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第二章 工業都市ボルドー

2-25 神の眷属

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「ふわぁぁ~。とっても素敵なお風呂です」
「ふふっ。そう言ってもらえたら嬉しいわ。私が無理を言って造ってもらったんだもの」

 ロウが冒険者組合へ向かった後。
 戦闘訓練での疲労と汗を流すため、ヤームルとアイラの二人はムスターファ家の誇る大浴場へと足を運んでいた。

 魔道具の照明器具の柔らかな光で照らされた空間は、居住区にある一般的な家が丸ごと入るほどの大空間である。

 滑りにくいよう加工がなされた、花崗岩かこうがんのタイルが全面をおおう床。同じく花崗岩ながら、研磨加工され美しい光沢を放つ壁。半個室のように仕切りのある鏡や給湯魔道具が備え付けられた洗い場に、透明な湯でなみなみと満たされたつやのある黒のはんレイ岩の浴槽よくそう

 それは風呂好きのロウが見れば唸り声をあげること請け合いの、超高級浴場であった。

「ふぇ~。頼んでもらって、造ってくれるっていうのもまた、凄いお話ですねー」

「私が石材を儀式魔術で用意するから、それを加工して浴室を造れないかって提案してね。ふふ、あの時のお父様とお母様の顔は忘れられないわ」
「儀式魔術で、用意……凄すぎます」
「魔術を沢山覚えようって思った切っ掛けも、身体を存分に伸ばせる温かい湯船が欲しいって考えたからだったからねー。うんうん、あの時決心してよかった」

 上機嫌に語るヤームルは洗い場で身体や髪を丁寧に洗う。アイラも仕切りでへだてられた別の個室で身体を洗っているが、初めて見る形状の給湯魔道具や液体石鹸せっけんに戸惑っている様子だ。

 そんなアイラの気配を感じ取ったヤームルの心の内に、悪戯心いたずらごころ鎌首かまくびをもたげるようにしてふつふつと湧いてくる。

「ふっふっふ……ねえアイラ、お困りのようじゃないかな~?」
「えっ!? そ、その、ちょっと使い方が慣れてなくて、それだけですから。ヤームルさん、そんな手をワキワキさせて近寄ってこなくても……」
「まあまあ、良いじゃないの。ほらほら! お姉さんが背中と言わず髪と言わず、ぜーんぶ洗ってあげるから!」

「わぁ~っ!?」

 ごしごし、わしゃわしゃ、ぺたぺた、もみもみ……──栗色の髪の美少女が薄桜色の髪の幼い少女を揉みくちゃにすること、十分少々。

「ふぐぅ~。もてあそばれました……」

「うふふふ。ごめんごめん、アイラが可愛いもんだからつい、ね。……あんまりにもぷにぷにもちもちだったから、予想外に盛り上がっちゃった」

 さめざめと泣くアイラをなだめるヤームル。アイラの肌が非常にきめ細かでこうしがたい魅力を放っていたため、憑りつかれたかのように夢中になってしまったのだ。

 彼女は栗色の長髪をタオルで纏めると、唸り声をあげているアイラを押して湯船に導き、身体を温め疲れを癒すよううながした。はしゃぎ過ぎて疲れてしまっては元も子もない。ヤームルもその点は配慮している。

「う゛~どうせ背が低くて子供っぽい身体ですよう。近所の十歳くらいの子たちの中でも、あたしは特に背が低いですもん」

 未だヤームルの言葉を引きずっているのか、アイラは首元まで湯につかりほほを膨らませる。しかし、ヤームルは放たれた言葉が衝撃的すぎて彼女の反応を気にするどころではなかった。

「ええっ!? アイラ、私と一つしか違わなかったの!?」

「あれ? ヤームルさんって、十一歳だったんですか? いいなぁ~。格好良くて、足が長くてスラっとしてて……うぅ」
「いやいや、アイラもまだ成長途中だし他の子より少し遅いだけよ。っていうか、肌白いし物凄く綺麗だし、私より胸あるし……ぐっ」

 互いの年齢を知り、互いに異なる劣等感を持つ故に、互いの精神に傷を負う二人。隣の芝は青かった。

「ん? じゃあアイラ、お兄さんって言ってるけど、ロウさんと同い年なんじゃないの?」
「えぇっ!? ロウおにーさんって、十歳だったんですかあ!?」

 ビックリ仰天と湯船から立ち上がるアイラ。

 低い身長の割には実りある胸部がふるんと揺れる。それを見たキョウブ・ヒラタイ族であるヤームルの精神もぐらりと揺らぐ。

「ぐはっ……そうね。大人びた雰囲気だし物凄く強いし、年上に思っちゃうのも無理はないけど、本人いわく十歳らしいわ」

「ほぇ~。でも、あたしの中では、ロウおにーさんはおにーさんって固まっちゃってるので、このままで行こうと思います。えへへ」
「そう? ふふっ。ロウさんはこの町に来たばかりだったみたいだけど、アイラは前から知り合いだったの?」
「それがですね~実は昨日出会ったばかりなんですよ! あたしとお母さんは商業区で露店を出しているんですけど──」

 共通の知り合いということもあり、ロウの話題で盛り上がる少女たち。

 彼との出会いや彼の見せた奇想天外なエピソードなどを語り合い、湯あたりを心配したフュンが大浴場に現れるまで、二人はあの風変わりな褐色少年の話に花を咲かせたのだった。

◇◆◇◆

「──ぶぇっくしょいッ!」

(汗で身体が冷えましたか?)
(いや……唐突にきたから、多分どこかで噂をされたんだろう)
(またか。特別な技能なのか? それ)

(人類一般に備わっている能力だよ。呪いみたいなもんかもしれないけど)

 時刻は昼下がり。ロウは曲刀の疑問に対し適当に答えながら、ボルドー大図書館で入館手続きを行っていた。

 というのも、昼食の誘いを辞退して冒険者組合へ足を運んだものの、ベルナールが不在で用件を達せられなかったのだ。

 三時間以上も訪ねるのが早かったため会えずに終わったが、相手が組合の支部長という組織の長である以上当然の結果とも言える。

 そんなわけで、空いた時間を潰すのに良い場所はないかと考え抜いたところ、ロウはまだ見ぬ大図書館へ行ってみようと思いついたのだ。

 様々な事柄に忙殺ぼうさつされて本人も忘れていたが、父親の手がかりを探す・調べることも彼にとっての目標の一つ。赤系統の魔力の謎を調べるにも、図書館はおあつらえである。

(むぅ。また武装解除ですか。やはり武器の身で人の世を渡るのは不自由ですね)
(ああ、暇だ。ギルタブの言う通りさっさと人化の秘術を覚えないと、退屈で死に至りそうだ)

 館内を歩く少年にそんな念話が届くが、未だ思念の発信ができない彼には返答することも出来ない。

(何だろう。会話を聞くだけっていうのも、これはこれでイラっとする。人化なんてそうそう出来るものじゃないだろうし、俺もさっさと念話を習得したいところだ。というか、本読んでる最中に念話されたら滅茶苦茶気が散りそう……)

 曲刀たちの念話に悩まされる少年はロビーホールを抜けて廊下へ進み、円形閲覧えつらんホールへ辿り着いた。

「おほぉ~」

 彼が足を踏み入れた閲覧ホールは、野球ドーム並みの広さを誇る巨大な吹き抜けの空間。矮小わいしょうな悩みなど消し飛ぶほどの光景である。

 周りには中心に向かうような形で卓上照明魔道具付きの読書机が配置され、円形空間の中心は受付カウンターとなっている。カウンター内では司書や職員たちが事務作業や利用者と話をしている姿が見受けられた。

 外周へと目を向けると書架や階段、梯子がそこかしこに存在し、読書机の整然とした並びと比べ妙に雑然と配されている。利用者が多いからなのか、それとも図書館の方針なのか。

