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第15話 僕は行商人じゃない!?
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僕らはケーキ屋のテラス席で、あーでもないこーでもないと話し合った。結局、二刻ほど経っても良い案が浮かぶことはなかった。
あんまり長居してもお店に申し訳ないので、僕らは話を切り上げて『アマテラス』を後にした。
「結局、どうするか決まりませんでしたね……」
ラディアさんが申し訳なさそうに言った。こちらこそ、良い案が浮かばなくて申し訳ない気持ちだ。
「ごめん……方向性は何となく見えてきたんだけど。肝心の材料をどうするかが思い付かなくて……」
安価な材料で効力を上げるという方向で考えると、やっぱり青包蘭の代わりとして青喉草を使うことになるだろう。しかし、それだと『ライフポーションS』と同じだ。青喉草の濃度を上げて効果を強くするのも考えたけれど、副作用の懸念が強くなる。それに何より、そんな二番煎じなやり方では、あのフィークさんに勝てる気がしない。
「そうでしたら、とりあえず下準備だけでもしておきますか? どんな冒険へ行く場合でも、最低限持っていくべきアイテムとか装備とかっていうのがあるんですよ。何度か探検に行ったりしてると、何となくいつも使う物っていうのがあるんです」
へぇー、さすがラディアさん。冒険慣れしてるなぁ。
「それじゃあ、お願いするよ」
「はい、任せてください!」
そういってラディアさんは僕の右手を握る。僕はドキッとしてしまった。急にこういうボディタッチをしてくるから、いつも面をくらってしまう。ラディアさんは、それが自然なことであるように振舞っていた。
「さ、行きましょう。ハルガード君!」
僕はラディアさんに連れられて、武器防具屋に向かった。
「とりあえず用意すべきは、装備品ですね。行く場所が決まってれば特攻武器を買っておいたりするんですけど」
ラディアさんが、得意げに説明してくれる。何となくラディアさんが嬉しそうにしているので、僕も周りを見渡してみた。剣の種類も豊富そうに見えるんだけど、僕には違いがよく分からない。ラディアさんは、こういうのが好きなのかな。
「特に目的地も決まってないなら、単純に性能の高いものを持っておけば良いと思います。大体、どんな場所でも通用しますから」
なるほどねー。ご講釈に感嘆しながら、僕はラディアさんの後ろをついて行く。すると、左手側に全身鎧のフルプレートアーマーを見つけた。これはとても丈夫そうだな。
「でも、あんまりガッチリしたものだと結構重いし、動きづらいですよ」
ラディアさんがひょこっと横から覗き込んできた。
「そ、そうなんだ……。重いのは困るなぁ」
僕はあんまり身体が丈夫じゃないからな。丈夫そうなのを着込んだら安全かと思ったんだけれど。そういうものでも無いらしい。
「あんまり重いとピンチな時でも重くて逃げられなくなるし……。ハルガード君なら、こういうのが良いんじゃないですか?」
そう言ってラディアさんは、吊り下がっている胸当てを持ち出した。僕は、ラディアさんから金属製の胸当てを受け取る。結構軽い。
「合金で強度が高めですけど、軽い素材の物ですね。特に魔力的な付加もないので、値段もお手頃です。早速つけてみたらいかがですか?」
ラディアさんが奥にある試着室を指さした。なんか、ずっとラディアさんのターンって感じだな。僕は言われるままに試着室へ入ると、胸当てを付けてみた。お、案外しっくりくるぞ。
「うん! 似合ってます!」
「そ、そうかな?」
ラディアさんが褒めてくれる。けど、身を守る防具に似合ってるとか、そういうのあるのかな……?
「あと、靴も厚めの方が良いですね。薄めのファッション重視素材だとすぐ足が痛くなっちゃうし、怪我もしやすいですから」
そう言って、ラディアさんは具足のコーナーへ向かってしまった。手際がいいのは助かるけど、僕があんまりついていけてない。これでいいんだろうか?
