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第13話 僕は菓子職人じゃない!?
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僕らはギルドを後にし、街へ繰り出していた。幸いにして、僕らの懐は暖かい。大体何でも買える状況だ。冒険の準備もあるけど、まずはフィークさんからの課題をこなさないといけないな。
「ハルガード君、ちょっとあそこ寄っていきませんか?」
ラディアさんが指した先は、オシャレなカフェテラスだった。
「あそこのケーキ、凄く美味しいんですよ。甘いものを食べたら良いアイディアが出るかもしれませんし。どうですか?」
なるほど。一理あるかもしれない。無闇にウィンドウショッピングをしててもしょうがないし。まずは、やる事をしっかり整理してから、買い物した方がいいもんね。
「それがいいね。やっぱり、冒険慣れしてる人がいると助かるなー」
ラディアさんの提案に、僕はうなづいて答えた。ラディアさんは、ぱぁーっと顔を明るくして嬉しそうだ。
「それじゃ、行きましょう!」
「あ、ちょっと!」
強引に手を引かれながら、僕はカフェ『アマテラス』に足を運んだ。
「ほら、見てください! あれもこれも美味しそうです! どれにしようか迷いますねー!」
キャッキャと黄色い声を上げてはしゃぐラディアさん。凄く楽しそうだ。それにしても、ここは他とは雰囲気が違うお店だな。
店内に入って真っ先に感じたのは、植物の香りだ。店内の壁面も木目調で、桜や松の枝が飾ってある。ショーケースには、緑や桃色のケーキが並んでいた。ディスプレイされているケーキ模型の断面には、まるで柘榴石に見紛う綺麗な小豆。本当に美味しそうだ。
「素敵なケーキ屋さんだね。ラディアさんはよく来るの?」
「いえ、結構お高い店なのであんまり来れないんですけど……今日は、お金に余裕がありますし、ハルガード君もいますから」
そう言ってラディアさんは、ほんのり頬を染めながら屈託のない笑みを僕に向ける。そう言われてみると、そうかも。僕は視線を値札に向けた。ケーキひと切れに2000ルフ。一般的な一食あたりの値段は500ルフ程度だから、およそ四倍の価格設定だ。おやつにこの値段は中々だよ。
「いや、凄いね。『クリオロ』とか『ライフコット』とか……ほとんどが高級な食材を惜しげもなく使ってる。多少安価な素材を使ってるものもあるけど、意匠を凝らし、匠の技が揮われて見事な色合いを演出してる。これはお高いわけだ」
僕には、このケーキの材料や製法までも見ることが出来てしまっていた。なまじ材料なんかが分かってしまうため、食べなくても何となく仄かに酸味があるのかなとか、癖のある苦味が売りなのかなとか。そんなことが想像出来てしまう。
僕はひとしきりショーケースの中を眺めると、ラディアさんに視線を戻した。あれ、何かちょっぴり残念そうな顔をしている? 僕、何か悪いことしたかな……?
「ハルガード君には、ケーキの材料なんかも見えるんですか?」
「え、うん。まあ……」
「凄いんですね、【薬識】って。でも、何でもかんでも見境なく分析できるって言うのも、ちょっぴり寂しいかもしれませんね」
寂しい、か……。そう思ったこと無かったけど、そういうものなのかな。そんな僕の考えをよそに、ラディアさんはショーケースを覗き込みながら言葉を続ける。
「なんて言いますか……想像の余地が少ないくて、寂しいなって思います。私なんかは、こうやって眺めてるだけで、このケーキはどんな味なのかなって考えたりだとか、実際に食べてみて見た目と中身のギャップに驚いたりとか出来ますけれど。ハルガード君は、そういう事を楽しめなさそうです」
僕はラディアさんの言葉にドキリとした。言われてみると、そうなのかもしれない。未知との遭遇は、想像を膨らませる余地がたくさんある。その余地にこそ楽しみがあるというわけだ。
僕にとって、ケーキはおやつというだけの代物だった。けれど、ラディアさんにとっては未知との出会いを楽しむツールなんだ。新しい商品、見慣れない商品というのは常に未知でいっぱいだ。それを一目で看破出来てしまうというのは、確かに寂しい事なのかもしれない。
「なんか……ごめんね」
僕は自然と謝罪の言葉をこぼしていた。ラディアさんの言葉の意味を理解したら、何か悪いことをしたような気になってしまった。
「あ、いえ、謝らないでください! そういうつもりで言ったんじゃないんです。こちらこそ、すみません!」
ラディアさんも僕に対して申し訳なくなったのか、あわてて謝ってきた。
それはそうと、まさか僕のスキルにそんな弱点があったなんて。思ってもみなかったな。
ラディアさんの視点は、僕にとっても大変興味深いものだった。
「えと、そろそろケーキを決めましょう。ハルガード君はどれにしますか? 私は『マッチャーズキ』にしようと思います」
「僕は『ライフコットランド』にするよ」
僕らは食べたいケーキを決めると、店員のお姉さんに注文した。
「それにしても、ハルガード君。材料も作り方も分かるんですから、そのスキルがあればケーキ屋さんにだって成れちゃうんじゃないですか? 羨ましいです」
「え、いやー、それは流石にちょっと……」
僕は、ラディアさんの提案に苦笑いで返した。材料と作り方が分かったとしても、僕には技術がないから。このケーキを作れる気はしないよ、さすがに……。
「ハルガード君、ちょっとあそこ寄っていきませんか?」
ラディアさんが指した先は、オシャレなカフェテラスだった。
「あそこのケーキ、凄く美味しいんですよ。甘いものを食べたら良いアイディアが出るかもしれませんし。どうですか?」
なるほど。一理あるかもしれない。無闇にウィンドウショッピングをしててもしょうがないし。まずは、やる事をしっかり整理してから、買い物した方がいいもんね。
「それがいいね。やっぱり、冒険慣れしてる人がいると助かるなー」
ラディアさんの提案に、僕はうなづいて答えた。ラディアさんは、ぱぁーっと顔を明るくして嬉しそうだ。
「それじゃ、行きましょう!」
「あ、ちょっと!」
強引に手を引かれながら、僕はカフェ『アマテラス』に足を運んだ。
「ほら、見てください! あれもこれも美味しそうです! どれにしようか迷いますねー!」
キャッキャと黄色い声を上げてはしゃぐラディアさん。凄く楽しそうだ。それにしても、ここは他とは雰囲気が違うお店だな。
店内に入って真っ先に感じたのは、植物の香りだ。店内の壁面も木目調で、桜や松の枝が飾ってある。ショーケースには、緑や桃色のケーキが並んでいた。ディスプレイされているケーキ模型の断面には、まるで柘榴石に見紛う綺麗な小豆。本当に美味しそうだ。
「素敵なケーキ屋さんだね。ラディアさんはよく来るの?」
「いえ、結構お高い店なのであんまり来れないんですけど……今日は、お金に余裕がありますし、ハルガード君もいますから」
そう言ってラディアさんは、ほんのり頬を染めながら屈託のない笑みを僕に向ける。そう言われてみると、そうかも。僕は視線を値札に向けた。ケーキひと切れに2000ルフ。一般的な一食あたりの値段は500ルフ程度だから、およそ四倍の価格設定だ。おやつにこの値段は中々だよ。
「いや、凄いね。『クリオロ』とか『ライフコット』とか……ほとんどが高級な食材を惜しげもなく使ってる。多少安価な素材を使ってるものもあるけど、意匠を凝らし、匠の技が揮われて見事な色合いを演出してる。これはお高いわけだ」
僕には、このケーキの材料や製法までも見ることが出来てしまっていた。なまじ材料なんかが分かってしまうため、食べなくても何となく仄かに酸味があるのかなとか、癖のある苦味が売りなのかなとか。そんなことが想像出来てしまう。
僕はひとしきりショーケースの中を眺めると、ラディアさんに視線を戻した。あれ、何かちょっぴり残念そうな顔をしている? 僕、何か悪いことしたかな……?
「ハルガード君には、ケーキの材料なんかも見えるんですか?」
「え、うん。まあ……」
「凄いんですね、【薬識】って。でも、何でもかんでも見境なく分析できるって言うのも、ちょっぴり寂しいかもしれませんね」
寂しい、か……。そう思ったこと無かったけど、そういうものなのかな。そんな僕の考えをよそに、ラディアさんはショーケースを覗き込みながら言葉を続ける。
「なんて言いますか……想像の余地が少ないくて、寂しいなって思います。私なんかは、こうやって眺めてるだけで、このケーキはどんな味なのかなって考えたりだとか、実際に食べてみて見た目と中身のギャップに驚いたりとか出来ますけれど。ハルガード君は、そういう事を楽しめなさそうです」
僕はラディアさんの言葉にドキリとした。言われてみると、そうなのかもしれない。未知との遭遇は、想像を膨らませる余地がたくさんある。その余地にこそ楽しみがあるというわけだ。
僕にとって、ケーキはおやつというだけの代物だった。けれど、ラディアさんにとっては未知との出会いを楽しむツールなんだ。新しい商品、見慣れない商品というのは常に未知でいっぱいだ。それを一目で看破出来てしまうというのは、確かに寂しい事なのかもしれない。
「なんか……ごめんね」
僕は自然と謝罪の言葉をこぼしていた。ラディアさんの言葉の意味を理解したら、何か悪いことをしたような気になってしまった。
「あ、いえ、謝らないでください! そういうつもりで言ったんじゃないんです。こちらこそ、すみません!」
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それはそうと、まさか僕のスキルにそんな弱点があったなんて。思ってもみなかったな。
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