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第4章
2.「決別」
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「この気持ち?」
そいつはタバコを灰皿の淵に二回ほど叩きつけてその灰を落とした。実咲は頷く。
「わ、わたし。どうしても京一のことが忘れられなくて。何も見えてなかった。でも、陽くんが目の前に現れて」
実咲の手が震える。その手に、手を重ねた。実咲はその手を握り返す。
「陽くん……ううん。陽人は、好きっていってくれたんだ。断っても、好きっていってくれて」
そいつは、灰皿にタバコの灰を擦り付ける。
「でも、忘れられなくて。京一のこと。だから……」
言い淀んだ様子で、実咲は俺のことを見た。俺は見つめ返す。
「今日京一に会って、気持ちが落ち着いた。ありがとう、それだけなんだ」
そいつは、わかったように顔を縦に振った。そして「実咲、トイレ行ってこい」と言った。実咲は首を傾げながらも、大人しく従った。
扉が閉まる音が聞こえると、そいつは話しかけてきた。
「お前さ、あんな女のどこがいいの?重いだけだろ」
その言葉に俺は幻聴でも聞こえているのかと思った。俺は耳を触る。その手は温かい。
「実咲は、可愛いですよ。ふわふわしてるけど、しっかりとした芯は持っていて。寝顔がすごい可愛い」
そいつは右の眉を上げて、煙を吹いた。時計の針の音が、やけに部屋に響いていた。
「お前変わってるな、よくあんな女と」
「……は?」
できるものならそこにある酒の瓶で頭をやってしまいたくなったが、実咲の元彼氏という建前もあって出来なかった。
「なぜ?」
俺がそう聞くとそいつは笑って「だってそうじゃん」と言い、続ける。
「一番付き合い長かったんだけどさ、料理作りに来たりマフラー編んだりしてきてさ重いし、飽きたんだよな」
「俺は、重いとは思いませんけど」
「嘘だって、絶対重いだろ」
口論になりそうになる最中に、ばさり、と音がする。顔から血の気が引く。
「実咲……」
俺は立ち上がって駆け寄り実咲の両肩に手を置いた。「聞いてた、の?」
実咲は答えない。そいつをずっと見つめている。そいつはタバコを吸っていた。
「見んなよ」
そう言われると実咲は目を伏せた、そのまぶたは力んでいた。
「一年間も付き合ってたのに、そういう風に思ってたの?」
俺はそれをただ見ていることしかできなかった。涙は床に滴り、俺は目を逸らした。
「実咲、もう帰ろう」
俺はそういうが、実咲は続ける。
「全部、嘘だったの?好きっていうのも全部?」
そいつは聞く様子もなくタバコを吸って口から離すと、吐き捨てるように言った。
「ああそうだよ、嘘だよ嘘」
憤りが体から湧き上がり、拳を握る手が震える。思わず殴りかかって腕を、実咲が制した。
「そう……」
実咲は唇を噛み締めて、肩を震わせる。そして、駆け出す。俺も追いかけて、靴を履き外へ出た。
そいつはタバコを灰皿の淵に二回ほど叩きつけてその灰を落とした。実咲は頷く。
「わ、わたし。どうしても京一のことが忘れられなくて。何も見えてなかった。でも、陽くんが目の前に現れて」
実咲の手が震える。その手に、手を重ねた。実咲はその手を握り返す。
「陽くん……ううん。陽人は、好きっていってくれたんだ。断っても、好きっていってくれて」
そいつは、灰皿にタバコの灰を擦り付ける。
「でも、忘れられなくて。京一のこと。だから……」
言い淀んだ様子で、実咲は俺のことを見た。俺は見つめ返す。
「今日京一に会って、気持ちが落ち着いた。ありがとう、それだけなんだ」
そいつは、わかったように顔を縦に振った。そして「実咲、トイレ行ってこい」と言った。実咲は首を傾げながらも、大人しく従った。
扉が閉まる音が聞こえると、そいつは話しかけてきた。
「お前さ、あんな女のどこがいいの?重いだけだろ」
その言葉に俺は幻聴でも聞こえているのかと思った。俺は耳を触る。その手は温かい。
「実咲は、可愛いですよ。ふわふわしてるけど、しっかりとした芯は持っていて。寝顔がすごい可愛い」
そいつは右の眉を上げて、煙を吹いた。時計の針の音が、やけに部屋に響いていた。
「お前変わってるな、よくあんな女と」
「……は?」
できるものならそこにある酒の瓶で頭をやってしまいたくなったが、実咲の元彼氏という建前もあって出来なかった。
「なぜ?」
俺がそう聞くとそいつは笑って「だってそうじゃん」と言い、続ける。
「一番付き合い長かったんだけどさ、料理作りに来たりマフラー編んだりしてきてさ重いし、飽きたんだよな」
「俺は、重いとは思いませんけど」
「嘘だって、絶対重いだろ」
口論になりそうになる最中に、ばさり、と音がする。顔から血の気が引く。
「実咲……」
俺は立ち上がって駆け寄り実咲の両肩に手を置いた。「聞いてた、の?」
実咲は答えない。そいつをずっと見つめている。そいつはタバコを吸っていた。
「見んなよ」
そう言われると実咲は目を伏せた、そのまぶたは力んでいた。
「一年間も付き合ってたのに、そういう風に思ってたの?」
俺はそれをただ見ていることしかできなかった。涙は床に滴り、俺は目を逸らした。
「実咲、もう帰ろう」
俺はそういうが、実咲は続ける。
「全部、嘘だったの?好きっていうのも全部?」
そいつは聞く様子もなくタバコを吸って口から離すと、吐き捨てるように言った。
「ああそうだよ、嘘だよ嘘」
憤りが体から湧き上がり、拳を握る手が震える。思わず殴りかかって腕を、実咲が制した。
「そう……」
実咲は唇を噛み締めて、肩を震わせる。そして、駆け出す。俺も追いかけて、靴を履き外へ出た。
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