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僻する太陽
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ラーヴェ修道院の一室、ジュノーは今もまだ眠るアリシアの傍に着いていた。体内に毒を残さぬ為に時間を掛けて丁寧に治癒が施されている。
まだ熱はあるものの、顔色は随分と良くなっていた。
そこへ来客の報せが届く。
「ジュノー様、ゴルド国から早馬が来ております。こちらの文書をと」
「ゴルドから……?」
部屋にやって来た修道女から、書簡を受け取る。
「アリシア様はまだお目覚めで無い事は伝えましたが……至急そちらを確認いただきたいと。院長にも既に知らせております」
ジュノーは一つ頷いて書簡を開き、目を通す。
「これは……どういう事かしら。まだ回復が終わって居ないと言うのに、急に、随分と勝手な事を……」
眉を寄せ、まだ眠るアリシアの顔と書簡を交互に見やる。
書簡にはアリシアに対し国外追放の命を解き、至急王都に戻るように書かれていた。文末にはゴルド国王の署名と玉璽もある。
「如何されますか?」
「明後日には迎えが来ると書かれているわ。これでは猊下に確認を取るにしても、間に合うか分からないわね……」
ジュノーは困惑した表情で眠るアリシアに再び視線を戻し、一つ息を吐いた。
◇◆◇
王城では国王から謁見の許しを得て、ユージーン達のほか、レオン、ロイド、宰相と公爵夫妻が呼ばれ移動していた。
呼ばれた場所は謁見の間では無く国王の私室だった。
私室でベットに半身を起こしたまま出迎えたゴルド国王は、顔色も悪く目の下には隈が浮き、数日で随分とやつれているように見えた。
傍らには王妃が至極真剣な表情で座っている。
「このような姿を晒す事を詫びよう。非公式の場として、楽にしてくれると有り難い」
発せられた声も僅かに掠れているようだった。
「お加減が芳しくないようですが」
「はは、まぁ、大事無い」
声を掛けたユージーンに、ゴルド国王は砕けた口調で返すが、その言葉もどこか弱々しく響いた。
ゴルド国王は水の枯渇の報を受けて以来、近隣諸国から救援支援を得るための外交対応に昼夜無く当たっていたのは皆知るところだ。
国と国の間で取り交わされる支援は、外交に大きな借りを作る。善意で全てが終わる話では無い以上、交渉や調整、委細の確認と、国王が把握し采配しなければならない事は多岐に渡っていた。
「だが、この程度で床に就くなど、本当に、情けない話だ……」
その憔悴ぶりからは、理由はそれだけでは無いのが察せられたが、敢えて尋ねるものは居なかった。
「陛下、良ければわたくしから」
王妃が声を掛けるが、国王はそれをやんわりと制し首を振った。それから部屋に集まった者達に改めて向き直る。
「戦争の時代は終わったと言われて久しいが、今この国の状況が広く知れ渡ったのち、何が起こるとも限らぬ。何より、このままでは……」
言葉を区切ると、私室の窓へと視線を向けた。
窓の外には、西に傾いた陽の光に照らされる城下が見える。
「国が傾けば、真っ先に犠牲となるのも、長く苦しむ事になるのも、民の方だ」
呟いた後で、ゴルド国王は一つ大きく息を吐いた。
「宰相から、猊下が何をお調べになっているかは聞いている。今この国に起こっている事も」
それからベット上で背筋を正すと、ゴルド国王はユージーンに目を合わせた。
「国の繁栄の為に選択をしたつもりで、儂は過ちを犯した。多くを犠牲にしてしまった。それを隠し通す事で、これ以上犠牲を増やす訳にはいかぬ」
静寂の中で、部屋に居る者全ての視線が国王に集まっている。
「虫のいい話をしているのは承知の上で、大教会のお力と知恵をお借りしたい。国を守るために、まだ出来る事があるのなら、我が罪は詳らかにしよう」
敢えて沈黙を返すユージーンに、覚悟を決めたように国王は話を続けた。
「猊下が今お調べになっている、記憶消去を命じたのは儂だ。……ブライアンには、邪魔をされてしまったがな」
苦い表情で告げられた言葉に、レオンを始めとして数人が息を飲んだ。ユージーンとロイドは静かに頷く。
「消さねばならぬ記憶とは一体何であったか、まずはそこからお話しいただいても構いませんか?」
国王が首肯する。
「どこから話したものか。そうだな、まずそもそもの発端からか。……猊下、我が息子レオンは、特別な力こそ授かっては居ないが、ある意味で神の恩寵を得ている」
国王の言葉に、ユージーンは僅かに首を傾げた。
「──新しき誓約が成った。十年前、国を善く導くとレオンが立てた誓いに、神がお応えになった。儂も含め、その場に居た者全てが、形を取られ顕現したお姿を目にした」