 そうやってロウが閲覧ホールに圧倒されていると、司書の一人が気付き少年の近くへとやってきた。

「こんにちは。ご利用は初めてですか?」

「お察しの通りです。ここは素晴らしい図書館ですね……思わず圧倒されてしまいました」
「初めて入館された方は必ずと言っていいほど、この閲覧ホールに驚かれますよ。もっとも、本を探しに書架へ向かった時は、さらに驚かれますが……フフ」

 そう言って、金の長髪を後ろで束ねた長身の男性職員は柔らかな笑みを浮かべる。モノクルの奥の碧眼へきがんには好奇の光が宿り、この褐色少年が一人で来たことに対し興味を持っているようだった。

「本を借りるとき、何か特別なことが必要なんですか?」
「借りるときに必要なことは無いけれど、書架の案内人が少し特殊でね。君もきっと驚くことだろう」

 ロウが質問するも多くを語らず去っていく男性。少年は彼の態度に首を捻りながらも本を借りるべく、まずはインフォメーションを兼ねている中央カウンターへと向かう。

 受付カウンターはを描いた扇形おうぎがたで、カウンター内部には返却された本を一時的に保管する棚や事務室などが見える。そのカウンターで最も暇そうにしている眼鏡をかけた少年職員へと、ロウは話しかけることにした。

「こんにちは。探したい本があるんですけど、ここで調べることは出来ますか?」
「へ? は、はい。大丈夫ですよ。どのような本をお探しですか?」
「魔力──オーラについての研究や調査結果などが書かれている本、資料です」

 先ほどの男性職員と同じ金髪碧眼の少年は不意を突かれて動揺したものの、素早く職務を全うせんと態度を改めた。

「オーラについて書かれた本や資料ですね。少々お待ちいただけますか? ……ふんふん、ああ、あそこにあるんだね」

(ん? 銀色の魔力の塊があの子の近くに……? ああ、精霊か? 確かアイラやフュンさんも時折あの子みたいに魔力反応があったか。でも、二人と違って色が青じゃないな)

 褐色少年が金髪少年の動向を注視すること、しばし。

「……お待たせしました。お探しの本は、三階北側の人族の種族間研究の書架、四階の東側の魔術適性研究の書架にあるようです。近くに行った際、グラウクスが探してくれるはずです」

「グラウクス、ですか?」
「はい。あ、もしかして初めての方でしたか? 口頭で説明するより実際に体験した方が早いと思うので、とりあえず行ってみてください。こちらが場所を記したメモになります」

 ロウが気になる単語を聞き返しても、金のマッシュルームを彷彿ほうふつとさせる少年はニコニコとするばかり。話す気は無いようだった。

 頭に疑問符を浮かべつつもメモの木札を受け取り、褐色少年は三階北側の書架へと向かう。

「着いた。けど、特に変わったことは無い……下の階と変わらず、蔵書量はものすっごいけども」

 三階は読書机こそないものの、長椅子がそこら中にある。本格的に読むには向かないが流し読み程度なら十分可能となっている。

 ロウはそんな構造を興味深げに観察しながらお目当ての本を探していたが、不意に魔力感知に反応があった。

(──魔力の集束。さっきの少年が話していた存在と同じ、銀色……。ここで魔法や精霊魔法をぶちかます奴がいるとは思えないし、野良の精霊なのか? 例のグラウクスとかいう奴だろうか)

 虚空へ集う魔力に注目すること五秒ほど。ロウの眼前に浮遊する奇妙な青色の生物(?)が現れた。

 細長い胴体に尻尾。
 てのひらともヒレともとれる翼の様な腕部、脚部。
 そして、宝石のように輝く瑠璃色るりいろの一つ目が埋まる頭部。

 青と白と黒とで構成された奇天烈なそれは、図書館という場でなければ魔物と断じていたであろう外見だった。

[これはこれは。随分と珍妙な客人だね。このような書物しかない埃っぽい場所に、一体全体なんの用かな?]

