6 / 12
物語
五話
しおりを挟む距離が縮まれば縮まる程に、相手への苛立ちが露になる。
そして距離を開ければ、また穏やかな時間が戻り、寂しくなって、の繰り返し。
仲良く居る事の方法を、誰かに教えて欲しかった。
どうやったら、ずっと、そんなに笑い合えるのか、って、思ってた。
「・・・」
修学旅行が終わって、いつも通りの授業風景に戻った頃。
俺は、蓮に、また、嫌がらせをした。
その理由は、また、嫉妬だった。
机の上にゴミ箱を置くだけの、まるで、ただの虐めのような。
蓮は、始め、戸惑っていたようだったけれど、俺は、蓮に構ってもらいたい一心で、その罪を自白した。
蓮は、俺に冷たい眼差しを向けるだけだった。
「・・・~♪」
一人。
今度は、音楽室で、ピアノを弾いていた。
蓮に依存していたのだけれど、その一件から、俺は、遠慮して、蓮の元に歩み寄ることを減らしていった。
もう、家にも行かなくなっていた。
だから、一人。
ひょんな邪心から、折角、優しくしてくれていた人を失ったのだった。
夏休みは、家に引き篭もり、テレビゲームをしまくっていた。
軽犯罪にも手を染めた。そして、手首は、まだ赤い。
胸の内側では、重たい苛立ちが積もっていた。
つまらない生活が、だらだらと流れていく。
外が晴れていても、なんにも、変わらない。
何だか、何でも良かった。どうなろうが。
「・・・」
諦める、ではない。
手放したが正しい。
元々、物欲が乏しかったのもある。
ここまで来たのだから、何が起きたって、どうでも良い。
救いの手すら、求めていなかった。
「及川。高校は、決めたか?」
先生はね、そうやって、俺に手を差し伸ばす。
これからも続くその先を思っての、言葉だった。
違って、俺は、俺の人生云々ではなく、ただ、寂しい感情を補う為に、先生と話していた。
「行かない」
そりゃあ、面倒臭かっただろうに。
「・・・また聞く」
先生は、諦めずに、仕事を全うした。
行かない。やらない。だるい。面倒臭い。
腑抜けた俺に、とにかく、しゃんと立てと、言葉を変えて、サポートに回る一方だった。
何にもしないと、何もしていないのに募るその苛立ちから、トイレのガラスを割ったり、非行ばかりが目立つようになる。
それは、楽しいのではない。誰にとっても、迷惑なだけなのだ。自分にすら。
「・・・。」
しっかりしろよ、と。
言葉で足りないなら、暴力に表れる。
それは、自分が非行に走ると、仕方が無い。
そう言う世界に生きているような。
親兄弟、それぞれに、暴力を受ける事にもなった。
「・・・、痛いなぁ」
そんな声を拾ってくれる人は、居ない。
当たり前だからだ。殴られて、蹴られるのが。
ただただ、募るだけ。逆恨みが。それでも手放せない、甘えが。
そりゃあ、怖い。普通に。
頑張って生きる方が、よっぽど楽。
「・・・・・・」
今からでも、間に合うだろうか。
そんな、希望を見出して、翌日、暫くして、また、問い掛けて来た先生の声に、俺は、コクコクと頭を頷かせた。
「行くか?定時制高校なら、お前でも頑張れるはずだよ」
中学の頃の勉強なんて、何一つしていない。
小学生までの勉学しか出来ていない俺でも、頑張れば、何とかなるって、言われたから。
「うん、頑張る」
ピアスは、マスクで隠して、常に着ていたジャージを、制服に変えた。
授業を受ける努力をして、ついていけていなかろうが、ノートを取り、分かるところは、狡賢い頭を働かせて解いていった。
解き方を教師に聞くと言う正解は、選ばなかったけれど、何とか、俺の思いは、伝わったようだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる