最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

文字の大きさ
上 下
31 / 38
第一章 いざ、竜狩りへ

031 本陣突入

しおりを挟む
 ワイバーンに続いて黒の大地を進んでいくと、ややあって、上空のワイバーンが声を上げ始めた。翼をはためかせて滑空しながら、地上へと降下していく。

「どうやら、着いたようだな。さて、ここからが本番だ。準備は良いか、お前たち」

 ネルビスが団員たちに号令をかけると、男たちは鬨の声を上げた。

「へ、腕が鳴るぜ」

「貴様が役に立つとは思えんがな。せいぜい、死なないように逃げ回っているがいい。くれぐれも我々の邪魔だけはしてくれるなよ」

「んだとコラ? ワイバーンの前にテメェをぶちのめしてやろうか?」

「戦う前から敵を見誤るな。貴様の目は節穴か、馬鹿者?」

「おぉん?」

 二人が顔を突き合わせてにらみ合う。

 そこへ、深緑の群れが沼地より飛び上がってきた。

 ザックスとネルビスは、彼方より押し寄せるワイバーンたちへと振り向く。

 その数、十頭。

 中央で先陣を切り群れを率いる一際大きな個体が、黄色の双眸でザックスらを捉えた。

「奴が、この群れのリーダーだ」

 ネルビスが緊張の面持ちで呟き、盾の持ち手を強く握る。

 ザックスは強敵の登場に不敵な笑みを浮かべた。

 額に十字の傷を持った一際大きな竜が近づいてくると、顎を開き、奥の歯をカチカチと鳴らす。

「お前たち、防御陣形を組め! 来るぞ!」

 ワイバーンの動きに気が付き、ネルビスが振り返って叫んだ。

「貴様は我々の後ろに下がっていろ、丸焼きにされるぞ!」

 ザックスの前で壁をつくるように、盾を持った団員たちが隙間を埋めて密集した。

 先頭のワイバーンが喉を鳴らす。すると、口から勢いよくガスを噴き出した。同時に、歯が鳴り、小さな火花が起きる。火花は吐き出されたガスに引火すると、たちまち巨大な炎となってザックスらに放射された。

 ザックスは唐突に空から降り注がれた炎の雲に目を見開き、驚きに身を固くする。が、ネルビスらがザックスを押し倒し、盾の束によって炎を弾いた。

 続けて、周りのワイバーンも奥歯をカチカチと鳴らす。喉を鳴らしワイバーン達から次々と炎が放出された。

 襲い来る火の嵐を、ネルビスらは盾の束で次々と受ける。熱風が波のように押し寄せ、盾に弾かれて割かれると、背後へ流れていった。

「何とか持ちこたえろよ、お前たち……そう、長くは続かないはずだ!」

 盾を構えながら、ザックス以外の全員が額に汗を浮かべて頷く。

「おい、コイツは一体なんなんだ? ここじゃ魔力が使えねぇんだろ?」

「だから言っただろう。奴らは、魔力を使わずに敵を葬る術に長けていると。あれは、奴らのゲップだ」

「げ、ゲップぅ?」

「腹に貯め込んだガスを一気に噴き出しながら、牙を火打石のように打ち引火させる。それほど大量には溜め込めないから、すぐに枯渇はするが……こうも断続的に放射されると相当に厄介なものだ」

 チッと舌打ちしながら、ネルビスは粛々と炎に耐える。

 断続的に盾へ打ち付けられる炎は勢いこそ変わらないものの、次第に頻度が減っていった。

 打ち付けられる炎の明かりが消える。と、今度は猛烈な風が辺りに吹き荒れた。

 一団は盾を構えたまま、吹き荒ぶ嵐の中で次々と降り立つ竜の姿を見る。

 翼をはためかせ降臨する、ザックスの三倍程度の全長をもつワイバーン達。

 気がつけば、ザックス達はワイバーンの群れに取り囲まれていた。

 ネルビスの前に降り立つ十字の傷を持つワイバーンが、鋭い眼光を放ち一団を見下ろす。

「ギュウウゥルルル」

「ふん、その傷……あの時のワイバーンか。いまや群れのボスとは、偉くなったものだな」

 ネルビスが鎌首をもたげてよだれを垂らす、傷持ちのワイバーンを睨みつけた。

「なんだ、ネルビス。お前、こいつのこと知ってんのか?」

 ザックスは立ち上がると、ガン・ソードを構えながらネルビスをちらりと見やる。

「まあな。以前、巣のワイバーンを討滅させたときに、一匹だけ取り逃がした奴がいる」

 ネルビスはふっと口元だけ笑みをつくる。目は真剣なままだ。

「こいつは、その当時のボスと戦っている最中に傷を負わせた奴だな。額に一撃を浴びせ、怯んだ隙にとどめの一撃を喰らわせてやろうとしたときに、横からボスの頭突きで邪魔された。当時のボスのお気に入りかは知らんが、運の良い奴だ。そのまま逃げおおせて、仲間を集めたか。まさか、こうして再び相見えることになろうとはな」

 ネルビスが鋼鉄剣『シグムンド』の切っ先を眼前のワイバーンへと向けた。

「今度は、逃がしはしない。覚悟しろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

処理中です...