いけないですか

第３章

3,「もう、いらないや」

「触るなよ」

　俺がそういうと、金髪ロングは何か信じられないものを見たような顔をした。

「え、どうしたの？陽くん」
「あー、その呼び方も気持ち悪い」

　金髪ロングは傷付いた顔をしたが、俺の知ったところではない。

　ただ、嫌気がさしただけだった。俺を取り巻く環境にも、そして俺自身にも。

「おいおい！どうした陽人」

　友人Bが駆けてくる。

「どうもこうもしねーよ」
 
　周りがざわつき、いつのまにか聴衆が湧いていた。

「ほんと、お前どうした？おかしいぞ」

　この日だけは耐えれなかった。耳の近くで蚊がなくような不快感を感じた。

「可笑しい？誰か知らないけど、これが俺だよ」

　Bの顔に血が上り、俺の襟首を掴む。

「お前、みんなの前で恥かかせやがって」
「知らねー、お前が影薄いからだろ」
「なんだと？！」

　ああ、これが現実だ。どうせみんな、俺の内面なんて見ていなかったんだ。

　そんな騒ぎを聞きつけたのか、西村が背後から入り込んできた。

「成瀬」

「あ、西村」

　俺は椅子から立ち上がった



「何してんの、成瀬」

　屋上で西村は珍しく、本も何も持たずに俺を見た。

「いいんだよ、もう」
「まあ、精々した顔してるよ」
「ああ、清々しいよ」

　西村はトランプを引いた。あ、ジョーカー。

「勝った」

　俺が得意げに言うと、西村は不思議そうにトランプを見ていた。

「俺さ、西村がいてよかったと思ってるよ」
「なに、気持ち悪い」
「ひでえ！」

　俺は笑い転げた。雲が一つもない快晴。暖かな日和ひより。

「あー、これが青春か」
「何言ってんの、頭大丈夫？」
「またまた、そう言って嬉しいくせに」

　

 暖かな陽光に、しずかに目を閉じた。