最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

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第一章 いざ、竜狩りへ

012 ダークマターの使い道

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 指先で摘まむほど小さな塊の表面は、滑らかに白く艶めいている。

「それひとつでも、そこそこな値段なんだから。壊さないでよ?」

「へーい」

 ザックスは乳白色の石ころを木箱に放り込んだ。

「ちょっと、あんまり乱暴に扱わないでよ。ひとつ割れると、連鎖で他のも割れることがあるんだから」

「え、そうなのか?」

 ザックスは慌てて石を放り込んだ箱を覗き込む。が、特に変わった様子はなかった。

「ダークマターはもともと黒いんだけど、空気中に漂う微量な魔力を吸収して白くなるのよ。衝撃を与えて割ると、結晶構造が壊れて魔力を放出するの」

 マーブルは、装置の中へ角の載った台を押し込みながら、説明を続けた。

「白くなったダークマターは、何らかの形で強い魔力に触れても魔力を吸収するんだけど、許容量を超えると勝手に割れるわ」

 言いながら、マーブルは手袋を装着しだした。

「今からちょうど使うから、見てると良いわよ。ほら、どいて」

 マーブルがザックスの隣にやってくると、木箱から数粒の石を掴む。

 隣にあるテーブルに紙を敷いてから掴んだ石を転がし、黒い塊だけを手際よく取り分けて外した。残った乳白色の石を紙に包み、銀色の装置へと向かう。

 箱型の装置の上には、緑の液体が少量入ったケースがくっついていた。カプセルからの管のひとつが、ここにつながっていた。

 ケースの中に石を入れ、マーブルは手動ポンプで液体を汲み、そっと中身を満たした。

 次いでマーブルは、傍にある棚から金属製の板を取り出した。二枚の金属板が重なり、中央から太い突起が一枚を貫いて飛び出している。

 その板を突起が上になるようにケースの上へ重ねて蓋をするように取り付けると、マーブルは棚の引き出しから金槌を取り出した。

 コツコツと突起を叩いていくと、金属の板が液体に沈み始める。石を挟むようにして、金属板が石に密着した。

「それじゃ、始めるわよ。よく見てなさい」

 ザックスが固唾を呑んで液体を凝視する。

 マーブルが突起をひと叩きすると、接着していた石にひびが入った。同時に、緑の液体の色が、石を中心に黄色味を帯びていく。

 すると、隣の石が勝手に割れ始めた。そこからも黄色味が広がり、連鎖的に液体内の白色ダークマターが砕けていく。

 すぐに緑の液体は黄色に染め上げられた。

「おぉー、面白れぇな!」

 マーブルは金属板を取り外し、片付けながら、黄色くなった液体を見てはしゃいでいるザックスへ言葉をかける。

「この液体は、ちょうど翡翠竜の角に含まれてる成分に似たものなのよ。魔力を保持する性質があって、魔力を持つと色が変わるの。面白いでしょう?」

 片付け終わったマーブルは、棚から何もついてない金属板を取り出して来ると、黄色の液体で満たされたケースにかぶせた。

「さて、これで準備が整ったわ」

 箱型の装置を下に降ろし、翡翠竜の角が乗った台に被せると、台と装置の接着面を見回し、隙間なく重なっていることを確認する。

 マーブルが魔力プールが充填されたケースの下にあるスライドレバーをずらすと、黄色の液体は徐に銀箱へ吸い込まれていった。液体が半分くらいまで沈んだところで装置についたボタンを押すと、中で何かが回転する音が始まった。

「これは、魔力を利用した加工機械よ。魔力を動力として、中の刃が回転しているの」

 マーブルが話し、備え付けのレバーをゆっくりと下げていく。するとすぐに、加工機械がけたたましい叫び声をあげだした。

「うわっ! うるせぇっ!」

 ザックスは咄嗟に耳を塞ぐ。

「ちょっと我慢してね! 今、角を削ってるのよ!」

 しばらくして加工機械の金切り声が止むと、マーブルはレバーをゆっくりと上げて再びボタンを押した。加工機械の音はすぐに止んだが、二人の耳にはまだ金切り音の残響が木霊している。

 銀箱の横についた取手を掴んで持ち上げると、翡翠竜の角は綺麗に四角く切断されていた。

 マーブルは角を転がして切断面を下にする。角を動かしてまだ削られていない上下だった部分の位置を調整した。

「ごめんなさいね。もう一回やるから、うるさかったら耳を塞いでて」

「最初に言ってくれ!」

 再び、研究室に金切り音が炸裂した。
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