん、MPの増加も可能だし、新たなスキル確保で魂縛化を効率的にしてもいい」
「なるほど‥‥ありがとうございます」
「構わん、旦那の成功は俺の成功でもある。この仕事中は仲間みたいなもんだ。気軽に聞いていいぞ?‥‥ほれ、金貨4枚だ」
彼からお金を受け取ると、宿泊施設に戻る道すがら美味しそうな骨付き肉の屋台があったので、買って肉にかぶりつきながら歩き始めた。明日も仕事頑張っていくか!そんな清々しい帰り道を過ごす僕であった。
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