そう思いながら、僕はラディアさんに言われるまま厚底のブーツと胸当てを購入した。気が付いたら、僕は着替えも済ませて店の外にいた。
「すっごく冒険者らしい格好になりましたよ、ハルガード君」
「そう、かな? ありがとう」
なんかよく分からないけど、これで良かったのかな。僕は自身の姿をショーウィンドウに映して見た。カーキ色の厚手服に、簡素な肩当と胸当て。ズボンも麻で出来た深緑色で、脚には厚底のブーツ。あとは防寒用にちょっとしたマント。
うん。きっと、最低限の装備が整ったんだと思う。これでいいんだろう。
僕はリュックサックを背負う。先を歩こうとするラディアさんがくるりと振り返って言う。
「さ、次はアイテムショップへ行きましょう!」
ラディアさんに手を引かれるまま、僕はアイテムショップへ向かった。
便利になった世の中だからか、この街にはアイテムショップが幾つかある。老舗の何でも屋みたいな道具屋もあれば、オシャレな回復アイテム専門店みたいなところもあった。今回、僕らが入ったのはダンジョンの探索道具専門店だった。
「探索に便利な道具を揃えておくと、冒険が楽になるんですよ」
そう言って、ラディアさんは僕とはぐれないように手を繋いでくれている。沢山の雑貨が所狭しと並んでいて、すれ違うのも困難なほどだった。
「すごいね、色んな物が置いてある。こんなに色々あると、どれが良いか悩んじゃうね……」
僕は置いてある商品から適当な物を手に取ってみた。
【カラーボール】
効能:色を付ける。
材料:黄檗
レアリティ:★
何に使うんだ、これ?
「それは、モンスターに投げつけてマーキングするんですよ。他にも、顔に投げつければ視界を奪えるし、モンスターによっては怒らせたりも出来ます」
ラディアさんが横から丁寧に解説してくれた。なるほど。色を付けるだけじゃないんだな。
「でも、そういうのは特定のモンスターを狩りたい場合とかに使うので、面白いですけどあんまり使いませんよ」
そうだね、ラディアさんの言う通りだと思う。僕も、あんまりコレが冒険の役に立つとは思わないな。ここには、玩具みたいな冒険用アイテムもいっぱいあるようだ。
「あ、これやっと入荷したみたいです! 買っておいた方が良いですよ、ハルガード君!」
ラディアさんが、陳列棚から茶色の羽根ペンのようなアイテムをひとつ取りだした。そのまま、ラディアさんが僕に手渡してくれる。僕が手に取って見ると、スキルが反応して効果を教えてくれる。
【ルク鳥の羽根】
効能:印を付けた場所に飛んでいける。一度使うと壊れてしまう。
レアリティ:★★
「へえ、これは便利そうだね」
「ちょっと値が張りますけど、常に持っておきたいアイテムのひとつですよ。すぐ品切れになるので、見つけた時に買っておいた方が良いと思います」
値段は、1本1000ルフか。たしかに、使い捨ての割には結構高いなぁ。でも、いつでもどこでも拠点に飛んで帰れるのはとても便利だ。これは買っておいた方が良さそうだな。
「なるほど、下準備ってこういう汎用性の高いアイテムを揃えて置くことなんだね」
何となく、ラディアさんの買い物傾向から冒険の準備について分かってきた気がする。どんな状況にも柔軟に対応出来そうな道具を揃えておくのか。
「そういう事です。目的地が決まってなくても、大体使えるなって思う物を買っておくと、便利ですよ」
「それじゃあ、あれも買っておいた方がいいかな?」
僕は他の雑貨とは離れた位置にあるショーケースを指さした。
「アレって……貴金属ですか?」
僕がそのコーナーへ向かっていくと、ラディアさんが首を傾げながらついてくる。
「うん。僕が読んだ本だと、貴金属は一般的に上流の貴族たちが価格を決めてるらしくて。大抵どこの街で売り買いしても大体同じ値段らしいんだ」
僕はショーケースに入っている金や銀などの貴金属を眺めながら言葉を続けた。
「それに加えて、貴金属が手に入りにくい地域では高値で買い取られることもあるらしくてさ。だから、お金の代わりにこういうのを持ち歩いておくのもいいんじゃないかなって。荷物も少なくなるし」
ラディアさんがハッとしたように、口に手をあてた。
「ハルガード君、凄いです! 私、そんな事考えたことも無かったです! そんな発想できるなら、行商人になってもいいんじゃないですか?」
いやー、冒険の片手間に物の売買はあってもいいと思うけど。行商人まではやらないかなぁ……。
あんまり長居してもお店に申し訳ないので、僕らは話を切り上げて『アマテラス』を後にした。
「結局、どうするか決まりませんでしたね……」
ラディアさんが申し訳なさそうに言った。こちらこそ、良い案が浮かばなくて申し訳ない気持ちだ。
「ごめん……方向性は何となく見えてきたんだけど。肝心の材料をどうするかが思い付かなくて……」
安価な材料で効力を上げるという方向で考えると、やっぱり青包蘭の代わりとして青喉草を使うことになるだろう。しかし、それだと『ライフポーションS』と同じだ。青喉草の濃度を上げて効果を強くするのも考えたけれど、副作用の懸念が強くなる。それに何より、そんな二番煎じなやり方では、あのフィークさんに勝てる気がしない。
「そうでしたら、とりあえず下準備だけでもしておきますか? どんな冒険へ行く場合でも、最低限持っていくべきアイテムとか装備とかっていうのがあるんですよ。何度か探検に行ったりしてると、何となくいつも使う物っていうのがあるんです」
へぇー、さすがラディアさん。冒険慣れしてるなぁ。
「それじゃあ、お願いするよ」
「はい、任せてください!」
そういってラディアさんは僕の右手を握る。僕はドキッとしてしまった。急にこういうボディタッチをしてくるから、いつも面をくらってしまう。ラディアさんは、それが自然なことであるように振舞っていた。
「さ、行きましょう。ハルガード君!」
僕はラディアさんに連れられて、武器防具屋に向かった。
「とりあえず用意すべきは、装備品ですね。行く場所が決まってれば特攻武器を買っておいたりするんですけど」
ラディアさんが、得意げに説明してくれる。何となくラディアさんが嬉しそうにしているので、僕も周りを見渡してみた。剣の種類も豊富そうに見えるんだけど、僕には違いがよく分からない。ラディアさんは、こういうのが好きなのかな。
「特に目的地も決まってないなら、単純に性能の高いものを持っておけば良いと思います。大体、どんな場所でも通用しますから」
なるほどねー。ご講釈に感嘆しながら、僕はラディアさんの後ろをついて行く。すると、左手側に全身鎧のフルプレートアーマーを見つけた。これはとても丈夫そうだな。
「でも、あんまりガッチリしたものだと結構重いし、動きづらいですよ」
ラディアさんがひょこっと横から覗き込んできた。
「そ、そうなんだ……。重いのは困るなぁ」
僕はあんまり身体が丈夫じゃないからな。丈夫そうなのを着込んだら安全かと思ったんだけれど。そういうものでも無いらしい。
「あんまり重いとピンチな時でも重くて逃げられなくなるし……。ハルガード君なら、こういうのが良いんじゃないですか?」
そう言ってラディアさんは、吊り下がっている胸当てを持ち出した。僕は、ラディアさんから金属製の胸当てを受け取る。結構軽い。
「合金で強度が高めですけど、軽い素材の物ですね。特に魔力的な付加もないので、値段もお手頃です。早速つけてみたらいかがですか?」
ラディアさんが奥にある試着室を指さした。なんか、ずっとラディアさんのターンって感じだな。僕は言われるままに試着室へ入ると、胸当てを付けてみた。お、案外しっくりくるぞ。
「うん! 似合ってます!」
「そ、そうかな?」
ラディアさんが褒めてくれる。けど、身を守る防具に似合ってるとか、そういうのあるのかな……?
「あと、靴も厚めの方が良いですね。薄めのファッション重視素材だとすぐ足が痛くなっちゃうし、怪我もしやすいですから」
そう言って、ラディアさんは具足のコーナーへ向かってしまった。手際がいいのは助かるけど、僕があんまりついていけてない。これでいいんだろうか?
