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序章
黒澤の疑問
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彼はなぜ両面コピーができないのだろう。
原本を手書きで写したりせずにこの機械の前に立っているということは、彼はこれがコピーをとるための機械だということは理解しているようだ。
原本は正しい位置にセットしてある。
他の人がこの機械を使っているのを見たことがあるのだろう。
つまり学習能力や観察力が欠如しているとも思えない。
しかし次の瞬間、彼は私に向かって不可解な質問をしてくる。
「両面コピーってどうやるの?」
答えはもちろん「両面コピーと書いてあるボタンを押す」ということなのだが、
彼はそのボタンを見つけることができないのだろうか?
いや、数多の選択肢の中からそのボタンを探し出すというような工程は存在しない。
なぜならこの機械はコピー機であるため、コピーをとるための限られたごくわずかなボタンしか存在しないからだ。
見慣れぬ記号や複雑怪奇な階層が織りなす不親切なWEBサイトから必要な情報にアクセスしたいなどということであれば、なんとなくどこがわかりにくいかの見当はつく。
彼にとって複雑怪奇であろうWEBさいとに慣れ親しんでいる側の人間として、
「まず、右上の三本線のアイコンを押すとメニューが開きましてー」などと、
目的にたどり着くための手順を伝えたり、ある程度構造を理解するためのルールやコツのようなものまで伝えることもできるかもしれない。
しかし、信じられないことに本件の目的は両面コピーであり、目の前の機械にはデカデカと両面コピーというボタンが付いているのである。
このボタンが見えていないということは非常に考えにくい。
強いて言えば「コピー」とだけ書いてあるボタンよりは小さいが、これは比較的そうだという話で、目に入らないということはないし、目的が両面コピーである彼の目にはより飛び込みやすいはずだ。
では、見えているがそのボタンに書かれていることの意味が理解できないということだろうか?
否、そもそも彼が「両面コピーってどうやるの?」と聞いてきたことがコトの発端なので、「両面コピー」の意味を知らないはずはない。
なぜだ?
短辺綴じ、長辺綴じのどちらが正しいかということで悩んでいるのだろうか。
いや、そんなことはそもそも気にもしていないと考える方が自然だ。
謎は深まるばかりだが、私は彼にこう答えた。
「この両面コピーと書いてあるボタンを押してください。」
つづく
原本を手書きで写したりせずにこの機械の前に立っているということは、彼はこれがコピーをとるための機械だということは理解しているようだ。
原本は正しい位置にセットしてある。
他の人がこの機械を使っているのを見たことがあるのだろう。
つまり学習能力や観察力が欠如しているとも思えない。
しかし次の瞬間、彼は私に向かって不可解な質問をしてくる。
「両面コピーってどうやるの?」
答えはもちろん「両面コピーと書いてあるボタンを押す」ということなのだが、
彼はそのボタンを見つけることができないのだろうか?
いや、数多の選択肢の中からそのボタンを探し出すというような工程は存在しない。
なぜならこの機械はコピー機であるため、コピーをとるための限られたごくわずかなボタンしか存在しないからだ。
見慣れぬ記号や複雑怪奇な階層が織りなす不親切なWEBサイトから必要な情報にアクセスしたいなどということであれば、なんとなくどこがわかりにくいかの見当はつく。
彼にとって複雑怪奇であろうWEBさいとに慣れ親しんでいる側の人間として、
「まず、右上の三本線のアイコンを押すとメニューが開きましてー」などと、
目的にたどり着くための手順を伝えたり、ある程度構造を理解するためのルールやコツのようなものまで伝えることもできるかもしれない。
しかし、信じられないことに本件の目的は両面コピーであり、目の前の機械にはデカデカと両面コピーというボタンが付いているのである。
このボタンが見えていないということは非常に考えにくい。
強いて言えば「コピー」とだけ書いてあるボタンよりは小さいが、これは比較的そうだという話で、目に入らないということはないし、目的が両面コピーである彼の目にはより飛び込みやすいはずだ。
では、見えているがそのボタンに書かれていることの意味が理解できないということだろうか?
否、そもそも彼が「両面コピーってどうやるの?」と聞いてきたことがコトの発端なので、「両面コピー」の意味を知らないはずはない。
なぜだ?
短辺綴じ、長辺綴じのどちらが正しいかということで悩んでいるのだろうか。
いや、そんなことはそもそも気にもしていないと考える方が自然だ。
謎は深まるばかりだが、私は彼にこう答えた。
「この両面コピーと書いてあるボタンを押してください。」
つづく
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