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第七章 混沌の交易都市
7-12 孤児院への帰郷
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雨粒が石畳をしとしと叩く昼下がり。
ニグラスと一緒に街の様子を見て回った後、都市の北西部にある孤児院へと足を向ける。俺の古巣だ。
昨今の動乱に悪天候も相まって、やはり街を歩いていても営業している店は少なかった。幾らか営業していた服飾店で服を買えた現状は幸運とも言える。
「雨の街というものは不思議な空間だ。人の生活というものは感じられるのに、肝心の人の姿が見当たらない。建物はそのままにして、住む人々だけが消失してしまったかのようだ」
氷の傘を差して隣を歩く白髪ショートな美女は静かに、しかし興味深そうに呟く。
「詩的っすね。ニグラスって雨の日は出歩かなかったんだ?」
「余程のことがない限り動かずじっとしていた。昔人の街を見た時も晴れた日であったし、雨の街というものは昨日と今日だけが私の経験だ」
「ほぇー。一切出歩かないってのもまた凄いな。しがらみのない精霊ならではって感じ……いや、どこぞの古き竜も、全くねぐらから出ないとか言ってたか」
ニグラスの言葉から深淵竜エレボスの引きこもり発言を思い出し、彼の魔力から生まれたらしい彼女との意外な関連性が浮かび上がる。
そうやって竜と精霊の共通項をぼんやり考えている内に、目的地へ到着した。
大人の背丈ほどの塀に囲まれた広い敷地と、疎らに雑草の生えた土の地面。その中で佇む赤と白の煉瓦で作り上げられた、鈍角の屋根や丸みを帯びた屋根を持つ建造物。
俺だけでなく盗賊団の頭領も暮らしていたこともあるルカス孤児院は、以前より少し雑草が目立つ姿で出迎えてくれた。
「おぉ~。二か月程度だし当たり前なんだけど、あんまり変わってなくて安心する」
(ここがロウの育った場所ですか)(ボルドーの修道院よりはずっと小さいな)
「ロウが世話になっていたという建物か。外壁が褪せているが、しっかりとした造りをしている」
「この孤児院ってなんかの神様の加護があるとかなんとか聞いた気がするし、神の加護で強度が増してんのかもなー。当時神に見つからなくて良かったわ、マジで」
雑談を交わしながら氷の傘を水に変え、孤児院の戸を開ける。普段から開放されているし入り口付近には誰もいないことも多いため、ノック不要で入れるのだ。
「お邪魔しまーすっと」
中へと入れば、石造りの建物独特のひんやりとした空気に囲まれる。
天井の採光窓は雨天でほとんど用をなさないため、壁の高い位置に取り付けられた魔道具の明かりだけが広い室内を照らしている。昔と変わらないその空間は、しかしどこか陰気さが薫っていた。
「ちょっと暗い感じだなー。人気がないというか、息をひそめてるというか」
「人の気配はあるようだが……うん?」
二人して足音を鳴らし歩いていると、近付いてくる気配あり。少し待つと成人間近といった青年が現れる。
「誰だ、こんな雨降りの日に。竜への供物を捧げろとかなんとかってんなら、ここには出せるもんなんて無いぞ。前にも言ったがな」
茶目茶髪の青年はじろりとこちらをねめつけると、不機嫌さを隠さずに開口した。
ここリマージュで竜信仰の一団がどのような活動しているか──その一端を彼の言葉から垣間見ることができたが、私用でここを訪れている今の俺には関係のない話である。掘り下げて機嫌を損ねても悪いし、まずは話を進めよう。
「突然お邪魔してすみません。俺はロウと言いまして、竜信仰とは何の関係もない、昔ここに世話になった子供なんです。今日はソニア院長に挨拶出来たらなと思い足を運びました」
「んん? そうだったか、すまない。君もそちらの女の人も身なりが良いし、つまらない勘違いをした。俺はノリス。君の後輩、ということになるか?」
「そうなるんですかね? 俺の方がずっと年下ですし、なんとも不思議な気分です」
訪れた理由をきちんと話せば、青年ノリスは警戒の色を消して応じてくれた。そのまま案内してくれるというのでニグラスを連れ彼の後に続いていく。