そう思いながら、僕はラディアさんに言われるまま厚底のブーツと胸当てを購入した。気が付いたら、僕は着替えも済ませて店の外にいた。
「すっごく冒険者らしい格好になりましたよ、ハルガード君」
「そう、かな? ありがとう」
なんかよく分からないけど、これで良かったのかな。僕は自身の姿をショーウィンドウに映して見た。カーキ色の厚手服に、簡素な肩当と胸当て。ズボンも麻で出来た深緑色で、脚には厚底のブーツ。あとは防寒用にちょっとしたマント。
うん。きっと、最低限の装備が整ったんだと思う。これでいいんだろう。
僕はリュックサックを背負う。先を歩こうとするラディアさんがくるりと振り返って言う。
「さ、次はアイテムショップへ行きましょう!」
ラディアさんに手を引かれるまま、僕はアイテムショップへ向かった。
便利になった世の中だからか、この街にはアイテムショップが幾つかある。老舗の何でも屋みたいな道具屋もあれば、オシャレな回復アイテム専門店みたいなところもあった。今回、僕らが入ったのはダンジョンの探索道具専門店だった。
「探索に便利な道具を揃えておくと、冒険が楽になるんですよ」
そう言って、ラディアさんは僕とはぐれないように手を繋いでくれている。沢山の雑貨が所狭しと並んでいて、すれ違うのも困難なほどだった。
「すごいね、色んな物が置いてある。こんなに色々あると、どれが良いか悩んじゃうね……」
僕は置いてある商品から適当な物を手に取ってみた。
【カラーボール】
効能:色を付ける。
材料:黄檗
レアリティ:★
何に使うんだ、これ?
「それは、モンスターに投げつけてマーキングするんですよ。他にも、顔に投げつければ視界を奪えるし、モンスターによっては怒らせたりも出来ます」
ラディアさんが横から丁寧に解説してくれた。なるほど。色を付けるだけじゃないんだな。
「でも、そういうのは特定のモンスターを狩りたい場合とかに使うので、面白いですけどあんまり使いませんよ」
そうだね、ラディアさんの言う通りだと思う。僕も、あんまりコレが冒険の役に立つとは思わないな。ここには、玩具みたいな冒険用アイテムもいっぱいあるようだ。
「あ、これやっと入荷したみたいです! 買っておいた方が良いですよ、ハルガード君!」
ラディアさんが、陳列棚から茶色の羽根ペンのようなアイテムをひとつ取りだした。そのまま、ラディアさんが僕に手渡してくれる。僕が手に取って見ると、スキルが反応して効果を教えてくれる。
【ルク鳥の羽根】
効能:印を付けた場所に飛んでいける。一度使うと壊れてしまう。
レアリティ:★★
「へえ、これは便利そうだね」
「ちょっと値が張りますけど、常に持っておきたいアイテムのひとつですよ。すぐ品切れになるので、見つけた時に買っておいた方が良いと思います」
値段は、1本1000ルフか。たしかに、使い捨ての割には結構高いなぁ。でも、いつでもどこでも拠点に飛んで帰れるのはとても便利だ。これは買っておいた方が良さそうだな。
「なるほど、下準備ってこういう汎用性の高いアイテムを揃えて置くことなんだね」
何となく、ラディアさんの買い物傾向から冒険の準備について分かってきた気がする。どんな状況にも柔軟に対応出来そうな道具を揃えておくのか。
「そういう事です。目的地が決まってなくても、大体使えるなって思う物を買っておくと、便利ですよ」
「それじゃあ、あれも買っておいた方がいいかな?」
僕は他の雑貨とは離れた位置にあるショーケースを指さした。
「アレって……貴金属ですか?」
僕がそのコーナーへ向かっていくと、ラディアさんが首を傾げながらついてくる。
「うん。僕が読んだ本だと、貴金属は一般的に上流の貴族たちが価格を決めてるらしくて。大抵どこの街で売り買いしても大体同じ値段らしいんだ」
僕はショーケースに入っている金や銀などの貴金属を眺めながら言葉を続けた。
「それに加えて、貴金属が手に入りにくい地域では高値で買い取られることもあるらしくてさ。だから、お金の代わりにこういうのを持ち歩いておくのもいいんじゃないかなって。荷物も少なくなるし」
ラディアさんがハッとしたように、口に手をあてた。
「ハルガード君、凄いです! 私、そんな事考えたことも無かったです! そんな発想できるなら、行商人になってもいいんじゃないですか?」
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