18 / 19
第4章
3,「ひだまり」
しおりを挟む
実咲は俯いて歩いていた。その手で涙を拭いながら、目を赤くしている。
「実咲……だめだよ手で擦ったら」
俺はハンカチを取り出して実咲の目元にあてる。泣き顔なんてみたくないよ、実咲。
「ご、めんなさい。ショックで」
「ううん。わかるよ、その気持ち」
好きな人の涙はこんなにも辛いんだ。そんな当たり前を俺は。
俺はしゃがんで「乗って」と言った。実咲は戸惑いながらも、俺の背中に身を預ける。重くない?と実咲は聞く。「重くないよ」と俺は返事をする。
「なんで陽くんはそんなに優しいの?」
「実咲だからだよ」
「あ、呼び捨て」
そういえば実咲は、照れたように笑って俺の首に擦り寄る。
「……あったかい」
実咲は俺の肩に顔を乗せた。こんなに素直で可愛い子を、とまだ俺はあいつのことを許せていない。
「みてよほら、菜の花」
「ねえ、知ってる?菜の花って食べられるんだよ」
「さっき見たよー」
眠くなってきたのか、実咲の声はうっとりとしてきた。
帰りのあぜ道は、なぜだか行きよりも、平らで足取りが軽かった。
駅に着いて俺は実咲に声をかける。実咲はまだ寝ぼけ眼。実咲の頬を摘む。
「おーきーて、みーさーきー」
実咲は少しずつ目を覚ました。手を引いて、階段を上る。駅のフォームは六番線。
車内は空いていて、遠くの席に人が一人座っているだけだった。
実咲の目尻から涙がやんでいた。
「ごめんね、何から何まで」
「いいよ、それにしてもよかった」
「どうして、何がそれにしても?」
俺は実咲を見る。
「清々しいよ、今の実咲の目」
実咲は目を丸くして瞳を揺らせた。そしてたんぽぽの花のように、笑った。
いくつもの駅を越えた。俺は車窓の淵に手をかけて、外を見ていた。
「ねぇ、……実咲」
そう言って振り向いて肩の重みに気付いた。起こさないように、そっと座り直して頬を触る。幼子のように寝息を立てて眠る俺の彼女。
彼女の唇に、そっと触れたそキスは、とても甘くて柔らかくて。俺は春の陽射しに、目を閉じた。
「実咲……だめだよ手で擦ったら」
俺はハンカチを取り出して実咲の目元にあてる。泣き顔なんてみたくないよ、実咲。
「ご、めんなさい。ショックで」
「ううん。わかるよ、その気持ち」
好きな人の涙はこんなにも辛いんだ。そんな当たり前を俺は。
俺はしゃがんで「乗って」と言った。実咲は戸惑いながらも、俺の背中に身を預ける。重くない?と実咲は聞く。「重くないよ」と俺は返事をする。
「なんで陽くんはそんなに優しいの?」
「実咲だからだよ」
「あ、呼び捨て」
そういえば実咲は、照れたように笑って俺の首に擦り寄る。
「……あったかい」
実咲は俺の肩に顔を乗せた。こんなに素直で可愛い子を、とまだ俺はあいつのことを許せていない。
「みてよほら、菜の花」
「ねえ、知ってる?菜の花って食べられるんだよ」
「さっき見たよー」
眠くなってきたのか、実咲の声はうっとりとしてきた。
帰りのあぜ道は、なぜだか行きよりも、平らで足取りが軽かった。
駅に着いて俺は実咲に声をかける。実咲はまだ寝ぼけ眼。実咲の頬を摘む。
「おーきーて、みーさーきー」
実咲は少しずつ目を覚ました。手を引いて、階段を上る。駅のフォームは六番線。
車内は空いていて、遠くの席に人が一人座っているだけだった。
実咲の目尻から涙がやんでいた。
「ごめんね、何から何まで」
「いいよ、それにしてもよかった」
「どうして、何がそれにしても?」
俺は実咲を見る。
「清々しいよ、今の実咲の目」
実咲は目を丸くして瞳を揺らせた。そしてたんぽぽの花のように、笑った。
いくつもの駅を越えた。俺は車窓の淵に手をかけて、外を見ていた。
「ねぇ、……実咲」
そう言って振り向いて肩の重みに気付いた。起こさないように、そっと座り直して頬を触る。幼子のように寝息を立てて眠る俺の彼女。
彼女の唇に、そっと触れたそキスは、とても甘くて柔らかくて。俺は春の陽射しに、目を閉じた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
君と、もみじ
Mari
恋愛
高3の奏が片思いするのは、やたらと構ってくる一つ年下の響。
彼女持ちの響だが、いつも期待させるようなことばかり。そんな時、大好きだった元彼の小林先輩が目の前に現れて…。
響と小林先輩の間で揺れ始めた心。
奏の想いは…?
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる