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    アイナ様とニャーニャにゃん。緊張した顔で話し出します。

『親方たちは、今までにも愛し子様がいた事はご存知ですわよね?』

『ああ。俺はたいして興味引かれなかったけどな』
『そうだね。私もたいして気にしなかったよ』

愛し子が現れたのはサーヤが初めてではない。同時に生まれることは無いが、過去に何人か誕生している。今までを思い出すが、あんまり気にしたことはないようだ。

『お母様と同じですね。まあ、お母様は人間不信ですから、愛し子に興味が持てなかったのも無理はないのですが⋯でも、サーヤちゃんにはメロメロですわね』
『それを言ったらジーニ様たちもすごいにゃ!サーヤちゃん、ジーニ様の胸で窒息してたにゃ』
『そうですわね。神様方はもちろん、神獣や聖獣、もちろん精霊や妖精まで、メロメロですわね』
和やかに話すアイナ様たち。

『そこだよ。愛し子様が現れても、今までは神が降臨するなんてこたぁ、なかったはずだ』
『そうだね。しかも一柱どころじゃないんだろ?』
『今までとは何かが違う。もしくは何かが起ころうとしている。違うか?』

さすがはドワーフを治める長。アイナ様が言わんとしていたことに気づいてくれた。今までとは何かが違う。そこに気づいて欲しかったのだ。

『その通りですわ。今代の愛し子、サーヤちゃんは、一度拐われ⋯⋯』
アイナ様は口にするのも辛いと、一度目をつむり、口元をきゅっと引き締めた。そして、息を吐き出し、親方たちを見つめて

『サーヤちゃんは、一度拐われ、命を落としています。ある⋯ある神によって、異世界へと連れ去られ、そこで⋯虐待を受け、後に、違う者によって殺されたそうです』
『⋯⋯』
ニャーニャは黙ったまま、親方たちを見つめている。その顔はそれが事実だと語っていた。

『な、なんだと?』ガタッ
『どういうことだい!?』ガタッ
信じられない。親方たちの顔は驚愕に満ちていた。

『一柱の神が、堕ちたと申し上げているのです。これからはジーニ様たちのお言葉をお借りして。「ヤツ」と呼ばせていただきます』
辛そうに話すアイナ様の顔を見て、これが事実なのだと理解した親方たち

『なんてこった⋯』
『なぜ、そんなことに⋯』
知らず知らずの内に立ち上がっていた親方たちは、ドサッと音を立てて座りこんだ。

『親方、「迷惑な異世界人」覚えていらっしゃいますか?』
呆然とする親方たちにたずねる。

『あ、ああ。もちろんだ。あの失礼なヤツらだな。俺の創った武器をタダでよこせとかほざいたヤツらだからな。覚えてるよ』
『ああ。訳の分からないこと並べて、武器は渡さないと言ったら、店を破壊して武器を奪ってたね』
『でも、それが何だってんだ?』
怒りを露わにする親方たち。それで引っ越して今の里に来たのだった。

『それも、ヤツの遊びだったそうですの』

『は?』
『どういう意味だい?』
困惑する親方たち

『異世界から人を連れ去り、この世界に放り込み、孤立させ崩壊する姿を楽しんでいたのだそうです。そして、ある日思いついてしまった。これが逆だったら⋯と』

『『⋯っ』』
ビクッと親方たちの肩が震える

『その最悪のタイミングで生まれてしまったのが、今代の愛し子様にゃ』
アイナ様たちの顔は冷たい仮面を被ったような顔になっている。

『な、なんてことを⋯』
『そんな、ひどいっ』
親方たちも気づいたようだ。自分たちが嫌悪していた転移者もまた被害者だったこと、そしてサーヤの身に起こったことにも⋯
親方たちの顔もどんどん青ざめていく。