「……誓約が?」
ユージーンは思案するように口元に指を当てた。
まだ熱はあるものの、顔色は随分と良くなっていた。
そこへ来客の報せが届く。
「ジュノー様、ゴルド国から早馬が来ております。こちらの文書をと」
「ゴルドから……?」
部屋にやって来た修道女から、書簡を受け取る。
「アリシア様はまだお目覚めで無い事は伝えましたが……至急そちらを確認いただきたいと。院長にも既に知らせております」
ジュノーは一つ頷いて書簡を開き、目を通す。
「これは……どういう事かしら。まだ回復が終わって居ないと言うのに、急に、随分と勝手な事を……」
眉を寄せ、まだ眠るアリシアの顔と書簡を交互に見やる。
書簡にはアリシアに対し国外追放の命を解き、至急王都に戻るように書かれていた。文末にはゴルド国王の署名と玉璽もある。
「如何されますか?」
「明後日には迎えが来ると書かれているわ。これでは猊下に確認を取るにしても、間に合うか分からないわね……」
ジュノーは困惑した表情で眠るアリシアに再び視線を戻し、一つ息を吐いた。
◇◆◇
王城では国王から謁見の許しを得て、ユージーン達のほか、レオン、ロイド、宰相と公爵夫妻が呼ばれ移動していた。
呼ばれた場所は謁見の間では無く国王の私室だった。
私室でベットに半身を起こしたまま出迎えたゴルド国王は、顔色も悪く目の下には隈が浮き、数日で随分とやつれているように見えた。
傍らには王妃が至極真剣な表情で座っている。
「このような姿を晒す事を詫びよう。非公式の場として、楽にしてくれると有り難い」
発せられた声も僅かに掠れているようだった。
「お加減が芳しくないようですが」
「はは、まぁ、大事無い」
声を掛けたユージーンに、ゴルド国王は砕けた口調で返すが、その言葉もどこか弱々しく響いた。
ゴルド国王は水の枯渇の報を受けて以来、近隣諸国から救援支援を得るための外交対応に昼夜無く当たっていたのは皆知るところだ。
国と国の間で取り交わされる支援は、外交に大きな借りを作る。善意で全てが終わる話では無い以上、交渉や調整、委細の確認と、国王が把握し采配しなければならない事は多岐に渡っていた。
「だが、この程度で床に就くなど、本当に、情けない話だ……」
その憔悴ぶりからは、理由はそれだけでは無いのが察せられたが、敢えて尋ねるものは居なかった。
「陛下、良ければわたくしから」
王妃が声を掛けるが、国王はそれをやんわりと制し首を振った。それから部屋に集まった者達に改めて向き直る。
「戦争の時代は終わったと言われて久しいが、今この国の状況が広く知れ渡ったのち、何が起こるとも限らぬ。何より、このままでは……」
言葉を区切ると、私室の窓へと視線を向けた。
窓の外には、西に傾いた陽の光に照らされる城下が見える。
「国が傾けば、真っ先に犠牲となるのも、長く苦しむ事になるのも、民の方だ」
呟いた後で、ゴルド国王は一つ大きく息を吐いた。
「宰相から、猊下が何をお調べになっているかは聞いている。今この国に起こっている事も」
それからベット上で背筋を正すと、ゴルド国王はユージーンに目を合わせた。
「国の繁栄の為に選択をしたつもりで、儂は過ちを犯した。多くを犠牲にしてしまった。それを隠し通す事で、これ以上犠牲を増やす訳にはいかぬ」
静寂の中で、部屋に居る者全ての視線が国王に集まっている。
「虫のいい話をしているのは承知の上で、大教会のお力と知恵をお借りしたい。国を守るために、まだ出来る事があるのなら、我が罪は詳らかにしよう」
敢えて沈黙を返すユージーンに、覚悟を決めたように国王は話を続けた。
「猊下が今お調べになっている、記憶消去を命じたのは儂だ。……ブライアンには、邪魔をされてしまったがな」
苦い表情で告げられた言葉に、レオンを始めとして数人が息を飲んだ。ユージーンとロイドは静かに頷く。
「消さねばならぬ記憶とは一体何であったか、まずはそこからお話しいただいても構いませんか?」
国王が首肯する。
「どこから話したものか。そうだな、まずそもそもの発端からか。……猊下、我が息子レオンは、特別な力こそ授かっては居ないが、ある意味で神の恩寵を得ている」
国王の言葉に、ユージーンは僅かに首を傾げた。
「──新しき誓約が成った。十年前、国を善く導くとレオンが立てた誓いに、神がお応えになった。儂も含め、その場に居た者全てが、形を取られ顕現したお姿を目にした」
「……誓約が?」
ユージーンは思案するように口元に指を当てた。
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