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第4章
1,「タバコの煙」
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日のあたりの良いあぜ道だった。都会にもこんな場所があるのかと、思いながら実咲を振り返る。
実咲は土から顔を出す芽や時々咲いている菜の花を、懐かしそうに見ていた。
「田舎なんだね」
「うん、いい所でしょう?」
「……そうだね」
やっと心にきた春だった。それまでは寒すぎて、思わずため息を漏らしていたのに。
静かだった。人のざわめきも、視線もない。ただ風に草木が擦れ合う音が聞こえていた。
元彼の家は居並ぶ家々を避けるように存在していた。小屋のようなひっそりとした家だった。
「実咲、押せる? 」
俺がそう言えば実咲は頷き震える手でインターホンを、押した。実咲と二人で、そいつが出てくるのを待つ。音沙汰がないので不安になったが、そいつはちゃんと出てきた。
「……誰?」
そいつは俺をみやり、実咲に怠そうな視線を向けた。無造作でぼさぼさとした頭だった。だが、それにはどこか色気があり成人男性のそれだった。
「初めまして、成瀬 陽人です」
「なんだ、彼氏?」
急に優しげな目をして、実咲を見た。実咲は顔を赤くして、頷く。そいつは、「へぇ」と言って俺を頭の先から足元まで見た。
「年下、ね」
まあ、入れよとそいつは家の奥に入っていった。そいつの後ろをついて靴を脱ぎ上がる。
狭い廊下を歩き、居間に通された。真ん中にダイニングテーブルがあり、壁に寄せるようにレコードや雑誌が積まれていた。
「そんで、何しにきた?」
タバコの煙が、部屋に充満した。俺はむせて咳払いをする。俺は口を開こうとしたが、実咲の声に遮られた。
「京一に、会いにきたの」
「へえ、どうして」
「この気持ちに、決着をつけたいから」
そいつは、深く息を吸って灰色の煙を出した。そのタバコを、灰皿に、押し付ける。
実咲は土から顔を出す芽や時々咲いている菜の花を、懐かしそうに見ていた。
「田舎なんだね」
「うん、いい所でしょう?」
「……そうだね」
やっと心にきた春だった。それまでは寒すぎて、思わずため息を漏らしていたのに。
静かだった。人のざわめきも、視線もない。ただ風に草木が擦れ合う音が聞こえていた。
元彼の家は居並ぶ家々を避けるように存在していた。小屋のようなひっそりとした家だった。
「実咲、押せる? 」
俺がそう言えば実咲は頷き震える手でインターホンを、押した。実咲と二人で、そいつが出てくるのを待つ。音沙汰がないので不安になったが、そいつはちゃんと出てきた。
「……誰?」
そいつは俺をみやり、実咲に怠そうな視線を向けた。無造作でぼさぼさとした頭だった。だが、それにはどこか色気があり成人男性のそれだった。
「初めまして、成瀬 陽人です」
「なんだ、彼氏?」
急に優しげな目をして、実咲を見た。実咲は顔を赤くして、頷く。そいつは、「へぇ」と言って俺を頭の先から足元まで見た。
「年下、ね」
まあ、入れよとそいつは家の奥に入っていった。そいつの後ろをついて靴を脱ぎ上がる。
狭い廊下を歩き、居間に通された。真ん中にダイニングテーブルがあり、壁に寄せるようにレコードや雑誌が積まれていた。
「そんで、何しにきた?」
タバコの煙が、部屋に充満した。俺はむせて咳払いをする。俺は口を開こうとしたが、実咲の声に遮られた。
「京一に、会いにきたの」
「へえ、どうして」
「この気持ちに、決着をつけたいから」
そいつは、深く息を吸って灰色の煙を出した。そのタバコを、灰皿に、押し付ける。
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