『サーヤちゃんは、異世界で父親を亡くし、母によって育てられたそうですが、そこで酷い虐待を受け、障害を負ったそうです』
『今、お喋りが上手に出来ないのも、その影響らしいのにゃ。でも、ちょっとずつ上手になろうと練習してるんにゃよ』
『私たち、おしゃべりの先生だそうですよ』ふふ
『たくさん続けておしゃべり出来て、すごいからって先生になったみたいにゃ』にゃはは
少し笑って見せるアイナ様たちに

『そうか。そりゃ、責任重大だな』
『ふふっ。健気じゃないかい』
親方たちもそれに応える

『話を戻しますわね⋯そこを、サーヤちゃんが二歳くらいの時に、父方の祖母がサーヤちゃんを見つけ出し保護し、五歳くらいまでの間育ててくれたそうですの。サーヤちゃんの異世界の記憶は楽しかったおばあさんとの思い出だけになるように、こちらに呼び戻した時に主神様と女神シア様によって記憶操作を行ったそうです』
『そうしないと、サーヤちゃんの心がもたなかったそうにゃ』
再び、暗くなるアイナ様たち

『『⋯⋯』』
まだ、何か起こるのかと黙り込む親方たち

『その楽しい記憶の中に一緒にいるゲンさんは、今、あちらの世界で飼っていた動物たちと共にこちらに来ていますわ』
『ゲンさんも、動物たちも、サーヤちゃんを大切にしてくれてたにゃ』

『でも、そんな幸せそうなサーヤちゃんにヤツは我慢できなくなった。ヤツがまた動いた時、サーヤちゃんは実の母親に襲われ、庇ったおばあさんは、サーヤちゃんの目の前で亡くなったそうです』
『ゲンさんも大変な怪我を負ったそうにゃ』
そこで言葉を続けられなくなり、黙り込んでしまったアイナ様たち。

『アイナ様、それで、どうなったんだ?』
『そうだよ。愛し子様はどうなったんだい?』
親方たちが、先を促すが、声が震えている。

『⋯施設、こちらで言う孤児院のような所に入ったそうですが、一連の事件で、心を閉ざしてしまったサーヤちゃんは、そこでも仲間から暴行を受け、二年間意識を取り戻さないまま、十歳で亡くなったそうです。そこでまた、ヤツが何かしようとした所で、ようやくサーヤちゃんを見つけ出した主神様により、サーヤちゃんをこちらに連れ戻せたそうです。ただ⋯』
『サーヤちゃんを奪い返せたものの、ヤツを倒すことは出来なかったそうなのにゃ。こちらの世界まで追ってきたそうにゃ』
『その為、魂の修復が不完全なままサーヤちゃんを地上へ落とすしかなかったそうなのです』
『だからか、時々、サーヤちゃんの顔から一切の表情が消えることがあるそうにゃ』
『何かのきっかけで、一部の記憶が戻るからなのか、分からないそうですが⋯』
そこで、一度言葉を切り親方たちを見ると、親方は腕を組み、目を閉じて考え込みながら聞いている。おかみさんは涙を流しながら聞いていた。

『アイナ様⋯愛し子様の魂の修復は不完全なままだと言ってたな。体の方は大丈夫なのか?』
『そうだよ。大丈夫なのかい?』
心配そうに聞いて来た親方夫婦。そのおかげか、ちょっと優しい気持ちになれたアイナ様たち。

『ええ。大丈夫ですわ。ただ、魂に合わせて体は二歳くらいの状態に若返っています。おばあさんに出会った頃ですね』
『主神様は心も二歳位の子になるようにしたそうにゃ。今度こそ、子供らしく、元気に楽しく、幸せな人生をやり直して欲しいそうにゃ』
さっきまでより、優しい声で話すことが出来た。

『そうか。良かった』
『そうだね。今度こそ幸せにならないとね』
うんうんと頷きながら話す親方たち。

『そこで、親方にお願いがございますの』
『神様たちからのお願いにゃ。だけど、ご主人とニャーニャからもお願いにゃ』
『どうか、親方のお力をお貸しいただけないでしょうか』
『お願いにゃ』

アイナ様とニャーニャにゃんは頭を下げてお願いをした。


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