「ロウは相当小さいときに引き取られたんだな? 俺がここへ引き取られたのは三年前だし、その時は見なかったはずだし」
「俺がここを出たのも三年前ですね。七歳の時だったんだすけど、丁度入れ違いになったのかも?」
「七歳で、か。黒髪で目立つし顔もいいし賢そうだし、やっぱり引き取られるのは外見が良い奴からなんだな」
「失敬な。これでも他の子供たちをまとめ上げるっていう実力を示したうえで、引き取りに来た人に認められたんですよ」
「七歳で……いや、引き取られた時の話だから、もっと小さい頃か。そんなんで纏めるとか、どんだけだよ」
「腕っぷしには自信がありましたからねー」
等々、孤児院ならではの会話を挟みつつ院長室に到着。内開きの木製扉は、俺がいた時よりも更に飴色が強くなっている。
「おばさーん、お客がきたぞー。開けて大丈夫かー?」
「どうぞー」「えっ、ちょっと待ってくださいよ院長!」
そんな扉をノックしたノリスに部屋の住人が応じたところで、院長室へ入場する。
視界に広がったのは執務机に書が並ぶ本棚、それに来客用のソファとテーブルが並ぶだけの質素な室内。
部屋にいたのは机で作業している老年が近づき始めた女性と、ソファから腰を浮かし茶器を片付けようとしている若い女性。いずれも修道院で着るような、ゆったりとした濃紺の服を着ている。
片方は俺も知るソニア院長だが、もう片方の修道士らしき若い女性は覚えのない顔だった。以前は院長の親戚だという高齢の女性が仕事を手伝っていたが、それも変わってしまったのかもしれない。
「なんだシェリル姉、ここにいたのか」
「むっ。今日は雨の中畑の様子を見に行くっていう仕事をしましたもんねー。ちゃんと働いたうえで休んでるんですー」
「なにいきなり怒ってんだよ。別に悪いとか言ってないだろ」
「いーや、言い方が私がここにいることを非難するような感じだったね!」
「あんたたち、来客中ってこと忘れてない? 騒ぎ立ててしまい申し訳ありません、今日はどういったご用件でしょうか?」
膨れっ面となっているシェリルなる女性を窘めた院長ソニアは、俺たちをソファへ誘いながら用件を問う。
それを見たニグラスは、前情報と違うのではないかと疑問を挟んできた。
「お前が言うには知り合いということだったが、初対面のような反応だ」
「最近顔出してなかったからなあ。お久しぶりです、ソニアおばさん。ここでお世話になって、『バルバロイ』に拾われたロウです」
「……あら! あんた、ロウじゃないか! 綺麗な女の人がいて上品な格好して、全然分かんなかったよ」
応じつつ両手をひらひらさせてアピールをすれば、記憶と容姿が繋がったと合点する院長。俺のことを間近で見ようと接近した彼女は、そのまま俺をハグアンドホールドしてきた。
「ほぶッ」
「久しぶりじゃないか! バルバロイがあんなことになったってのに全く顔見せなかったから、こっちは心配したんだよ?」
「すみません。あの時は色々バタバタしてたもので、顔出せなかったんです。『異民と森』のメリーさんから話聞きました?」
「話も聞いたしありがたい支援も頂いたさ。けど、あんたが襲撃された拠点で集めてきたって聞いた時には、私は寿命が縮む思いだったよ……。欲かいて死ぬなんて一番つまらない死に方だ。もう無茶な真似なんてするんじゃないよ、いいね?」
「うひー。ソニアおばさん、お変わりないですね」
ホールド状態を引きはがしつつ情報元を聞くと、世話を焼く言葉が追加されて戻ってきた。
孤児院の院長というだけあって、彼女は大変に子供好きだ。
様々な要因でこの孤児院へくることになった子供たちを分け隔てなく愛する彼女は、時に子供たちの尻を容赦なく引っ叩き、読み書き計算をしっかりと覚えるまで叩き込む。ここの子供たちにとって、彼女は正しく母親代わりなのだ。
これは俺にとっても同様で、二年という長くはない時間ながら、彼女からは多く愛情を受け取った。母親を殺害された当時の俺が世に絶望することなく前を向けたのも、きっと彼女の愛があったからこそだろう。
そうやってソニア院長という人物を脳内で振り返っていると、青年の言葉で思考を中断することとなった。
「ロウお前、あの『バルバロイ』にいたのか!? 凄いじゃんか!」
「盗賊団なんで褒められたもんじゃないですよ。それにもう、壊滅しちゃいましたし」
「ノリスー? バルバロイはあんなことになったんだから、あんまり詮索しちゃ駄目でしょ。……こんな可愛い子がどんな風に働いてたとか、この綺麗な女の人はどういう関係なのかとかは気になるけど」
「シェリル、あんたも余計なこと聞くんじゃないよ? とにかく、よく来てくれたね、ロウ。もうこっちに戻ってきたってことになるのかね?」
「いえ、今も旅の途中でして、ちょろっと立ち寄っただけですね。実はバルバロイの面々のお墓を建てようかと思いまして」
脱線しつつあった話を強引に戻した院長の問いに対し、ここを訪れた目的を話す。
それなりに広い敷地を持つこのルカス孤児院には、畑や子供が運動できるような裏庭が存在する。そこの一部に墓を建てさせてもらおうという寸法だ。
墓を建てる以上裏庭が多少手狭となってしまうが、そこは元出資者の難題ということで無理を言わせてもらおう。
盗賊団バルバロイにはここの出身者が幾人も居たし、時には子供と遊びにくることもあった。
団長のルーカスも元はここの孤児院出身だ。きっと彼も、ここに墓があった方が嬉しかろう。
俺の言葉を聞いて少しの間瞑目していたソニアは、しんみりとした表情で頷き賛成の意を示してくれた。
「お墓か。そうだね、きっとあの子らも喜ぶだろう。随分と世話になったし、私が立派なものを建てようか?」
「いえ、俺が建てます。実は精霊魔法を使えるようになりまして、土を操るのは大得意になっちゃったんですよね。なので費用なんかも一切なしです」
「精霊魔法! そりゃあ凄い。もしかして、今日建ててしまう気なのかね?」
「はい。裏庭のどの辺りを使っていいかを教えて頂ければ、すぐにとりかかろうと思ってます」
急な話で驚かれたものの、彼女は快く裏庭の一区画を譲ってくれた。これもバルバロイの行ってきた支援の積み重ねがあったからこそだろう。
案内してくれるというノリスとシェリルの後ろにつき、俺たちは敷地内を進んだのだった。
ニグラスと一緒に街の様子を見て回った後、都市の北西部にある孤児院へと足を向ける。俺の古巣だ。
昨今の動乱に悪天候も相まって、やはり街を歩いていても営業している店は少なかった。幾らか営業していた服飾店で服を買えた現状は幸運とも言える。
「雨の街というものは不思議な空間だ。人の生活というものは感じられるのに、肝心の人の姿が見当たらない。建物はそのままにして、住む人々だけが消失してしまったかのようだ」
氷の傘を差して隣を歩く白髪ショートな美女は静かに、しかし興味深そうに呟く。
「詩的っすね。ニグラスって雨の日は出歩かなかったんだ?」
「余程のことがない限り動かずじっとしていた。昔人の街を見た時も晴れた日であったし、雨の街というものは昨日と今日だけが私の経験だ」
「ほぇー。一切出歩かないってのもまた凄いな。しがらみのない精霊ならではって感じ……いや、どこぞの古き竜も、全くねぐらから出ないとか言ってたか」
ニグラスの言葉から深淵竜エレボスの引きこもり発言を思い出し、彼の魔力から生まれたらしい彼女との意外な関連性が浮かび上がる。
そうやって竜と精霊の共通項をぼんやり考えている内に、目的地へ到着した。
大人の背丈ほどの塀に囲まれた広い敷地と、疎らに雑草の生えた土の地面。その中で佇む赤と白の煉瓦で作り上げられた、鈍角の屋根や丸みを帯びた屋根を持つ建造物。
俺だけでなく盗賊団の頭領も暮らしていたこともあるルカス孤児院は、以前より少し雑草が目立つ姿で出迎えてくれた。
「おぉ~。二か月程度だし当たり前なんだけど、あんまり変わってなくて安心する」
(ここがロウの育った場所ですか)(ボルドーの修道院よりはずっと小さいな)
「ロウが世話になっていたという建物か。外壁が褪せているが、しっかりとした造りをしている」
「この孤児院ってなんかの神様の加護があるとかなんとか聞いた気がするし、神の加護で強度が増してんのかもなー。当時神に見つからなくて良かったわ、マジで」
雑談を交わしながら氷の傘を水に変え、孤児院の戸を開ける。普段から開放されているし入り口付近には誰もいないことも多いため、ノック不要で入れるのだ。
「お邪魔しまーすっと」
中へと入れば、石造りの建物独特のひんやりとした空気に囲まれる。
天井の採光窓は雨天でほとんど用をなさないため、壁の高い位置に取り付けられた魔道具の明かりだけが広い室内を照らしている。昔と変わらないその空間は、しかしどこか陰気さが薫っていた。
「ちょっと暗い感じだなー。人気がないというか、息をひそめてるというか」
「人の気配はあるようだが……うん?」
二人して足音を鳴らし歩いていると、近付いてくる気配あり。少し待つと成人間近といった青年が現れる。
「誰だ、こんな雨降りの日に。竜への供物を捧げろとかなんとかってんなら、ここには出せるもんなんて無いぞ。前にも言ったがな」
茶目茶髪の青年はじろりとこちらをねめつけると、不機嫌さを隠さずに開口した。
ここリマージュで竜信仰の一団がどのような活動しているか──その一端を彼の言葉から垣間見ることができたが、私用でここを訪れている今の俺には関係のない話である。掘り下げて機嫌を損ねても悪いし、まずは話を進めよう。
「突然お邪魔してすみません。俺はロウと言いまして、竜信仰とは何の関係もない、昔ここに世話になった子供なんです。今日はソニア院長に挨拶出来たらなと思い足を運びました」
「んん? そうだったか、すまない。君もそちらの女の人も身なりが良いし、つまらない勘違いをした。俺はノリス。君の後輩、ということになるか?」
「そうなるんですかね? 俺の方がずっと年下ですし、なんとも不思議な気分です」
訪れた理由をきちんと話せば、青年ノリスは警戒の色を消して応じてくれた。そのまま案内してくれるというのでニグラスを連れ彼の後に続いていく。
「ロウは相当小さいときに引き取られたんだな? 俺がここへ引き取られたのは三年前だし、その時は見なかったはずだし」
「俺がここを出たのも三年前ですね。七歳の時だったんだすけど、丁度入れ違いになったのかも?」
「七歳で、か。黒髪で目立つし顔もいいし賢そうだし、やっぱり引き取られるのは外見が良い奴からなんだな」
「失敬な。これでも他の子供たちをまとめ上げるっていう実力を示したうえで、引き取りに来た人に認められたんですよ」
「七歳で……いや、引き取られた時の話だから、もっと小さい頃か。そんなんで纏めるとか、どんだけだよ」
「腕っぷしには自信がありましたからねー」
等々、孤児院ならではの会話を挟みつつ院長室に到着。内開きの木製扉は、俺がいた時よりも更に飴色が強くなっている。
「おばさーん、お客がきたぞー。開けて大丈夫かー?」
「どうぞー」「えっ、ちょっと待ってくださいよ院長!」
そんな扉をノックしたノリスに部屋の住人が応じたところで、院長室へ入場する。
視界に広がったのは執務机に書が並ぶ本棚、それに来客用のソファとテーブルが並ぶだけの質素な室内。
部屋にいたのは机で作業している老年が近づき始めた女性と、ソファから腰を浮かし茶器を片付けようとしている若い女性。いずれも修道院で着るような、ゆったりとした濃紺の服を着ている。
片方は俺も知るソニア院長だが、もう片方の修道士らしき若い女性は覚えのない顔だった。以前は院長の親戚だという高齢の女性が仕事を手伝っていたが、それも変わってしまったのかもしれない。
「なんだシェリル姉、ここにいたのか」
「むっ。今日は雨の中畑の様子を見に行くっていう仕事をしましたもんねー。ちゃんと働いたうえで休んでるんですー」
「なにいきなり怒ってんだよ。別に悪いとか言ってないだろ」
「いーや、言い方が私がここにいることを非難するような感じだったね!」
「あんたたち、来客中ってこと忘れてない? 騒ぎ立ててしまい申し訳ありません、今日はどういったご用件でしょうか?」
膨れっ面となっているシェリルなる女性を窘めた院長ソニアは、俺たちをソファへ誘いながら用件を問う。
それを見たニグラスは、前情報と違うのではないかと疑問を挟んできた。