(おぉ。喋ったよ。いや、念話か。……初対面で珍妙とはひどい奴だ)

 宙をただよう謎の生命体から念話で話しかけられ動揺するロウ。

 年齢を重ねていることをうかがわせる声からは、深い知性がにじみ出る。恐らくは職員たちが言っていた“書架で驚く”というのもこのことなのだろうと、少年はあたりをつける。

「ええと、初めまして? オーラに関して研究や調査がなされた本を探しています」
[ほう、ほう。風変わりな客人よ、書をお求めかな? 随分とをしているね]

「──ッ!」

[おおう、おおう。失礼、失礼。みだりに踏み込むことじゃあなかったね。言いふらす様なことはしないから、その魔の気配を抑えてくれると、己の心も安らぐのだが]
「……こちらこそ、すみません。今までにない経験だったので驚いてしまいました」

 奇妙な存在から零れ出た「人のような」という単語で、ロウは身体強化を全開。続く相手の言葉を受けて、威圧を解除して小さく息を吐く。

 しかし、自身の正体へと言及された動揺は未だに収まらない。

(魔の気配、か。まさか速攻で見破られるとは。俺と同じ魔力の質を感じ取れるのか?)

[己の様に神の眷属けんぞくなればこそ、魔の気配に鋭敏な知覚が利くのだよ。もっとも、君の様に巧みに秘されると、中々むつかしいものだがね。ああそれと、周囲に防音の魔法を巡らせているから、漏れ伝わるということは無い故に、その点においては安心してほしいかな]

 ロウの疑問を見透かしたのか、青い神の眷属は語りながら掌のようなヒレを音楽を奏でるようにゆらゆらと動かす。

 銀に煌めく魔力の流れを伴うその動きは、実に不可思議なものである。少年はその動きに呆気にとられながらも、奇怪極まる神の眷属との会話を続ける。

「なるほど……あなたは神の眷属だったんですね」

[そうだとも、そうだとも。己の名はグラウクス。知恵を司る女神ミネルヴァの眷属なるもの。お見知りおきを、名も知らぬよ]
「……は?」

 グラウクスの唐突な魔神認定に間の抜けた声を上げてしまうロウ。

 仕方がないことだろう。彼は今の今まで、自分を魔族と人間族との混血だと思っていたのだから。

[君程赤の濃い魔力は間違えようもないさ。よもやこれも、触れるべきではなかったかな?]

「──いやいやいや……魔神? 俺がか?」

[ああ、なるほど、なるほど。君が魔力に関する書物を探しているのは、己の正体根源に迫るためかな。であるならば、きっと得られるものは無いだろうさ。人が知る、魔神に関する事柄などは、姿かたちとその強さ、恐ろしさとまわしさ。ただただそれが、あるのみだからね]

「……」

 思考停止。

 あまりにも展開が早いと、ロウはついていけず動きを止めた。

 ややあって、何とか情報を消化した少年は、辛うじて質問を絞り出す。

「赤系統の魔力が、魔神特有のものであることは、間違いないんですか?」

[そうだとも、そうだとも。世界に満ちるマナを取り込み変質した魔物や、魔神が創り出した魔族のような者たちは、皆が総じて紫の系統であるが、魔神やその眷属は赤の系統さ。そこには当然紅色くれないいろたる君も含まれている]

「……ありがとうございます。では例えば、魔神が人間族との間に子を生した場合、その子供は魔神に属するのですか?」
[力を受け継ぎ魔神に属する魔力を持つ、こともある。伝え聞くところによるとね。その場合は己ら眷属のように、神そのものよりは力が減じるものだろう。君のような色濃い魔の気配を滲ませるのは、魔神より力を継承するような、何か特別なことでも起きない限りは、到底あり得ないけれどね]

「特別なこと……」

 その言葉を受けてロウの脳裏に浮かぶのは、やはり転生時のことだ。

 あの時を境に魔力の色が薄い赤から紅色に変わっている。肉体の強度が上がったのも、上位の存在へと変質したからかもしれない。彼はそう納得した。

[それにしても、君は随分変わっているね。己が知る限りでは、魔神など皆細かいことに頓着とんちゃくしない、竜の如き気ままな性根をしていたが。君など普通の少年にしか見えないよ]
「人間族の親に人間族のように育てられましたからね。そのおかげだと思います」

 ロウはそう言いながら、中島太郎なかじまたろうとしての記憶が宿る前は、自分も血気盛んな側面もあったなと思い返す。あるいはあれも魔神に備わる気質だったのかもしれない、今になってそう思えた。

[それはそれは、なんとも興味深い話だね。是非とも生活の詳細を己に話してみないかね?]

 人に育てられたということに興味惹かれたのか、あれこれとロウへ質問を投げかけてくるグラウクス。

 十数分程質問攻めにしたところで、大きな瑠璃色の単眼を輝かせていた神の眷属は、はたと気が付いたように呟いた。

[おおっと失礼、引き留めてしまったね。良識ある魔神と言葉を交わすなど、長い時の中でも滅多とない事だから、ついつい話し込んでしまったよ]

「いえいえ、こちらも色々知れて良かったです……魔神に関して詳細が知れる書物は、この図書館にはありませんか?」
[先ほど少し触れたけれども、人の知る魔神のことなど、表面をなぞる様なものだけだからね。君の同族に聞くのが一番良いと、己は考える。神たちに伺いを立てるのも良いけれど、君が魔神と知られれば、敵対しないとも限らないからね]

「敵対ですか……そういえば、あなたの主神、女神ミネルヴァは魔神とは敵対しないのですか? 眷属のグラウクスさんはしていないみたいですけど」
[そうさね。することもあるし、しないこともある。きっと己の主神ならば、君を見て滅せよとは言わぬことだろう。それに、君が今より巧みに魔の気配をすようになれば、己の神でも魔神と見抜くは不可能となろうよ。恐らくはね]

(魔の気配を秘す……割と重要な課題だな。まさか神に連なる存在がこうも簡単に鉢合わせるものだとは。地球じゃ考えられん。スゲーな異世界)

 ロウは頭を抱えたくなる気持ちを抑えつつも、グラウクスに礼を述べる。

「何だか突然きてすみませんでした。今回は時間があまりないのでおいとましますが、また今度話を伺ってもいいですか?」
[いいとも、いいとも。君の様な存在と話すのは、生まれてこの方初めてだからね。己が知ることならば、制限はあれども、十分に話すことが出来るとも。風変わりな魔神よ、名を聞いても良いだろうか?]

「申し遅れました、グラウクスさん。ロウと言います。よろしくお願いしますね」

[己に敬称など要らないよ。神と魔神に差はあれど、いずれも己より高位の存在だからね。むしろ己が敬うべきかな? 如何すべきかな?]
「ええっと、敬われると抵抗を覚えてしまいますし、できれば近しい感じで話していただけたらと思います」

[なるほど、なるほど。そういうことなら受け入れようとも。ではロウよ、小さき友よ。次なる機会を心待ちにして、己は業務へ戻るとするよ]

 魔神であるロウを友呼ばわりした神の眷属は、宣言の後かすみの如く消えうせた。

 グラウクスの姿が無くなってみれば、少年は先ほどまでの出来事が白昼夢はくちゅうむであったようにさえ感じてしまう。

(ちょっと時間を潰すつもりが神の眷属と知り合って、自分が魔神だと知って……どっと疲れたぞ。飯を食べようかと思ったけど……駄目だ、ちょっと長椅子で休んでいこう)

 未だかつてない精神疲労を感じたロウは、人気のない長椅子で休息をとることにした。しびれを切らした曲刀たちの念話アラームで起こされたのは、休んでから二時間ほど後のことであった。
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