8 / 19
第2章
5,「教えてくださいよ、先輩」
しおりを挟む
「映画、凄かったね陽くん」
実咲は、足取り軽く道を歩いていた。空は夕焼け空になっていた。俺たちいつも夕焼け、見てるよな。
手と手は、指を絡めて握りあっている。
「先輩、泣いてたでしょ」
からかい半分に言うと、実咲の顔が赤くなった。
「もう、それは言わないお約束!」
「はは、なにそれ」
可愛いな、この女の子。感受性、強いんだな。
「今回の映画、陽くんはどう感じた? 」
不意に実咲に言われて、俺は考える。
「うん。難しいことは言えないけど、みんな懸命に生きてるんだって思った。厳しい環境で、ひたすら生きてるんだなって。」
実咲は空の方に顔を向けながら歩いて、俺の方を見る。
「私はね、狼が大好きなの。強くて、果敢で、孤高な狼が」
「狼か、確かにかっこいいかもね」
「うん、かっこいいの。」
含みのある言い方だなと、思った。なぜ、そんなに悲しい顔するんだ。
「先輩、見てよ空」
俺は、空に指を向けて実咲の視線を逸らす。「うん、空だね」と実咲は言うがそうじゃない。
「俺ね先輩のおかげで夕焼けが好きになったんだ。先輩と見るようになったら綺麗だなって、思い始めた」
実咲は俺を見て、まだ不思議そうにしている。俺は、「だから」と付け足す。
「先輩のこと、もっと教えてほしい。そしたら、俺の世界が変わる気がするから」
実咲は目を大きくした。そして、頬に伝う涙。「なんで」実咲の声は震えている。
「なんで、そんなに真っ直ぐに」
実咲は大粒の涙を流し始めた。俺は実咲の腕を引いてベンチに座らせると、やわりと抱きしめた。
「先輩、泣いてる」
俺は、実咲の小さな肩に顔をのせた。
か細い声で、実咲は何かを話し始める。
「なんで、なんでそんなに向き合ってくれるの」
「好きだからだよ」
俺の声も、震えていた。好きな女の泣き顔って、こんなに胸が締め付けられるもんなんだな。
「俺のこと好きになって……実咲」
掠れるような声だった。実咲は胸の中で、声も出さず泣いた。
「やっぱり、だめだよ……あの人のこと忘れられない。」
そのあと、実咲は何かを言おうとしたが、俺が遮った。
「先輩、俺のこと好きになって。少しずつ、少しずつでいいから。そしたら、先輩は俺の隣で笑えるようになるから」
俺は、情けなかった。目の前で好きな女が泣いてるってんのに、抱きしめることしかできないのだから。
実咲は、足取り軽く道を歩いていた。空は夕焼け空になっていた。俺たちいつも夕焼け、見てるよな。
手と手は、指を絡めて握りあっている。
「先輩、泣いてたでしょ」
からかい半分に言うと、実咲の顔が赤くなった。
「もう、それは言わないお約束!」
「はは、なにそれ」
可愛いな、この女の子。感受性、強いんだな。
「今回の映画、陽くんはどう感じた? 」
不意に実咲に言われて、俺は考える。
「うん。難しいことは言えないけど、みんな懸命に生きてるんだって思った。厳しい環境で、ひたすら生きてるんだなって。」
実咲は空の方に顔を向けながら歩いて、俺の方を見る。
「私はね、狼が大好きなの。強くて、果敢で、孤高な狼が」
「狼か、確かにかっこいいかもね」
「うん、かっこいいの。」
含みのある言い方だなと、思った。なぜ、そんなに悲しい顔するんだ。
「先輩、見てよ空」
俺は、空に指を向けて実咲の視線を逸らす。「うん、空だね」と実咲は言うがそうじゃない。
「俺ね先輩のおかげで夕焼けが好きになったんだ。先輩と見るようになったら綺麗だなって、思い始めた」
実咲は俺を見て、まだ不思議そうにしている。俺は、「だから」と付け足す。
「先輩のこと、もっと教えてほしい。そしたら、俺の世界が変わる気がするから」
実咲は目を大きくした。そして、頬に伝う涙。「なんで」実咲の声は震えている。
「なんで、そんなに真っ直ぐに」
実咲は大粒の涙を流し始めた。俺は実咲の腕を引いてベンチに座らせると、やわりと抱きしめた。
「先輩、泣いてる」
俺は、実咲の小さな肩に顔をのせた。
か細い声で、実咲は何かを話し始める。
「なんで、なんでそんなに向き合ってくれるの」
「好きだからだよ」
俺の声も、震えていた。好きな女の泣き顔って、こんなに胸が締め付けられるもんなんだな。
「俺のこと好きになって……実咲」
掠れるような声だった。実咲は胸の中で、声も出さず泣いた。
「やっぱり、だめだよ……あの人のこと忘れられない。」
そのあと、実咲は何かを言おうとしたが、俺が遮った。
「先輩、俺のこと好きになって。少しずつ、少しずつでいいから。そしたら、先輩は俺の隣で笑えるようになるから」
俺は、情けなかった。目の前で好きな女が泣いてるってんのに、抱きしめることしかできないのだから。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる