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序章
小島の苦悩
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そもそもこれはコピー機のはず。
という疑問を抱えたまま、いつもの会議に加わる。
このところの議題に挙がるのは、どうすればよりわかりやすい操作方法に改善できるかという問題。
両面コピーの方法がわかりにくいのだという。
長辺綴じ、短辺綴じのどちらを選択すればよいかが直感的に理解できないことが、ユーザーの不安につながっているだとか、
ボタンに書いてある文字が直感的に頭に入りずらいからイラストを添えるべきだとか、
そうすると画面がごちゃつくからイラストのみにすべきだとか。
頭がおかしくなりそうだ。
長辺、短辺の問題に関して言えば、
aiにそれを学習させて自動で設定されるようにしようという画期的な提案が挙がり、会議では拍手喝采だった。
外部の技術者にそのための見積もりをとったところ、コピー機を今の2倍の値段で売らないと採算が合わないとのことだ。
あまりに非現実的な価格になってしまうが、
なんと、担当者の緻密な計算によれば、
今までの4.5倍の台数を売れば今の価格のままでの販売が可能であるという。
現在は外部の技術者と担当者の間で細かい仕様をツメている段階だとのこと。
その段階に入って半年が経過している。
その原因は、外部の技術者からの質問の意味がわからずに担当者が放置していることにある。
そのことを誰もが知っているが、彼からの「aiというものは実に複雑で繊細である」という旨の報告に対し、会議では「そうかそうか頑張りたまえ」と皆相槌を打つばかり。
腹の中では皆私と同様、この件を前に進めたくないようだ。
コピー機のスピードや画質はもはや一般事務上の必要充分の範疇を超えており、改良の余地などない
と言うのが私の見解だが、そこに甘んじることはゆるされない。
「両面コピーの方法がわからない」という問いが存在する以上、そこにイノベーションの余地があるのだろう。
我々はその問いに対し「両面コピーと書いてあるボタンを押す」という答え以上の回答を用意する必要があるのだ。
しばらく時が経ち、タッチパネル上に先鋭的なマークがずらりと並んだ機械ができた。
重なった二つの四角の両方に3本線が引いてあるマークを押すと両面コピーができるのだそう。
画面がごちゃつくので文字は一切排除した。
長辺綴じは縦長の四角形、短辺綴じは横長の四角形を押せばいいだけであるからして、
従来の「長辺綴じ」という4文字の表現に対して記号1つだけ、
つまり四分の一の速度の情報伝達を可能にしたのだ。なのでaiの導入は見送り。
より直感的な操作を可能にしたこの機械を購入してくれた企業には、
なんと大変親切なことに、どのマークを押せば何ができるかが日本語で書かれた表が無料で配布されるのである。
ヒエログラフで書かれた石板とロゼッタストーンをセットにしたわけだ。
お値段はたったの、いままでの2倍である。
細かい仕様調整が行われたのち、発売。
それを見届けた後、辞表を書いた。
つづく
という疑問を抱えたまま、いつもの会議に加わる。
このところの議題に挙がるのは、どうすればよりわかりやすい操作方法に改善できるかという問題。
両面コピーの方法がわかりにくいのだという。
長辺綴じ、短辺綴じのどちらを選択すればよいかが直感的に理解できないことが、ユーザーの不安につながっているだとか、
ボタンに書いてある文字が直感的に頭に入りずらいからイラストを添えるべきだとか、
そうすると画面がごちゃつくからイラストのみにすべきだとか。
頭がおかしくなりそうだ。
長辺、短辺の問題に関して言えば、
aiにそれを学習させて自動で設定されるようにしようという画期的な提案が挙がり、会議では拍手喝采だった。
外部の技術者にそのための見積もりをとったところ、コピー機を今の2倍の値段で売らないと採算が合わないとのことだ。
あまりに非現実的な価格になってしまうが、
なんと、担当者の緻密な計算によれば、
今までの4.5倍の台数を売れば今の価格のままでの販売が可能であるという。
現在は外部の技術者と担当者の間で細かい仕様をツメている段階だとのこと。
その段階に入って半年が経過している。
その原因は、外部の技術者からの質問の意味がわからずに担当者が放置していることにある。
そのことを誰もが知っているが、彼からの「aiというものは実に複雑で繊細である」という旨の報告に対し、会議では「そうかそうか頑張りたまえ」と皆相槌を打つばかり。
腹の中では皆私と同様、この件を前に進めたくないようだ。
コピー機のスピードや画質はもはや一般事務上の必要充分の範疇を超えており、改良の余地などない
と言うのが私の見解だが、そこに甘んじることはゆるされない。
「両面コピーの方法がわからない」という問いが存在する以上、そこにイノベーションの余地があるのだろう。
我々はその問いに対し「両面コピーと書いてあるボタンを押す」という答え以上の回答を用意する必要があるのだ。
しばらく時が経ち、タッチパネル上に先鋭的なマークがずらりと並んだ機械ができた。
重なった二つの四角の両方に3本線が引いてあるマークを押すと両面コピーができるのだそう。
画面がごちゃつくので文字は一切排除した。
長辺綴じは縦長の四角形、短辺綴じは横長の四角形を押せばいいだけであるからして、
従来の「長辺綴じ」という4文字の表現に対して記号1つだけ、
つまり四分の一の速度の情報伝達を可能にしたのだ。なのでaiの導入は見送り。
より直感的な操作を可能にしたこの機械を購入してくれた企業には、
なんと大変親切なことに、どのマークを押せば何ができるかが日本語で書かれた表が無料で配布されるのである。
ヒエログラフで書かれた石板とロゼッタストーンをセットにしたわけだ。
お値段はたったの、いままでの2倍である。
細かい仕様調整が行われたのち、発売。
それを見届けた後、辞表を書いた。
つづく
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