1 / 38
第一章 いざ、竜狩りへ
001 翡翠の竜に追われる少年
しおりを挟む
白髪の後ろ髪を揺らしながら、少年は逃げるように石橋を駆けていた。もともとは綺麗に舗装された石畳の橋も、長い年月を経て風化した今では、あまり駆けるのに適した状態にない。
砂利で足を滑らせながらも、少年は懸命に走っていた。周囲で流れ落ちる滝の音が絶えず少年の鼓膜を打ち、鳴り響く心臓の鼓動を宥めようとしている。
が、少年の焦燥は一向に収まらない。
少年の足音とは別に、大きな足音が徐々に近づいていた。大地を揺らすほどの衝撃が時折、少年の体を宙に浮かした。
少年はよろめきながらも、背後の大門から出来る限り遠ざかろうと必死に石畳の上を走った。
L字を描くように作られた橋の、ちょうど曲がり角にたどり着いたところで少年の背中に、石壁へ鉄球のような巨大で硬い物をぶつける衝撃音が響く。
少年の何倍も高い巨大で重厚な扉が突き破られたのだ。飛散した石の雨が少年へと襲いかかる。大小さまざまな石片が無作為に降り注ぎ、厚めの布だけあしらわれただけで硬い装甲のひとつもない少年の背中を橋へ打ちつけた。
「―――っ!」
少年は苦悶の表情を浮かべながらも、突っ伏したまま背中を丸めて後頭部を両手で覆い隠し石の雨をやり過ごした。
それが止むと、背後から極低音の叫び声が天を貫く。轟音に少年は慌てて耳を塞ぐと、自身の背後を反射的に振り返った。
大門を突き破った巨大な頭が鎌首をもたげ、少年を見下ろしている。群青色の瞳に、翡翠色の鱗で覆われた顔肌、こめかみの辺りには琥珀色の双角。
その容姿は、紛れもなく竜の頭部であった。
「あのでけぇ扉を頭突きでぶち抜いたってのか? くそったれ……っ!」
翡翠色の竜は唸り声を上げながら、左右に首を振った。その様は、扉から突き出した首が引き抜けずにもがいているように見える。
「はん、この間抜けっ! 格好の標的じゃねぇか」
今が好機と、少年は起き上がって腰に携えた大型の銃器を右手で引き抜いた。
まるで大剣のような見た目の銃器には革が巻かれたグリップがあり、握った両手を覆うように柄頭と銃身が金属で繋がっている。
銃身に刃はなく、魔力莢と呼ばれる弾を詰める弾倉が下部に備え付けられていた。グリップと銃身の間にはトリガー部分があり、トリガーを引けば大口を開けた銃口から魔力を凝集したエネルギー弾が打ち出される仕組みである。
少年は右手で引き抜いた銃器を左手に持ち替えると、腕まで覆う指ぬきグローブをはめた手でしっかりとグリップを握った。そのまま脇に挟み込み、大きな銃口を竜の方へと向ける。
「今度はとっておきをお見舞いしてやるぜ。覚悟しなっ!」
少年はほくそ笑むと、銃身の下部から空になった魔力莢を取り外した。空いた右手で腰につけた革製のポーチに指を滑らせ、素早く替えの魔力莢を取り出し装填。
グリップを脇にはさみながら、左手をトリガー部分へと移す。自身の額にかけたゴーグルをおろし、銃口を竜の額へと向け狙いを定めた。
「くたばりやがれぇぇぇぇっ!」
少年が左手でトリガーを引くと、銃口へ魔力が集まり紫色に輝きだす。密度を持ったエネルギーを十分に力を貯め込むと、光の球となり竜の額へ向け一直線に飛び出した。
竜の目が光の球を認識するのとほぼ同時。飛び出したエネルギー弾は爆音と共に紫色の粒子を飛び散らしながら、爆ぜた――。
砂利で足を滑らせながらも、少年は懸命に走っていた。周囲で流れ落ちる滝の音が絶えず少年の鼓膜を打ち、鳴り響く心臓の鼓動を宥めようとしている。
が、少年の焦燥は一向に収まらない。
少年の足音とは別に、大きな足音が徐々に近づいていた。大地を揺らすほどの衝撃が時折、少年の体を宙に浮かした。
少年はよろめきながらも、背後の大門から出来る限り遠ざかろうと必死に石畳の上を走った。
L字を描くように作られた橋の、ちょうど曲がり角にたどり着いたところで少年の背中に、石壁へ鉄球のような巨大で硬い物をぶつける衝撃音が響く。
少年の何倍も高い巨大で重厚な扉が突き破られたのだ。飛散した石の雨が少年へと襲いかかる。大小さまざまな石片が無作為に降り注ぎ、厚めの布だけあしらわれただけで硬い装甲のひとつもない少年の背中を橋へ打ちつけた。
「―――っ!」
少年は苦悶の表情を浮かべながらも、突っ伏したまま背中を丸めて後頭部を両手で覆い隠し石の雨をやり過ごした。
それが止むと、背後から極低音の叫び声が天を貫く。轟音に少年は慌てて耳を塞ぐと、自身の背後を反射的に振り返った。
大門を突き破った巨大な頭が鎌首をもたげ、少年を見下ろしている。群青色の瞳に、翡翠色の鱗で覆われた顔肌、こめかみの辺りには琥珀色の双角。
その容姿は、紛れもなく竜の頭部であった。
「あのでけぇ扉を頭突きでぶち抜いたってのか? くそったれ……っ!」
翡翠色の竜は唸り声を上げながら、左右に首を振った。その様は、扉から突き出した首が引き抜けずにもがいているように見える。
「はん、この間抜けっ! 格好の標的じゃねぇか」
今が好機と、少年は起き上がって腰に携えた大型の銃器を右手で引き抜いた。
まるで大剣のような見た目の銃器には革が巻かれたグリップがあり、握った両手を覆うように柄頭と銃身が金属で繋がっている。
銃身に刃はなく、魔力莢と呼ばれる弾を詰める弾倉が下部に備え付けられていた。グリップと銃身の間にはトリガー部分があり、トリガーを引けば大口を開けた銃口から魔力を凝集したエネルギー弾が打ち出される仕組みである。
少年は右手で引き抜いた銃器を左手に持ち替えると、腕まで覆う指ぬきグローブをはめた手でしっかりとグリップを握った。そのまま脇に挟み込み、大きな銃口を竜の方へと向ける。
「今度はとっておきをお見舞いしてやるぜ。覚悟しなっ!」
少年はほくそ笑むと、銃身の下部から空になった魔力莢を取り外した。空いた右手で腰につけた革製のポーチに指を滑らせ、素早く替えの魔力莢を取り出し装填。
グリップを脇にはさみながら、左手をトリガー部分へと移す。自身の額にかけたゴーグルをおろし、銃口を竜の額へと向け狙いを定めた。
「くたばりやがれぇぇぇぇっ!」
少年が左手でトリガーを引くと、銃口へ魔力が集まり紫色に輝きだす。密度を持ったエネルギーを十分に力を貯め込むと、光の球となり竜の額へ向け一直線に飛び出した。
竜の目が光の球を認識するのとほぼ同時。飛び出したエネルギー弾は爆音と共に紫色の粒子を飛び散らしながら、爆ぜた――。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる