最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

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第一章 いざ、竜狩りへ

008 翡翠竜との一騎打ち

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 次の瞬間、猛烈な翠の鞭がザックスを打ち払った。

「おごっ!」

 霧の中、周囲がほとんど見えない状況。眼前に迫る竜の頭に気を取られ、左からの攻撃に対して全く無防備だった。クリティカルヒットを受け、ザックスは岸壁に叩きつけられた。

「がっ……はっ!」

 呼吸ができない。視界が暗転する。意識はすぐにも飛びそうだ。

 強烈な、絶対的な一撃をもろに受けたザックス。脳裏に、後悔の念が浮かび上がった。

 これが、竜。

 圧倒的で、絶対的で、非情。生物界の頂点に君臨する、世界の王者。何者も抗うことの許されない、怪物。暴君。その姿を、実力を、まざまざと見せつけられた。

『俺もな、もっと若い頃だが、翡翠竜とはやり合ったことがある。まぁ、なんだ。若気の至りってやつだ。角が高く売れるって聞いて、大はしゃぎで探し出したもんよ。ガン・ソードを振り回して暴れていた俺は、生まれて初めて絶望したぜ。こいつには、何にも通じやしねぇ。人間が、どれだけ力をつけたって、敵いっこねぇんだって思った』

 ザックスの体が岸壁から力なく剥がれ落ちる。落下の先には、翡翠竜の太く獰猛な尻尾があった。

 ぽすり、と。力を失った人間の軽薄な肉体を、巨大で力強い翡翠竜の尻尾が受け止めた。

『それでも、俺ぁよ。足掻いたぜ。必至で食らいついた。無理だと分かってても、生きる希望は失っちゃならねぇ。諦めたら食われる。ただそれだけのことだ』

 翡翠竜は、ザックスの体を中空へ放り投げた。そして、上空を仰ぎ大口を開く。さながら、人間がペナウト豆を放り投げ、口でキャッチする行為。竜にとって、人間は所詮食い物に過ぎなかった。

『翡翠竜はな、魔力があれば食うんだよ。それが石だろうと何だろうと。俺の持ってるガン・ソードはさぞ美味そうに見えたんだろうな。あいつ、ご馳走を見つけたみたいに喜んで俺を口に放り込みやがった。舐めてんだよ、人間を。頭が良いくせに、すぐ図に乗りやがる。本当に、馬鹿なやつだぜ』

 ビゴットの悪辣な横顔を夢に見て、ザックスは目が覚めた。逆さまの頭上には、翡翠竜の口。落下に生を預けたザックスの余命は、あといくばくか。

 その刹那に、ザックスは好機を見出した。

 ガン・ソードの魔力莢を抜き、腰のポーチから新たな魔力莢を取り出して装填。トリガー部分のグリップを握りしめる。目には、生を滾らせた強い光を宿していた。

『自分の絶対的な防御力に酔ってやがるあいつには、分かんねぇんだよ。自分の弱点が。俺は、食われて初めて気が付いた。いくら防御を固めても、防げない場所があるんだってな。それは、――』

「これが、俺の切り札だ。ガン・ソードが何で“ソード”の名を持つか教えてやるよ」

 落下した生は、そのまますっぽりと口の中に落ち込んだ。

『――口の中だ。誰も、餌が食われながら襲ってくるなんて思わねぇよ』

「くたばりやがれ! 征服する楔ヴァンキッシュ・ウェッジ!」

 握ったグリップを引き出し、捻る。急速に銃口へ放出されたエネルギーは、光の剣となって口腔内を伸びた。光は口蓋を貫き、翡翠竜の脳天をぶち抜き、分厚い胴体を穿ち、大地へと突き刺さった。

「うおおおおおぉぉぉぉぉ!」

 ザックスは雄叫びをあげ、力一杯にガン・ソードを振り上げる。

「切り裂け!  蹂躙する刃ヴァンキッシュ・ブレード!」

 翡翠竜を貫く光の刃は肉を焼き、骨をも裂きながら大地を削る。光が尾を引きながら弧を描くようにして上空へと伸び上がった。

 真っ二つに切り裂かれた翡翠竜の上顎から、ザックスの不敵な笑みが覗く。翡翠竜はその巨体を揺らし、力なく崩れ落ちた。

 互いに逃げ場のない崖下での一騎打ちで生を拾ったのは、ザックスの方だった。
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