「お前が言うには知り合いということだったが、初対面のような反応だ」
「最近顔出してなかったからなあ。お久しぶりです、ソニアおばさん。ここでお世話になって、『バルバロイ』に拾われたロウです」
「……あら! あんた、ロウじゃないか! 綺麗な女の人がいて上品な格好して、全然分かんなかったよ」
応じつつ両手をひらひらさせてアピールをすれば、記憶と容姿が繋がったと合点する院長。俺のことを間近で見ようと接近した彼女は、そのまま俺をハグアンドホールドしてきた。
「ほぶッ」
「久しぶりじゃないか! バルバロイがあんなことになったってのに全く顔見せなかったから、こっちは心配したんだよ?」
「すみません。あの時は色々バタバタしてたもので、顔出せなかったんです。『異民と森』のメリーさんから話聞きました?」
「話も聞いたしありがたい支援も頂いたさ。けど、あんたが襲撃された拠点で集めてきたって聞いた時には、私は寿命が縮む思いだったよ……。欲かいて死ぬなんて一番つまらない死に方だ。もう無茶な真似なんてするんじゃないよ、いいね?」
「うひー。ソニアおばさん、お変わりないですね」
ホールド状態を引きはがしつつ情報元を聞くと、世話を焼く言葉が追加されて戻ってきた。
孤児院の院長というだけあって、彼女は大変に子供好きだ。
様々な要因でこの孤児院へくることになった子供たちを分け隔てなく愛する彼女は、時に子供たちの尻を容赦なく引っ叩き、読み書き計算をしっかりと覚えるまで叩き込む。ここの子供たちにとって、彼女は正しく母親代わりなのだ。
これは俺にとっても同様で、二年という長くはない時間ながら、彼女からは多く愛情を受け取った。母親を殺害された当時の俺が世に絶望することなく前を向けたのも、きっと彼女の愛があったからこそだろう。
そうやってソニア院長という人物を脳内で振り返っていると、青年の言葉で思考を中断することとなった。
「ロウお前、あの『バルバロイ』にいたのか!? 凄いじゃんか!」
「盗賊団なんで褒められたもんじゃないですよ。それにもう、壊滅しちゃいましたし」
「ノリスー? バルバロイはあんなことになったんだから、あんまり詮索しちゃ駄目でしょ。……こんな可愛い子がどんな風に働いてたとか、この綺麗な女の人はどういう関係なのかとかは気になるけど」
「シェリル、あんたも余計なこと聞くんじゃないよ? とにかく、よく来てくれたね、ロウ。もうこっちに戻ってきたってことになるのかね?」
「いえ、今も旅の途中でして、ちょろっと立ち寄っただけですね。実はバルバロイの面々のお墓を建てようかと思いまして」
脱線しつつあった話を強引に戻した院長の問いに対し、ここを訪れた目的を話す。
それなりに広い敷地を持つこのルカス孤児院には、畑や子供が運動できるような裏庭が存在する。そこの一部に墓を建てさせてもらおうという寸法だ。
墓を建てる以上裏庭が多少手狭となってしまうが、そこは元出資者の難題ということで無理を言わせてもらおう。
盗賊団バルバロイにはここの出身者が幾人も居たし、時には子供と遊びにくることもあった。
団長のルーカスも元はここの孤児院出身だ。きっと彼も、ここに墓があった方が嬉しかろう。
俺の言葉を聞いて少しの間瞑目していたソニアは、しんみりとした表情で頷き賛成の意を示してくれた。
「お墓か。そうだね、きっとあの子らも喜ぶだろう。随分と世話になったし、私が立派なものを建てようか?」
「いえ、俺が建てます。実は精霊魔法を使えるようになりまして、土を操るのは大得意になっちゃったんですよね。なので費用なんかも一切なしです」
「精霊魔法! そりゃあ凄い。もしかして、今日建ててしまう気なのかね?」
「はい。裏庭のどの辺りを使っていいかを教えて頂ければ、すぐにとりかかろうと思ってます」
急な話で驚かれたものの、彼女は快く裏庭の一区画を譲ってくれた。これもバルバロイの行ってきた支援の積み重ねがあったからこそだろう。
案内してくれるというノリスとシェリルの後ろにつき、俺たちは敷地内を進んだのだった。
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