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第1章 海辺の喫茶店【シナプる】

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「みたらしのみたらしとは何か~、それがずっと喉元に~、魚の骨のアクセサリーとして引っかかっていた~、魚は鯵で~、名前を”鰯”と付けた~、”鰯”は抗議したが~、茉莉は抗議はファックスのみで~、受け付けていたため~、”鯵の鰯”は抗議の仕様がなかった~」

(・・・何を歌っている・・・・意味がわからない・・・)

 テンテンテンと鞠をつく音に合わせて“みたらし売りの茉莉“が小気味よく歌い上げている。

(何なのだ・・・どんな状況だこれ・・・)

 “旅人“が脳を混乱させられながら“トラ男“の方を見やる。漫画雑誌を読みながら少しだけ首を動かしている。

(強者!!強者だこいつ!!ノってやがる!こんなわけのわからない状況を楽しんでやがる!!・・・いや待て、常連かもしれん。慣れてるならそれぐらいの対応になるのかもしれない・・・わからない・・・)

 “旅人“が混乱に拍車をかけながら“マスター“の方を向く。“マスター“は咥えタバコで無表情で皿を洗っている。

「茉莉のアクセサリーを~、外すのは~~、あな~た~~~」

 徐々に鞠をつくのを遅くしながら、“みたらし売りの茉莉“は歌を終えた。そして歌い終えるや否やジュラルミンケースの中からパックに入っているみたらし団子を取り出してそれを食べ始めた。いや、ねぶり始めた。

『ちゅっぱちゅっぱちゅっぱちゅっぱ、ペロペロ』

 舌を器用に使ってみたらし団子をねぶっている。下から上へベロンとねぶったり、舌先で上の方をチロチロとねぶったり、様々な舌技を用いてみたらし団子をねぶっていく!

(何なのだ本当に・・・わからない・・・わからないが、郷に入れば郷に従うしかない・・・それがこの旅の目的である、〈広い世界を見よ〉という事であろう)

 “旅人“は郷に入る事を決心した。そして“旅人“は“みたらし売りの茉莉“がねぶり倒すその光景を、ただただ凝視した。股間をバッキバキにしながら、凝視した。

 “みたらし売りの茉莉“が、ねぶって真っ白になったねぶられ団子を天高く掲げて言った。

「1万円から!」

 と声を張り上げると同時に、大音量でオッフェンバックの「天国と地獄」が店内に鳴り響いた。

「1万円!!」

 “トラ男“が1万円札を高々と掲げながら言った。

「2万円!!」

 すると店の奥からカップルらしき若い男女の男の方がを1万円札2枚を高々と掲げながら言った。

「ねーちょっとー、私の前で買う?フツー」

 カップルらしき若い男女の女の方が不満を顔に全開に表しながら言った。

「うるせー!!こんなチャンス逃せるか馬鹿!!」

 カップルらしき若い男女の男の方がカップルらしき若い男女の女の方の頬をビンタしながら言った。

「ぎゃっ!!」

 “旅人“はいきなり起きた様々な出来事に驚きながら、財布の中身に頭を巡らせた。

(旅の資金として爺やが10万円くれたから買えないことはないけれど・・・)

「3万円!!」

 と“トラ男“。

「3万5千円!!」

 と“ビンタ男“。

「ちょっと~やめてよ~」

 と“殴られ女“。

「うるせえ!!」

『ビタン!!』

「ぎゃあっ!!」

「3万5千~3万5千~ないですか~ないですか~」

 “みたらし売りの茉莉“がねぶられ団子を掲げながら辺りを見回しながら言った。

「ううう、5万!!5万でどうだ!!!」

 “トラ男“が振り絞りながら言った。

「5万入りました!5万~ないですか~ないですか~」

「ねえユウくん、やめよ、ね?ユウくんの好きなジャケット買えなくなっちゃうよ、ね?お願い」

 “殴られ女“が“ビンタ男“の手に握られた美豚の財布を両手で覆いながら言った。

「ね?お願い、ね?あとで何でもしてあげるから、ね?」

「・・・ちっ・・・・」

(“ビンタ男“はここで脱落か・・・となればあとは“トラ男“だけだが、ここで声を上げてしまうと旅の初日から早くも資金の半分以上を失うことに・・)

 と“旅人“が逡巡していると、“トラ男”が“旅人“の方を見てフッと鼻で笑ったので“旅人“は反射的に

「10万!!」

 と叫んでいた。
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