最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

文字の大きさ
上 下
28 / 38
第一章 いざ、竜狩りへ

028 ネルビスの手腕

しおりを挟む
 一方、キャンプ場へ突っ込んだ小型飛竜は、翼を広げ深緑色の塊となってテントをなぎ倒していく。待機組は咄嗟にしゃがみ込み盾で頭を覆うと、その頭上を猛スピードでワイバーンが通り過ぎて行った。

 そのまま森へ突っ込もうとしたところで、ワイバーンは急激に突進力を失った。一団が仕掛けた対竜ネットに絡めとられたのだ。身動きが取れなくなり地面を豪快に滑るワイバーンの背を、幹ごと折られた木々が打ちつける。

「ギィィアアアアアァァア」

 悲痛な叫びを上げながらワイバーンはもがくが、対竜ネットは容赦なく強く絡みつくだけだった。

「全員、突撃! 奴の首を掻っ切れ!」

 ネルビスが号令を飛ばし、一団がワイバーンへと襲い掛かる。

 もがくワイバーンは、口を大きく開き網をかみちぎろうとするが、駄目。むしろ、歯が引っ掛かり、文字通り開いた口が塞がらなくなっていた。

「馬鹿め。お前たち竜を捕獲し動きを奪うための網だ。その程度の力で引きちぎれるやわな代物ではない」

 ネルビスがほくそ笑み、団員の後に続いてワイバーンのもとへと駆けた。

 男たちが捕獲されたワイバーンの元へ到着すると、次々に胴体へ向けて持ち前の剣を突き立てていく。網の隙間を抜けて突き刺される剣に、ワイバーンは悲鳴のような鳴き声を上げるが、雁字搦めとなった網の中では身動きひとつとれない。男たちを追い払おうと尻尾を振り回して抵抗を試みてはいるものの、男たちは頑強な盾によって難なく棘尾をいなし、対象への攻撃を緩めない。尻尾にも斬撃を浴びせられ、血をまき散らしながら弱っていくだけだった。

 八人の団員が奮闘しているうちに、ネルビスが到着した。

 ワイバーンは地面を削りながら棘尾を振るい、ネルビスの進撃を阻もうとする。

 ネルビスは盾をかざすと、尾による攻撃を正面から受け止める。盾ごと突き上げるように尾を振るわれ、ネルビスの身体は上空へと放り出された。

「旦那!」

 茶髪が叫び、ワイバーンの尻尾へと切りかかる。坊主も加わり、二人がかりでワイバーンの尾を切断した。

「グィギェェェエ」

 尾を失い、宙に舞うネルビスを打ち払う術はなくなった。

 ネルビスは、鋼鉄剣『シグムンド』を逆さ手に持ち力強く握りこむ。

 明確な殺意を湛えた眼光をワイバーンに向け、ネルビスは自由落下する。

 そのまま、がら空きとなった喉元へ切っ先を容赦なく突き立てた。

 断末魔の叫びを上げながら天を仰いだワイバーンの首は、そのまま力なく後方へ垂れると、ゆっくりと地に落ちていった。

 ネルビスがワイバーンの喉元から剣を引き抜き、血を払う。

「お前たち、よくやってくれた。助かったぞ」

 仰向けで倒れたワイバーンの胸元に立ったまま辺りをぐるりと見回し、ネルビスは周囲の仲間たちへ労いの言葉をかけた。

「さて。ザックス、こちらも片付いたぞ」

 ザックスの方へ視線を向ける。ザックスは振り向くことなく視線を空へと向けていた。

 ネルビスも遠くの黒い大地と空の境界を眺めやると、黒点がひとつ、地上から空の青に浮かんでいた。

「案の定、もう一頭のお出ましだな」

 ネルビスはワイバーンから飛び降りる。

「敵影はあの一体だけだ。ひとまず、これで一陣は終わりだろう。お前たちは、倒したワイバーンの解体を始めろ」

「りょーかいっス」

 手近にいた茶髪の男に指示を飛ばし、ネルビスはザックスの方へと向かっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...